戸部良一、野中郁次郎ら複数の政治、経営学者の共著による「失敗の本質」(1984年)という
本がある。副題は「日本軍の組織論的研究」。第2次世界大戦における日本軍の組織や
意思決定プロセスを細かく分析している。
この本が日本の敗因の1つと指摘するのが海軍の「艦隊決戦主義」だ。巨砲を積んだ戦艦を
中心とする艦隊が正面から向き合って雌雄を決する戦い方である。日本の海軍はそれを
目指して装備を調え、戦略を練った。日露戦争における日本海海戦での成功体験が
この考え方につながったと著者たちは指摘している。
敗色濃厚な中で、起死回生を目指して建造されたのが46センチの主砲を持つ戦艦「大和」と「武蔵」である。
しかし艦隊決戦思想の結晶といえる大和と武蔵は、自慢の巨砲の威力を発揮することなく撃沈された。
米国は小回りのきかない巨大戦艦を見限り、より機動的な戦闘機と航空母艦を戦略の中心に据えていた。
巨艦を作ることより、レーダーの性能を高め、暗号を解読することに力を注いだ。日本が望んだ「艦隊決戦」の
機会はついに訪れなかった。
「ニッポン製造業の復活」をかけて作られたシャープの堺工場とパナソニックの尼崎工場では、
新鋭ラインを存分に操業させる前に、拠点集約や生産品目の変更が始まった。
厳しく見れば「巨大工場決戦主義」そのものがアナクロニズムだったのかもしれない。アップル、
グーグル、フェイスブックが仕掛けてきた「新しい戦い」に応戦できる企業は、まだこの国に
生まれていない。(以上、抜粋)