1988年。「A感覚をこえて」。企画・編集はペガサス、編集人は鈴木望
、発行は株式会社ジャクソン。前半はアナル拡張の話題などエロ本に
忠実だが、後半はサブカル色が強い。聖職者の同性愛者の増加、
戦前の財閥、令嬢殺し、下着窃盗の検証、近親婚など脈絡のない
コラムが続く中、貸本マンガについてのテキストなども。青山は「青山
正明の人生相談」という、好き勝手に答えつつ意外とまともなページを
担当している。創刊号なのに質問のハガキがきているのは、雑誌
『Big Tomorrow』2月号から質問を勝手に流用しているからである。
1989年。「A感覚超越アナルラブ」。表紙周りと巻頭のグラビアページ以外、
前出『フィメール』とまったく同じ内容で、目次には「Female」と誌名がそのまま
残っているテキトーさ(あとがきも同じ)。よって「青山正明の人生相談」も
そのまま再録。ただし、ペガサスや株式会社ジャクソンの名前はスミで
消されており、住所は『フィメール』掲載のものとは違っているので、潰れた
のかもしれない。1989年という時期は、本体2000円/定価2060円という、
消費税3%が導入されていることからの推測。
エロ本編集に誇りを持っている人には申し訳ないのだが、こうした小手先で
作られたエロ本というのも、今となってはあまりに自由奔放すぎる姿勢が
羨ましい。裸が載っていれば、排泄シーンが載ってれば、どんなにテキトーに
作ったエロ本でもそれなりに売れた時期だからこそ世に出せた、エロ本不況が
深刻な現在ではもうありえない80年代の遺物である。青山も『フィリアック』の
時期はそうした事情を逆手に取った趣味っぽい編集をしていたし、エロ本の
黄金時代の辺境で行なわれていたこうした営みは、もはや陽の目を見ることは
少ない。これらを知ることで、大正屋が潰れた後に『ぴあ』や『シティロード』に
映画原稿を書く一方で、スカトロ雑誌で人生相談を行なっていた、青山の多面性
(迷走?)がわかると思う。
くり返し書いてきたが、青山正明の最初の商業仕事は白夜書房の『Hey!Buddy』だった。
白夜書房は表向きのエロ本として末井昭編集の『写真時代』がヒットを飛ばしていたが、
その裏で中沢慎一編集によるエロ本もまたカルトな人気を得ていた。
一つは最盛期8万部を誇った『Hey!Buddy』であり、もう一つは同じ時期に
発行されていた変態雑誌『Billy』である。
創刊時は単なる芸能インタビュー雑誌だった『Billy』は、返本率7?8割という
低調ぶりに編集長交代・路線変更となり、その変更先が何を間違ったか、
日本を代表するキワモノ・ヘンタイ雑誌だった。この時に同誌の下請けに
なったのが、当時ビニ本の制作をしていたVIC出版で、実質的な編集は
のち吐夢書房で『TOO NEGATIVE』を作る小林小太郎らが行なっていたという。
その他『Billy』の解説は永山薫インタビューを参照して頂きたい。
当該インタビューでも触れたが、90年代以降の「鬼畜」の青山のイメージから想像すると、
『Billy』にもっと原稿を書いていてもよさそうなものである。しかし、実際に青山が
関わった回数は多くない。『Billy』ではスカトロ、死体、ドラッグ、フリークス、
シーメール、SM/ボンデージ、刺青、海外売春……その他、パッと思いつく変態的
行為はあらかた掲載されており、これらと青山を結びつけるのは簡単だが、
『Hey!Buddy』誌での連載「Flesh Paper」でもそうした変態ネタは書ける環境に
あったことで、棲み分けがなされていたのかもしれない。
ここで青山が『Billy』で関わった記事を見ておきたい。なお『Billy』は都条例に
引っかかって『Billyボーイ』と新創刊したものの、内容はまったく変わって
おらず、一年ほど経って再び条例により1985年末に廃刊となった。この時
一部の記事は同社の『Crash』に引き継がれ、青山の「Flesh Paper」も
そちらで継続されている。
「ルックルック驚いた(シャム双生児)ツインガールズ くっつき姉妹、
びっくりヌード!」。映画「Being Different」に出演したというシャム双生児の
姉妹ヌード写真を紹介。なぜこんな歳になるまでくっついたままでいるのか、
幼い頃に手術で切り離せたのではないか、という推理をしているが、
真相は闇の中。
「D・CUP乳しぼり![ミルクタンク大爆発?!]入手方法つき、デカパイマニヤ必見」。
“アメリカンポルノ雑誌宅急便”として、『TASTE MILK FUCKER』と『Knocked Up』
という二冊の巨乳ポルノ誌を紹介。この頃から流行していたらしい「ミルク飛ばし」と、
「妊婦デカパイ」に焦点をあてている。乳房フリーク必読書リスト付。
「無残にかき出された胎児!! 堕胎の現場──局部アップ!! 実際の中絶手術の
現場にカメラが潜入!」。知り合いの医師に金を握らせ中絶患者を撮影した、
のだそう。「身篭ることのない、快楽終始の男性による性的暴力。そして、
栄養摂取量の増加に伴う子供達の肉体の早熟と、それを刺激するマスコミ」と、
棒読みの原稿が熱い。
「目がつぶれそうに恐い女体バラバラ誌上試写 実写!人間切り刻み現場!!」。
ビデオ『人体解剖』(セカンドハウスBB)の解説と、オリジナル・メンバーが
自殺してしまったカルト・グループSPKのビデオ『DEPAIR』の紹介記事。
他に巻頭のDカップ・マニア池田竜彦インタビューを担当。
「SM少女は楽しい玩具だ! 人間犬を連れて真夜中のお散歩 ワンワン少女を調教!!
自宅で飼える人間犬!!」。これは雑誌『フィリアック』のグラビア・ページの撮影を
レポートした企画ページ。撮影は大山剛介。四ツ谷はお岩稲荷で全裸撮影、
小便ひっかけなど、恐れを知らない天然鬼畜ぶりを発揮している。この撮影の
あとにお岩さんの呪いが降りかかった話は永山薫インタビューを参照。
『フィリアック』創刊時に前述カメラマンを誘った時の青山の発言「今は無き
スカトピア超え、かつ、スカトロのみにこだわらない超変態本を作りたいんだけど、
撮影やってくれないかなあ」。こんなノリのまま、お岩さんに罰当たりな撮影を
させられるとは思ってもみなかったであろう。
こうして抜き出すと悪趣味な記事ばかりに感じるが、『Billyボーイ』の堕胎
場面の心理的嫌悪感をのぞけば、雑誌全体で見ればわりとノーマルな
記事であるところが『Billy』の嫌なところである。たまに「80年代はロリコン雑誌
なんて普通に書店に並んでたけどなあ」と回想する人をウェブで見かけるが、
その隣に「死体と奇形写真が見開きで埋まってる」「縛られたモデルに小便
かけまくって獣姦してる」変態雑誌も並んでいた事実を忘れてはならない。
今ではロリコン写真は犯罪だし、死体写真も規制が厳しくなって一般流通が
難しくなっているが、どちらも探せばウェブで手に入るし、古本屋で『Hey!Buddy』や
『Billy』のバックナンバーを見つけて「なんだ、こんなもんか」と思うかもしれない。
こんな時代に生まれたかったと悔しがる若者はいないだろうが、こんな時代に
育ってしまった青山の感性の磨かれ方は、勉強熱心な性格も災いして、ものすごい
スピードだったのではないかと思う