データは「1分おきに更新」に設定してある。
―――――こいつは・・・
選手名簿の「上原浩治」「桑田真澄」の横に、それぞれ「交戦中」の文字が点滅している。
他に「交戦中」の選手はいない。
どうやら、賭けの対象になった二人が、なんとも都合よく対決してくれているようだ。
これだ。真っ向勝負ほど面白いものはない。
自動でリロードされる一分という間すらももどかしく、手動で更新し続ける。
真っ暗な部屋の中、ディスプレイの光だけが、瞬きも忘れて二人の選手の名を食い入るように見つめ、
マウスをクリックし続ける江川の顔を照らしている。
その形相は、名投手のものでも、冷静に説明を加える解説者のものでもなかった。
かつて人々から称賛を以って呼ばれた「怪物」そのものだった。命の奪い合いに魂を奪われる、
一人の「怪物」だ。
ブラウザがリロードしきれていないうちに、江川は何度もクリックし続けた。
カチッ、カチッ、カチ、カチ、カチ、カチ……………
やがて、「桑田真澄」の横の文字が消え、「上原浩治」の横に、目に痛いほど鮮やかな赤い「死亡」の
文字が輝いた。
江川には倦まず飽かずクリックしていたせいで長い時間が流れたように思われていたが、
実際はそうでもない、わずか5分間のできごとだった。
江川の顔に、不気味な笑顔が浮かぶ。
―――――ワイン仲間のよしみでこっちに賭けたんだ、儲けさせてもらわなくちゃな。
おもむろにプログラム実行委員会作成の専用メールソフトを立ち上げ、メールチェックをする。
これも今回特別に付与されたメールアドレス・
[email protected]に、新たなメールが配信されていた。
勝者の名前、レート、配当金などが記されたメールである。
配当金はWEB上から、これも今回プログラムの為だけに開設された各人の口座に支払われる。
二者択一の賭けだったからレートも低く、大変な儲けになったわけではないが、それでも勝ちは勝ちだ。
嬉しいことに変わりはない。
ディスプレイの隅で大気圏に突入する若松監督を眺めながら、江川はデスクに両肘をついて、手を組んだ。
―――――さて、と。次の勝負のしどころは・・・“KK対決”か。
このまま、清原に賭けつづけるか。それとも、桑田に乗り換えるか。
今ならまだ間に合う。
今なら、まだ。
江川は思案に暮れた。