本格的ブームの先駆けとなったのが『アニメック』17号(1981年3月発売)での
25ページにも渡る大特集「“ろ”は、ロリータの“ろ”」だ。『カリオストロの
城』のヒロイン・クラリスについて、名作アニメの少女評、安座上学による
SFとロリコンを関連づけた評論、ルイス・キャロル研究家高橋康也インタビュー、
吾妻ひでお・村祖俊一・中島史雄らへのインタビュー、そして『シベール』など
美少女同人誌の紹介だ。ほとんどオールスターである。この特集がもたらした
影響を記しておく。
・ロリータ要素のない単なる少女キャラクターもロリコンとして扱われることとなる
(「アニメファン=ロリコン」のイメージが潜伏)
・SFファンの潜在的ロリコンを表面化(“メカと美少女”の誕生・正統化)
・村祖俊一・中島史雄などエロ劇画誌で活躍していた人物の紹介で、同人誌の「青年から成年」への進行(それまでの同人誌・ファンジンは男性向けのエロ要素は皆無だった)
・『シベール』『クラマガ』紹介による同人誌への注目度の上昇(女子ばかりだったコミケットに男性の足を運ばせた)
クラリスについて確認しておくと、物語中の役割は伯爵に幽閉され薬を使って
無理やり結婚させられそうになった“清楚で可憐で純粋な”悲劇のヒロインである。
1979年暮れに公開された監督・宮崎駿の映画『ルパン三世・カリオストロの城』
(1979年12月15日・東宝洋画系公開) はアニメファンにはその完成度から好意的に
迎えられたが、興行的には前作を下回る結果となった。一般的に名作として扱われ
始めたのは約1年後の、1980年12月17日に日本テレビ「水曜ロードショー」で
テレビ放映がなされてからだ。このロリコン特集の『アニメック』の表紙が
『カリオストロの城』なのは1年遅れのカリオストロ・ブームを受けてであり、
表紙に使われたシーンが「妬かない、妬かない。ロリコン伯爵。や?けどすっぞ?!」
というルパンの台詞の直後であることは非常に象徴的であり示唆的であろう。
ロリコンに急激に注目が集まる中、直後におこなわれた81年4月「コミケット
17」で新しいロリコン同人誌がいくつか登場した。『ロータリー』(ロータリー/
創刊は80年7月だがコミケ進出は初)、『プレザンス』(ハンバート)、『ヴィー
ナス』(ムーン・ラーン製作室/4月準備号、5月創刊号)などだ。しかし何より
重要なのは『シベール』の終刊である。中心にいたシベールがなくなることで
引き起こされた、まだ見ぬ「第二のシベール」を求める動き。そしてロリコン
ネタへの需要・供給の拡散だった。81年夏以降、おたく方面からもロリコン
への注目が高まっていく。だから『Hey!Buddy』で村祖俊一らがマンガを描き、
内山亜紀へのインタビューが載っていたのは、ロリコン総合誌としては必然
であった。
『Hey!Buddy』がリニューアルして以降の、1982年後半のロリコン関連で話題
になったのは、篠山紀信の「激写文庫」シリーズに触発されたと思しきロリー
タ写真の文庫本の刊行が続いたのと、清岡純子による『プチトマト』シリーズが
始まったのと、『小さな花・パート2』(東京スタジオ)が発禁になったことなどである。
また細かな時期は不明だがいくつかの少女愛好家のサークルが発足し写真集
を発行しており、幼女愛好会の『Fairy Collection』、No Angle Photo Club(NAPC)
の『NAPC』、タビの会の会報などがそれにあたる(余談だが、こうした少数派の
性的嗜好は同好を得るとエスカレートしやすいため、近年刊行されている
ロリコンマンガ誌などはあえて読者投稿欄を設けていないという)。
さらにあまとりあ社の『レモンピープル』や、徳間書店の『美少女まんが大全集・
アップルパイ』『美少女まんがベスト集成』などマンガ誌創刊が相次いでおり、
明らかに一つの流行となっている。流行とはつまり余裕を生む場で、実験的
試みや異分子の登場を受け入れる土壌となりやすい。1983年にリニューアル
したロリコンマンガ誌『漫画ブリッコ』が岡崎京子を輩出したのはよく知られる
ところだが、青山正明もまた時代の波にのり、ロリコンを武器の一つにライター
としての居場所を確保していくのである。
『Hey!Buddy』で青山正明は何を担当していたのかといえば、ドラッグや
不謹慎ネタを取り上げたメイン連載「Flesh Paper」以外にも、堅実にロリータ
関係のコラム、ビデオ・レビューなどを行なっている。無記名もあるようで
断定はしづらいが、例えば記名原稿では、1983年7月号で「少女の乳房」と
題した乳房の成長過程のレポート連載、8月号で「ロリータムックで追う実例
発育段階別少女の乳房」として「私だから言えたロリ本ムック裏話」を書いており、
その中に以下のような余談が語られている。
HB'82・7月号の巻頭グラビアをつとめていた青木秋子も、前中氏(引用者
註:前中行至)の見つけて来たモデルである。ちょっと目はひどいが、鼻筋の
通った、なかなかの美少女である。昨年夏、「あゆみ12歳・小さな誘惑」という
本邦初のロリータ・ビデオが発売されたが、あそこに出演していたのが、
この青木秋子であり、製作者はもちろん前中氏であった。そして、なんと、
あのビデオでツトム役の青年を演じていた美少年が、何を隠そう、この私、
青山正明であったという事実は誰も知らない。/あのビデオを購入して、
美少年青山正明でセンズリをこいた若者もいられるのではなかろうか。
ありがとう。ロリコン青年のNO1オナペット、青山正明です。