<新宿・猛虎会事務所>
玄関前に停まっている1台のリヤカー屋台。暖簾には『ラーメン金本亭』と染め抜いてある
金本 「…さてと。仕込みも終わったしそろそろ出発するかな」
桧山 「あ、もう出られますか。オイみんなー!金本さんの初出勤やで〜。オミオクリオミオクリー」
事務所の中に向かって呼びかける桧山。ぞろぞろと中から出てくる組員達
桧山 「みんな揃ったな。…あれ、今岡は?」
関本 「今岡さんなら、今日はお友達と会う約束してるとかで出かけたピヨよ」
桧山 「あ、そうなんか。では…コホン。(咳払い)
えー、『ラーメン金本亭』の開店を祝い、そして今後の商売繁盛を祈って組員一同で万歳三唱ー!」
一同 「バンザーイ!! バンザーイ!! バンザーイ!!」屋台を囲んで万歳三唱する組員達
濱中 「開店おめでとうございますナリ〜」
藤本 「金本さんの作るラーメンウマー。だから商売繁盛間違いなしウマー。俺も焼き鳥屋台出したいマズー」
矢野 「しかし悪いね金もっちゃん〜。
この近辺に、店を出すのに丁度いい物件がなかったからって屋台引かせることになっちまって」
実は組の方に店舗の購入資金がなかっただけなのだがそれは言うに言えない矢野
金本 「まぁええことよ。初心に帰って屋台やるってのもなかなかオツなもんだ」笑う金本
下柳 「ワシも、金本さんから軽トラ屋台作ってくれって頼まれとったのに
間違えてリヤカー屋台作ってしもうてスマンカッタでしたな。
なんせ、電話で注文受けたときワシ泥酔中やったもんで。エヘヘ」頭を掻く下柳
金本 「……まぁええことよ」
内心含むところはあるものの、相手が下柳ではお互い無事に済まなさそうなのでグッとこらえる金本
金本 「じゃあ行って来る。俺が留守の間事務所を頼むぞ」リヤカーを引いて歩き出す金本
<新宿・駅前広場>
金本 「…さてと、ここらで店開きするかな」屋台を引くのをやめて開店準備をする金本
金本 「しかし重いなこの屋台は…一体何kgあるんだ?オレジャナカッタラ ウゴカナカッタダロウナ
ちょっと引いてきただけなのにもう汗だくだよ。あー、暑い暑い」
暑さのあまり思わず上半身裸になる金本。おかげで客が全く寄りつかない
金本 「うーん、さっぱり客が来ないな。まあ開店初日なんてこんなもんか?ガマンガマン」
客が来ない理由に気づいていない金本。すると3人の男が屋台にやって来る
今岡 「ヒマそうモナね金本さん。丁度通りかかったんで食べに来たモナよ。トリアエズ フクキテホシイモナ」
金本 「おう、今岡じゃないか!お前が最初のお客さんだよ。
…ん、そっちのお2人さんは?」今岡の後ろにいる小柄な男と目の細い男を見て尋ねる金本
今岡 「この2人は、モナとは義兄弟の契りを結んだ間柄なんだモナ。
小さいのはナヴェ、細目のはヘナギっていうモナ。こちら金本さんモナ」金本を2人に紹介する今岡
渡辺 「人に紹介するのにアダ名はやめて欲しいモナ。こんにちは金本さん、モナは渡辺って言いますモナ」
柳沢 「モナは柳沢ですモナ。モナの父ちゃんも富山でラーメン屋やってるんだモナ」
今岡 「みんな、モナ達3人のことを『ヘタレトリオ』なんて呼ぶんだモナ。シツレイシチャウ」
金本 「これはこれはご丁寧にどうも。…コイツラモ「モナ」シャベリナノカ?
さあさあ、3人とも席にどうぞ」渡辺・柳沢の喋り方に違和感を覚えつつも席を勧める金本
渡辺 「さーてと、何を頼もうモナ…モ、モナァァァッ!?」ドッシーンという地響きと共に聞こえる渡辺の悲鳴
金本 「ど、どうしましたお客さん!?」お冷やを用意していたが慌てて顔を上げる金本
渡辺 「イスに腰掛けようとしたらイスから落ちちゃったモナ。ヤラカシチャッタモナ」
今岡 「相変わらずモナねナヴェは」
柳沢 「また入院するようなことになったら大変モナ。気をつけるモナ」
渡辺 「大丈夫モナ。ちょっと尻餅ついただけモナ」イスに腰掛け直す渡辺
金本 「ああ、驚いた。ケガが無くて良かったよ。ハイお冷や」3人にガラスのコップを配る金本
柳沢 「あ、いただきますモナ…モナ?」
しかし、1人だけ受け取り損ねてコップをスルーしてしまう柳沢。コップはそのまま地面に落ちる
今岡 「あーあ、コップ割れちゃったモナ。ヘナギも相変わらずモナ」
柳沢 「ゴ、ゴメンナサイモナ…。コップ代弁償しますモナ」申し訳なさそうな顔になる柳沢
金本 「いやいや、コップの1つや2つ別にいいんだよ。それよりお客さんにケガが無くて良かった」
内心、やっぱり今岡の義兄弟だなと思いつつも手早くコップの破片を片付ける金本
今岡 「金本さん。このナヴェは、仕事でずっと一緒だった相棒と別れたばかりで元気がないんだモナ。
なにか美味いものでも出して元気づけてやって欲しいモナ」優しいところを見せる今岡
金本 「そうか。よし、とっておきの食材をサービスしてやろう!最高級の桜肉が手に入ったんだよ」
柳沢 「桜肉って何モナ?」不思議そうに顔を見合わせている3人
金本 「なんだ、そんなことも知らんのか?桜肉ってのは馬肉のことで…」
渡辺 「モナァァァァ!トップロー!」突如その場に泣き崩れる渡辺。そして再びイスから転げ落ちる
今岡 「金本さん酷いモナ! 最悪〜、最悪金本〜モナ!」
金本 「な、何か俺悪いこと言ったのか!? とにかくスマンカッタ。悪気は無かったんだよ」頭を下げる金本
今岡 「もうサービスとやらはいいからとっとと注文するモナ。
ナヴェのこと泣かせたんだからラーメンも大至急頼むモナよ」本当は単に自分が早く食べたいだけな今岡
金本 「…わかったよ。何ラーメンにするんだ?」なんだか疲れてきた金本
今岡 「じゃ、モナは醤油ラーメンをお願いしますモナ」
渡辺 「じゃ、モナは味噌ラーメンをお願いしますモナ」
柳沢 「じゃ、モナは塩ラーメンをお願いしますモナ」
金本 「毎度あり!ちょっと待っててくんな。エート、モナガショウユデモナガミソデ…?」
だんだん「モナ」という単語が頭の中をグルグルと回り始め混乱してきた金本。
そんな金本の脳内も知らずに相変わらずモナモナと雑談を続けるヘタレトリオ
金本 「ヘイお待ち!味噌ラーメンと塩ラーメンと醤油ラーメンね!」3人の前に出来上がったラーメンを置く金本
今岡 「モナ? これ味噌ラーメンモナ。モナが頼んだのは醤油ラーメンモナ」
渡辺 「モナ? これ塩ラーメンモナ。モナが頼んだのは味噌ラーメンモナ」
柳沢 「モナ? これ醤油ラーメンモナ。モナが頼んだのは塩ラーメンモナ」
金本 「あれ、これはスマンカッタ。初めてのお客さんだから緊張しちまったよ。ハハ」適当に取り繕う金本
今岡 「注文間違うなんて金本さんも新井やアキヒロと大して変わらないモナ。ププだモナ」
柳沢 「モナ? この大将、よく見たら『兄貴と腐肉』の腐肉役の人モナ!」
渡辺 「『兄貴と腐肉』ならモナもDVDで見たモナよ!そうだサインしてもらおうモナ。
腐肉さん、ここに『薫彦タンへ・ふにくんより』ってサインして下さいモナ」馬券の裏を差し出す渡辺
柳沢 「モナには『あっくんへ・ふにくんより』でお願いしますモナ」リソカの写真集を差し出す柳沢
今岡 「金本さんて有名人だったモナ? じゃあモナも1枚もらっておくモナ。
名前は入れなくていいモナよ。後で転売して小遣いの足しにするんだモナ」何かが切れる金本
金本 「ガーッ!!! モナモナモナモナうるさいんじゃお前ら!!! 普通に喋れんのかゴルァー!!!」
今岡・渡辺・柳沢「モ、モナァァァッ!? ヒーッ!!!」
怒りに任せて屋台をひっくり返す金本。逃げまどうヘタレトリオ。大破する『ラーメン金本亭』