それをふまえて、日本でのロリコンの起源は少女写真集にあり、1966年
11月に出た剣持加津夫の『ニンフェット・12歳の神話』(ノーベル書房。の
ちにブロンズ社が『エウロペ・12歳の神話』として再発刊)が最初である。
正確に記すならば1970年2月に出た『デラックス版・12歳の神話』ではじ
めて割れ目が世に出た。多絵という少女がモデルの、ほぼ全ページモ
ノクロの写真集。撮影所が梅原龍三郎の別荘、監修は高峰秀子という、
芸術作品としての立派なお膳立てもあってか、一躍センセーショナルな
存在となった。当時『少年ジャンプ』誌上で人気を博していた永井豪の
漫画『ハレンチ学園』にもこの写真集の話題が出てきたはずだ(なお『エ
ウロペ』はパート2も出ている)。
続いて1973年12月に出た沢渡朔の『少女アリス』(河出書房新社)は、
2003年に復刊されたこともあり、現在最も有名な少女写真集だろう
(1991年にも復刊されている)。ヌード写真も数点あるが、大部分は物語
「不思議な国のアリス」をモチーフにした幻想的な写真が占める。モデル
のサマンサは撮影時8歳。その6年後(14歳)に、沢渡朔はもう一度彼女を
モデルに『海からきた少女』という写真集を発表しているが、少女という時
期の魔法には二度は出会えない。
その後少女写真集の出版はしばらく間が空いた。未だ市場と呼べるほど
開拓はなされていなかったからだ。女性カメラマンによるものは、のちに
『白薔薇園』『プチ・トマト』シリーズで有名になる、清岡純子の『聖少女』
シリーズ(フジアート出版/1977年?)があるが、「女性による写真は柔ら
かい」と語る彼女の写真は、ボヤかした表現によるものが多く、シリーズ
の知名度とは裏腹に人気はそれほどでもなかったという。購買層が芸術
という建前の裏で欲していたものがうかがえる。
他にも外国人によるもので、映画『思春の森』(原題『Maladolescenza』/
1977年)の主演女優エヴァ・イオネスコの母親、イリナ・イオネスコの『妖
のエロス(世界のベストヌードシリーズ3)』(芳賀書店/1979年)がある。
娘のエヴァをモノクロームで撮ったもので、のちに「保護を必要とする子
供をヌードモデルに起用した」として裁判にかけられた(イオネスコが勝
った)。この頃の作品を含む写真集には『バロックのエロス』(リブロポート/
1988年)や『ELLE-MEME』(1996年/限定120部)がある。
だが70年代後半の、『12歳の神話』『少女アリス』の後に続くロリータ・ブー
ムは、実は水面下で着実に育っていた。たとえば神保町に本店を置く芳賀
書店は、現在も続くアダルト書店の老舗として有名だが、1976年頃には海
外から輸入した多くのチャイルド・ポルノ雑誌が並び、ペドフィリアの拠点の
一つであったという。スケパンや陰毛がどうしたと盛り上がっていた時代に
堂々と掲載されいた割れ目写真に想いをはせた……というマニアの証言が
残っている。海外雑誌名だけ挙げておくと、『Nudist Moppets』、『Children
Love』、『Lollitots』、『Incest』、『Lolita』、『school girls & boys』、『Skoleborn』、
『Loving Children』、『Bambina Sex』などがあり、そのほとんどはデンマークと
オランダ産だった。特に過激だった児童との性交写真を主体としたグラフ誌
『Nymph Lover』は、のちに日本でもそれを模した『にんふらばぁジャパン』
(麻布書店/創刊1985年6月)が登場するに至った。