園川マリンズ!ドンドドンドド!Part2

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165さらば ソノカワカズミ
ふりむくと
一人の少年工が立っている
彼は園川が勝つたび
うれしくて
カレーライスを三杯も食べた

ふりむくと
一人の失業者が立っている
彼は浦和の駐車場で園川の到着を待ち
病気の妻に
サインをもらってやった

ふりむくと
一人の車椅子の少女がいる
彼女はテレビの園川を見て
投げることの美しさを知った

ふりむくと
一人の酒場の女が立っている
彼女は十月十九日の近鉄戦の夜に
男に捨てられた
166さらば ソノカワカズミ:02/01/20 21:29 ID:KjFTcc2Q
ふりむくと
一人の親不孝な運転手が立っている
彼はおふくろに
園川の百勝目を見せてやると言いながら
とうとう約束を果たすことができなかった

ふりむくと
一人の人妻が立っている
彼女は夫に隠れて
園川の応援をしていたことが
たった一度の不貞なのだった

ふりむくと
一人のピアニストが立っている
彼は園川の生まれた五月一日に
自動車事故にあって
失明した

ふりむくと
一人の出前持ちが立っている
彼は生まれて初めてもらった月給で
園川の写真を撮るために
カメラを買った
167さらば ソノカワカズミ:02/01/20 21:30 ID:KjFTcc2Q
ふりむくと
大都会の師走の風の中に
まだ一度も新聞に名前の出たことのない
百万人のファンが立っている
人生のマウンドに
自分の出番を待っている彼らの
一番後ろから
せめて手を振って
別れのあいさつを送ってやろう
園川よ
お前のいなくなった広い神無月の野球場に
希望だけが取り残されて
風に吹かれているのだ

ふりむくと
一人のトレーナーが立っている
彼はルームの鉄アレイを片付けながら
昔 マッサージした園川のことを
思い出している

ふりむくと
一人の非行少年が立っている
彼は少年院の檻の中で
園川の強かった日のことを
みんなに話してやっている

ふりむくと
一人の四回戦ボーイが立っている
彼は一番凄いピッチャーは
園川だと信じ
サンドバッグにその写真を貼って
たたきつづけた

ふりむくと
一人のソープ嬢が立っている
彼女は園川が千個目の三振を取った日
新しいユニフォームシャツを買って
ソノカワとネームを入れた
168さらば ソノカワカズミ:02/01/20 21:31 ID:KjFTcc2Q
ふりむくと
一人の老人が立っている
彼は園川の負け試合を見て
やけ酒を飲んで
終電車の中で眠ってしまった

ふりむくと
一人の受験生が立っている
彼は園川から
挫折のない人生はないと
教えられた

ふりむくと
一人の捕手が立っている
かつて園川とともにバッテリーを組み
敗れて暗い日曜日の夜を
家族と口も聞かずに過ごした

ふりむくと
一人の新聞売り子が立っている
彼の机の引き出しには
園川のサインボールが
今も入っている
169さらば ソノカワカズミ:02/01/20 21:31 ID:KjFTcc2Q
もう誰も振り向く者はないだろう
うしろには暗いブルペンがあるだけで
そこには園川は
もういないのだから

ふりむくな
ふりむくな
うしろには夢がない
園川がいなくなっても
すべてのゲームが終わるわけじゃない
人生という名の野球場には
次の試合を待ちかまえている百万人の
名もない園川の群れが
朝焼けの中で
ランニングをしている足音が聞こえてくる

思い切ることにしよう
園川は
ただ数枚のサイン色紙にすぎなかった
園川は
ただ一試合の思い出にすぎなかった
園川は
ただ十三年間の連続ドラマにすぎなかった
園川はむなしかったある日々の
代償にすぎなかったのだと

だが忘れようとしても
目を閉じると
あの日のピッチングが見えてくる
耳をふさぐと
あの日の喝采の音が
聞こえてくるのだ


元ネタ「さらば ハイセイコー」寺山修司
改造しながら何だか泣けてきたよ…