音賀義三社長(以下、音賀)「どうかな 私の趣味の部屋は?」
栗田 「凄い部屋ですね」【オーディオ機器が一杯 どれも高そうだわ・・・】
音賀 「このアンプは海外製でね 700万円する」
栗田 「700万!」
音賀 「こっちのは内部の配線に銀線を使用していて25万ドル。今の日本円で言うと約3000万だ」
栗田 「3、3000万円!!」【3000万円なんて ・・・・マンションが買える値段だわ・・・・】
音賀 「ははは どうだい」
栗田 「ど、どれも凄すぎて・・・ 私みたいな庶民にはチョット・・」
音賀 「ははははは そうだろう そうだろう」
音賀 「これはどうだい? コレは私のお気に入りのヘッドホンでね。限定生産品なんだよ」
音賀 「どれ、君にも聞かせてあげようか? ワハハハハ」
山岡 「聞く必要はない」
音賀 「ん、なんだね君は?」
山岡 「そこの栗田と同じ東西新聞社の記者で山岡といいます」
音賀 「聞く必要がないとはどういう意味だね?」
山岡 「言った通りの意味ですよ 聞く価値がないから聞く必要がないと言ったんです」
音賀 「き、聞く価値がないだって!」
山岡 「そうです 聞く価値がない そのヘッドホンは出来損ないです 聞く必要もない」
音賀 「君 さ、さっきから聞いていれば何だね その発言は! 私のこのヘッドホンが聞く価値がないだって!!」
山岡 「本当の事を言ったまでです そんなヘッドホンは聞く価値どころか持っている意味すらない」
音賀 「き、き、君! あ、あ、あまりにも無礼だろう!」
栗田 「や、山岡さん い、一体何を」
山岡 「全部本当の事を言ったまでですよ」
音賀 「き、き、君ぃ なんだねその発言は! しゃ、謝罪したまえ!」
山岡 「本当の事を言ったのに何で謝罪しなくちゃならないんですか?」
音賀 「な、なんて無礼な男だ だ、だったら君はこのヘッドホンより音質がいいモノを知っているというのかね?!」
山岡 「ええ知っていますよ 数日時間をいただければあなたのヘッドホンよりずうっと上等なヘッドホンをお持ちしますよ」
音賀 「き、君 その言葉に二言はないね! もし持ってこられなかった時は君にはそれなりの責任を取ってもらうよ!!」
山岡 「ええ、それで結構ですよ」
音賀 「グギギギギ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
栗田 「や、山岡さん、なんであんな事を言ったの?」
栗田 「音賀社長は大原社主とは懇意の仲よ 下手すると私達のクビだけじゃ済まないかもしれないのよ!」
栗田 「ちょっと聞いてるの? 山岡さん!」
山岡 「・・・・・・・・・栗田君 ちょっと俺に付き合ってくれないか?」電車で移動する二人
車内アナウンス 『次は久我山〜 久我山』
栗田 「こんなところに音賀社長のヘッドホンを超えるものがあるの?」
山岡 「ああ」寂れたアパートに入ろうとする山岡
栗田 「や、山岡さん、ここアパートよ!」
山岡 「・・・ああ、ここでいいんだ」
栗田 【ここでいいって・・・ どう考えてもただのオンボロアパートじゃない?】
山岡 「親父さん、いるかい?」ドアをノックする山岡
老人 「ああ、開いてるよ」
山岡 「親父さん、久しぶりだね」
老人 「ああ、本当に久しぶりだね とんとご無沙汰だったのに、急に電話なんかしてくるからビックリしたよw」
山岡 「例のヤツ出来てるかい?」
老人 「ああ、出来てるよ、ハイこれね あんたは運がいい ・・・これが最後の一台だよ」紙袋を渡す老人
山岡 「・・・ありがとう 親父さん 大事に使わせてもらうよ」
栗田 「これが音賀社長のヘッドホンを超えるものなの?」
栗田 「ああ、正にこれが音賀社長のヘッドホンを超える魔法のヘッドホンなのさ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
音賀 「私のヘッドホンを超えるモノは持ってこれたんだろうね?」 仏頂面の音賀
山岡 「ええ、これです」紙袋からヘッドホンを取り出す山岡
音賀 「こ、これが私のヘッドホンを超えるものだって・・・?」
山岡 「ええ、そうです」
音賀 「どう見てもただの安物のヘッドホンじゃないか! こんなモノのどこが私のヘッドホンを越えているんだね?
君は私をからかっているのかね!?」
山岡 「論より証拠 まず聞いてみてください」
音賀 「フン、こんな安物から出る音などどうせ大したものじゃなかろう」 渋々ヘッドホンを付け音楽を聞き出す音賀
音賀 「こ、これは・・・・・!! す、素晴らしい なんて音だ まず透明感が素晴らしい それ以上に定位が凄い!
こ、こんな音が出るヘッドホンは今まで聞いた事がない・・・ まるでホールの特等席にいるようだ・・・」
その内に無言になり目を閉じ音楽に聞き入る音賀。ハッと我に返り、ヘッドホンを机の上に置く
音賀 「・・・・・・・・・素晴らしい 実に素晴らしいヘッドホンだ 音楽を聴くことでこんなに心が豊かになった
のは数十年ぶりだ・・・・ 君、このヘッドホンは一体?」
山岡 「これは市販のヘッドホンを改造したものです」
音賀 「改造? たったそれだけかね?」
山岡 「ええ、使ってある銅線は4N、絶縁材には綿や紙などの自然素材を使用しています。あとはボイスコイルを多少改造
してますがね」
音賀 「4Nだって!! 安物のケーブルに使われてる粗末な銅じゃないか? で、では値段が高いのかね!?」
山岡 「いいえ、このヘッドホンは音賀社長の使われているヘッドホンの1/5以下の値段ですよ」
音賀 「な、なんだって こ、この素晴らしいヘッドホンが私のヘッドホンの1/5以下の値段だって!?」
山岡 「ええ、その通りです」
音賀 「な、なんてことだ・・・ 」座り込む音賀
山岡 「このヘッドホンは俗にガレージメーカーと言われる個人経営の店が作ったものです。世の中にはこういった
素晴らしい商品を作っている店が少数ですが存在するんです」
音賀 「ガレージメーカー? 有名メーカーではなく一個人がこの素晴らしいヘッドホンを作りあげたというのかね?」
山岡 「そうです」
音賀 「・・・私は今日まで高額な商品や有名メーカーの商品をずっと買い続けてきた。雑誌で取り上げられてる高くて有名な商品で
あればいい音がでるはずだと。アクセサリーも値段の高いものや純度の高いものを買っていた 6Nで駄目ならば7N、7Nで
駄目ならば8N、銀線と・・・。高いものが悪いはずがないと・・・。私はいつの間にかブランドや値段で音を決めてしまっていたんだなぁ」
山岡 「確かに世の中には高額で素晴らしい製品も存在します だが高額でなくてもこうやって絶縁素材や作り方を工夫するだけで高額な商品と
同等のものを作る事も可能なんです。創意工夫や自分で良い商品を探す事もしないでただ雑誌が紹介する記事を鵜呑みにして高額な商品を
買うユーザがいる。雑誌や評論家もメーカーのいいなりでメーカーの高額な商品をこれが最良だと言わんばかりに宣伝をする。
実に嘆かわしい事です・・・・。」
音賀 「いやはや耳が痛い」顔を赤らめる音賀
山岡 「しかし音賀さん、貴方は素晴らしい方ですね」
音賀 「?」
山岡 「音の聞こえ方は聞く人間によって異なる 私が持ってきたヘッドホンも貴方は音が悪いと突っぱねる事も出来た。だが貴方は正直に
このヘッドホンの素晴らしさを認めて下さった」
音賀 「見くびってもらっては困る この音賀義三、音に対してだけは嘘は言わん!」 爆笑する一同
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音賀 「ところで山岡君、君におりいって相談があるんだが」
山岡 「はい、なんでしょう?」
音賀 「そのヘッドホンを私に譲ってくれないかね?」
山岡 「ええ!? こ、これは駄目ですよ!」
音賀 「そんな事を言わないで 是非頼む! そのヘッドホンがあれば私のオーディオ人生は益々豊かに
なる 200万、いや300万出す! この通りだ」
山岡 「だ、だからコレは最後の一個でお譲りする事は出来ないんですってば」
音賀 「最後の一個と聞くとますますもって欲しい!! 君ィ、それを私に譲り給え!!」
山岡 「だ、だからコレは駄目なんですよぁ〜」
音賀 「えーい、ゴチャゴチャ言わずに私に譲りたまえ! 譲らないと大原さんに言ってクビにしてもらうぞ〜!!」
山岡 「そ、そんなムチャクチャなぁ〜」
栗田 「ふぅー、オーオタの人達ってみんなこうなのかしら? ヤレヤレだわ」