【盗用多の】TOYOTA WISH Part31【人気車】
トヨタ・ウィッシュ
「ウィッシュ」は、トヨタの7人乗り乗用車である。「シビック」をベースに
開発されたホンダのミニバン「ストリーム」と,全長×全幅×全高の寸法が
全く同じであるのに驚くが、実際に目にするウィッシュは、ミニバンとは目に
映らなかった。トヨタも、ウィッシュのことをミニバンとは呼んでいない。
ウィッシュは、「プレミオ/アリオン」をベースに開発されたプラット
フォームを持ち、7人乗り3列シートを備える。しかし見た目の印象は,
同じくプレミオ/アリオンをベースとするステーションワゴンの
「カルディナ」に近い。
ウィッシュをどう位置づけるのか、従来通りの車種で分類するのは難しい。
ウィッシュ開発責任者は「次世代スタンダード」の創造にチャレンジしたと
述べている。プレミオ/アリオンも、外観上は4ドアセダンだが、
リアシートとトランクを分けるリアトレーがシートバックを
リクライニングさせると外れるようにできており,ワゴンのような空間を
作り出せるのが特徴だ。5ナンバークラスでトヨタは、セダンに続き
ウィッシュでも,これまでの概念を打ち破るような次世代車作りを目指した
ようだ。
ウィッシュの運転席に座ると、まさしくこのクルマがセダンや
ステーションワゴンにも、そしてミニバンにも属さないクルマであることを
感じさせる。ドライビングポジションは、沈み込むような低さでもなく、
見下ろすように高くもない。セダンでもミニバンでもない見晴らしである。
ダッシュボード上面がメータ部分を除いて低く抑えられており、前方視界は
非常に良好だ。キャビンフォワードデザインを取り入れたフロントピラーには
相当にきつい傾斜が与えられているが、それにもかかわらず前席に座る者に
圧迫感を与えない。また、実際の運転の中で斜め前方や、交差点の角を
確認するなどといった場面で死角を感じさせないよう配慮されている。
最近は,空力性能を追求するためにフロントウィンドーの傾斜がきつくなる
傾向が世界的にあり、それがために前方視界が大きく犠牲になっている
クルマが多い。こうした中でウィッシュのフロントウィンドーは,傾斜と
前方視界の確保を両立させた,優れたデザインだと思う。
優れているのは前方視界だけではない。ステアリング越しのメータの視認性が
良く、インパネシフトを採用したオートマチックのシフトレバーや、その
左脇に配置されたエアコンとハザードランプのスイッチも,ごく自然に手が
伸ばせば操作できる位置にある。さらに,その下側のスライド式小物入れと
カップホルダーも、運転中にドライバーが操作しやすいよう配慮されている。
カタログの写真を見ると,そこに印刷されたウィッシュのダッシュボードの
デザインは、すっきりと整理されたようにはあまり見えないかもしれない。
ダッシュボードが左右対称のデザインでないからそう思えるのだが、使って
みると,ドライバーにとって使いやすさを優先させたデザインであることが
分かる。
乗る人に配慮した設計は、シートにも見られる。必ずしもサイズ的にゆとりの
あるシートではないが,腰が落ち着くつくりになっている。それはフロント
シートのみならず、セカンドシート、サードシートにも共通だ。
サードシートは、腰掛けるとさすがにややひざを抱えた格好になるが、
それでも、居心地はそれほど悪くない。よほどの長距離ドライブでない限り
座っていられると感じた。それも、シートに腰が落ち着くからだ。
また、サードシートのヘッドレストもきちんと乗員の頭の位置に
おさまるように高さを設定できる。サードシートへの乗り降りには、
セカンドシートを前方へスライドさせて出入りの空間を確保するが、その際、
シートスライドの滑る手ごたえが実にいい。ただ滑るのでなく、かといって
渋い動きでもなく、しっとりとした上質な手ごたえなのである。それが、
シートを調節するレバーを通して自分の手に伝わってくる。このような部分に
まで配慮が行き届いている。
リアゲートを開け、サードシートを折りたたんでみると、ワンアクションで
フラットな荷物室ができあがる。横へ回ってそのシートアクションを見て
みると、クッション部分が斜め後方へ沈み込んで、シートバックの裏が平らな
荷物室の床を作るよう設計されている。この程度は、昨今当然ともいえる
アイディアだが、さらに、セカンドシートを倒してみると、これもその
サードシートと高さがぴったり一致するのにはちょっと感動した。
エンジンは、1.8Lの直列4気筒一種類だが、FFと4WDで出力/トルクともに
数値が異なる。トランスミッションはETC4速オートマチックで、実に
シンプルなドライブトレーン構成である。FF車は、軽快な走りと、胸をすく
加速でとてもスポーティな運転感覚を味わえる。それでいて、簡素すぎる
こともない。上質さを備えたカジュアルさのある、非常に好ましい走行感覚だ。
乗り心地と操縦安定性のバランスもよく、低速から高速まで不自然な挙動が
ない。プレミオ/アリオンとカルディナを含め、それらのなかで最も
バランスのとれたクルマである。4WD車は、車両重量が重くなる分、重厚さが
増すものの、FF車にあった軽快さは薄れる。エンジンの出力とトルクがFF車
より下がってしまうこともその傾向を助長する。せめてFF車並の低速トルクが
あればと思わずにいられない。さもなければ、排気量2.0L位のエンジンが
欲しくなる。だが、今のトヨタには超―低排出ガスと2010年燃費規制を
前倒しで実現できる2.0Lエンジンが残念ながらないのである。
ウィッシュは、試乗をしていて「ココは嫌だな」と思う部分のほとんどない、
極めて優れた乗用車だった。ホンダが、ミニバンの重心を下げて走りを
強調したり、アヴァンシアでセダンに替わる乗用車の提案を行ったりして
いるが、そうした次世代への模索のなかで、トヨタのウィッシュは
5ナンバーで非常によい仕上がりであり、かつ、欲しいという気持ちを
起こさせる出来の良さがあった。