【VICTOR】フルHD D-ILAプロジェクターDLA-HD1 PART4
少し前に動画ボケ(残像感)が話題になったので、俺の知識で書いてみよう。
人間の目は、網膜が光を受けた瞬間から情報処理が始まる。視細胞での化学反応
自体はミリ秒のオーダーで行われるが、その電気信号が、大脳の視覚野に届くまで
には、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞、視神経、視放線とシナプスを
介して続いてゆく。最終的に大脳が映像を認識するのには数十ミリ秒が必要とされる。
(全部が直線的に続く訳ではなく、例えば水平細胞はXOR回路的な働きを持ち、映像の
輪郭強調に関与していると考えられている。詳しくは医学・生物学部で学んでね。)
最終的な視覚の処理速度は、秒120フレーム程度と言われている(最近SONYが調べた
結果では、その倍程度まで認識しているとか)。
この認識のタイミングが動画のフレームレートと丁度シンクロしていれば、大脳は
気持ちよく動画を見る事ができる。フレーム単位の画像を「一枚の画」として知覚
できていれば、残像感は特に強く感じない。しかし視覚の処理速度に微妙なズレが
生じると、フレームの切り替わりばかりを「一枚の画」と知覚しかねない。この
「重なった画」ばかり知覚し続ける状態が、いわゆる『動画ボケ(blur)』の状態だ。
動画ボケがホールド型の表示装置で目立つ理由は、上記を踏まえて考えると明快だ。
フレームの切り替わる瞬間も常に表示が行われているため、「重なった画」を知覚
する確率が否応なく高くなり、その結果どうしても動画ボケを感じやすいのだ。
ここでフレーム切り替えの瞬間に短時間だが黒画面を挿入すると、動画ボケが改善
する。この理由も簡単だ。ホールド型で黒画面挿入が無い場合、「前フレーム」→
「次フレーム」と続くため、フレーム間の画像が重なって見える可能性が有るのは
既に書いたとおりだ。これが「前フレーム」→「黒画面」→「次フレーム」となると
知覚されるのは「前フレームと黒画面」、あるいは「黒画面と次フレーム」となる
確率が高くなる。仮に「前フレームと黒画面と次フレーム」を知覚した場合でも、
時間内で黒画面の比率が高ければ「暗く重なった画」と知覚されるため、この場合も
動画ボケの改善につながる。
〜続き〜
DLPは黒挿入しなくても動画ボケの少ない事で知られている。これはDLPという表示
方式自体の特性による。DLPは基本的には「白」「黒」の二値しか表現できない。
これを毎秒数千回という高速のオン・オフで駆動させ、更にカラーホイールを介在
させ三原色を順に表示させている。人間の視細胞がこの速度に追いつけないため、
視細胞上で光量の積分が行われ、その結果「一枚の画」として知覚される訳だが、
DLPの場合、入力された動画を「秒間数千フレームのモノクロ点描画」に変換して
表示しているとも言える。つまり「前フレーム」→「次フレーム」と表示している
とも言えるし、「前フレームの百分の一」→「次フレームの百分の一」といった
感じで高速に表示しているとも言える。視覚上は常に重なった画を知覚している
のであり、フレームの境界も正確に知覚する事はほぼ不可能だ。実際の表示では
誤差拡散を用いている事もあり、更に境界は不明瞭となっている。DLPで動画ボケ
を感じ難いのは、こうした理由からだ。
ややこしくなったが、図にすると少しわかりやすいかも知れない
ホールド型表示装置で「黒」→「灰色」→「白」と表示したとして、模式的な図に
表す。●…黒、◎…灰色、○…白と思って欲しい。
「●●●●●●●●」→「◎◎◎◎◎◎◎◎」→「○○○○○○○○」
これに黒挿入を行うとこうなる。
「●●●●●●」→「●●」→「◎◎◎◎◎◎」→「●●」→「○○○○○○」→「●●」
同じく、DLPではこうなる。
「●●●●●●●●」→「○●○●○●○●」→「○○○○○○○○」
これを、視覚の応答速度が○3〜4個程度で「一枚の画」だと知覚すると仮定して
眺めて欲しい。乱暴な説明だが、そんな感じで解釈すると動画ボケの生じる理由、
生じ難い理由、対策についての理解が深まると思う。