黒色火薬

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22あるケミストさん

  それ、人間の浮生なる相をつらつら観ずるに、おおよそはかなきも
 のは、この世の始中終、まぼろしのごとくなる一期なり。されば、い
 まだ万歳の人身をうけたりという事をきかず。一生すぎやすし。いま
 にいたりてたれか百年の形体をたもつべきや。

  我やさき、人やさき、きょうともしらず、あすともしらず、おくれ
 さきだつ人は、もとのしずく、すえの露よりもしげしといえり。され
 ば朝には紅顔ありて夕べには白骨となれる身なり。

  すでに無常の風きたりぬれば、すなわちふたつのまなこたちまちに
 とじ、ひとつのいきながくたえぬれば、紅顔むなしく変じて、桃李の
 よそおいをうしないぬるときは、六親眷属あつまりてなげきかなしめ
 ども、更にその甲斐あるべからず。

  さてしもあるべき事ならねばとて、野外におくりて夜半のけぶりと
 なしはてぬれば、ただ白骨のみぞのこれり。あわれというも中々おろ
 かなり。

  されば、人間のはかなき事は、老少不定のさかいなれば、たれの人
 もはやく後生の一大事を心にかけて、阿弥陀仏をふかくたのみまいら
 せて、念仏もうすべきものなり。あなかしこ、あなかしこ。