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代打名無し:
「悪いけどさ、ピッチャーデニーは草野球かなんかでやってくれないかな」と僕は
きっぱりと言った。
「それやられると試合に負けちゃうんだ」
「でももう8回裏だよ」と彼は信じられないという顔をして言った。
「知ってるよ、それは。8回裏だろ? 8回裏は僕にとってはまだ戦っている時間
なんだ。どうしてかは説明できないけどとにかくそうなってるんだよ」
「駄目だよ。草野球でやるとチームの人から文句がくるんだ。ここならいつも最下位
だし、誰からも文句はこないし」
「じゃあ野球盤でやりなよ。畳の上で」
「それも駄目なんだよ。ぼ、ぼ、僕のデニーはアメリカ人とのハーフで畳が苦手だし、
し、神経質でつらい環境だとすぐ動揺しちゃうし、ぼくもデニーがいないと采配って
できないんだよ」
確かに彼のデニーはひどく神経質ですぐに動揺してしまうし、一方彼の采配もデニーが
いないと成り立たないし、もう監督を変えるしかなかった。やれやれ、と僕は思った。
「じゃあ歩み寄ろう」と僕は言った。「ピッチャーデニーはやってもかまわない。その
かわり大事な場面で使うのはやめてくれよ。あれ、かならず逆転されるから。それで
いいだろ?」
「ぎゃ、逆転?」と彼はびっくりしたように訊きかえした。「逆転ってなんだい、それ?」
「逆転といえば逆転だよ。押し出し死球だったり走者一掃タイムリーだったりサヨナラ
負けだったりするやつだよ」
「そんなのないよ。ぼ、僕のデニーはいつも抑えてるよ」
僕の頭は痛みはじめた。