堀内恒夫監督とともに苦難を乗り越えてゆくスレ20

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643代打名無し@実況は実況板で
西暦2030年。東京はJR新橋駅の近く。
今は取り壊しを待つ元・日本テレビタワーが見下ろすこの街は、30年前とまったく変わらない。
昼夜の区別なくサラリーマンが行き交う忙しい街だ。
そんな街のガード下にあるみすぼらしい飲み屋の戸を、がんがんと叩く男がいる。
店の主人がランニング姿でしぶしぶ出てくる。
「やっぱ、あんたか」
「おう!俺だよ。青天の霹靂だよ!!」
右の首筋に大きなホクロのあるその老人は、握った右手をぶるぶる震わせながら差し出す。
「ああ、ダメダメ、あんたのツケ一体いくら溜まってると思ってんの?
 もうこれからは現金持ってこないとダメだよ」
「きょ、今日の時点でだろ?す、数字上のことだろ?ま、まあ、これ取っとけよ」
ぶるぶる震える手に、大事そうに握られていたのは、
かつてプロ野球界の頂点に君臨していた読売ジャイアンツのユニフォームだった。
「お、お、俺の、た、た、宝物だよ。お、俺、ドッ、ドラフトでな、1位だったんだぜ」
「ふん、何言ってんだか、どうせレプリカだろ」
主人は老人の腕を蹴る。ユニフォームは風に乗ってドブに落ちる。
「な、な、なにするんだよ。おっ、俺はな、い、今まで黙ってたけどな、
 実は巨人V9時代のエ、エースだったんだよ。だ、大スターだったんだよ、本当だよ」
「馬鹿も休み休み言ってくれよ。だいたいな、今どき巨人なんて犬も食わねえよ」
「そっ、そりゃあんた、考えがヘボ過ぎる!犬とかそういう問題じゃない!
 そっ、それになっ、む、昔は俺、かっ、監督もやってたんだぞ。現場監督じゃないぞ」
主人はもう取り合わず、店の戸をぴしゃりと閉める。
老人は軽く舌打ちした後ドブに腕をつっこんでユニフォームを拾おうとしたが、
他の何かの感触を得たのかユニフォームそっちのけで泥まみれの腕を上げる。
その手には硬貨が握られていた。
「ひゃっ、ひゃっ、百円だあ」
老人は目を輝かせて嬉しそうにつぶやくと、人ごみの中へと消えていった。