「151kmですか?通過点っすね。身体的にも、フォーム的にもまだまだ出せる
要素はあると思うんで」
最高151kmをマークするストレート、抜群のキレと130km台のスピードを誇る
高速スライダーに加え、シュート、シンカーを操る投球にプロのスカウトは「
昨年の寺原以上」と二重丸をつける。
慎重は174cm。決して上背に恵まれているわけではない。それを補っている
のが野球に対する高い意識だ。寮の起床時間前に出かける朝のランニングから
、風呂上りに行う夜のストレッチまで、一日の生活は全てが野球中心になっている。
その意識の高さが表れているのが、冬の練習についての感想だ。一般に高校
生は、走りこみが中心になる冬の練習を嫌うが、高井は冬の練習を「心の底か
ら楽しかった」と言う。「この練習をやれば、どこの筋肉がどう鍛えられるか
がわかるじゃないですか。この筋肉が鍛えられればもっと球が速くなると思っ
たら、うれしくてしょうがなかったです」
高井の口からは、肩や足の筋肉の名前が次々に出てくる。これはイチローも
身体作りに通うジム、鳥取ワールドウイングまで出かけた際に学んできたこと
だ。こういった探究心が174cmをマイナスにさせないガッシリした腰回り、背
筋300kgの強靭な身体を作り出した。
超高校級の高井だが、高校生らしくちょっと意地っ張りな面もある。
去年、春のセンバツに出場した。初戦で優勝候補の関西創価と対戦するのが
決まっていたが、高井の目は別の方を向いていた。本番1週間前の練習試合、
PL学園戦である。
高校入学時、多くの甲子園常連校から誘われた高井だが、その中にPLの名前
もあった。だが、実際に監督に会って話を聞いてみると、「投手では2〜3番
手。野手なら2番打者」との評価。あの監督を絶対見返してやる。そんな気持
ちが高井を本気にさせたのだ。結果は11奪三振を奪っての完投勝利。PL戦に
合わせ、調整を1週間早めたのが災いして肝心の甲子園では大乱調だったが、
高井には忘れられない試合のひとつになった。「あれはうれしかったですね。
もしかしたら、甲子園で勝つよりうれしかったかも。って、甲子園では勝って
ないんですけどね」
投手として、目標は「マンガみたいな球を投げること」という高井。その真
相を尋ねてみた。
「球の勢いで捕手が吹っ飛んだり、ミットが突き破られたり、マンガはいくら
でも『作る』ことができるじゃないですか。それが現実になるような、そんな
球を投げたいっすね」
負けた翌日から、「上で野球をやるため」(高井)変わらず練習に取り組ん
でいる。決して後ろを振り向かないこの姿勢が、小さな怪物を進化させる。来
夏は、プロのマウンドで主役となった高井に会うことができるはずだ。
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