トヨタ・アルファードと日産エルグランド(1):個性の強いデザインのエルグランド、使いやすさではアルファード
国内のキング・オブ・ミニバンを競って、日産の新型「エルグランド」とトヨタ自動車の「アルファード」が相次いで
登場した。
この2台は国内最大クラスのミニバンに位置づけられる。他に、ホンダの「ラグレート」があるが、こちらは
カナダで生産される北米用ミニバンを輸入販売する形態で、あえて日本での競争を意識する必要のないクルマだ。
これまでは、97年に誕生したエルグランドが平均3900台/月のペースで堅調な販売を続け、国内最上級ミニバンの
トップのシェアを維持してきた。その足場をさらに固めようというのが新型エルグランドの使命であり、ライバルは
旧型エルグランドであるとする。
トヨタは、「グランビア/グランドハイエース」でエルグランドに対抗したが、牙城はなかなか揺るがず、
マイナーチェンジでエルグランドばりの大きなグリルを採用するようになった。それでも太刀打ちできなかったため、
アルファードでは、商用車をラインアップに加えず乗用のみとし、FR(フロントエンジン・リアドライブ)から
FF(フロントエンジン・フロントドライブ)に方向転換し、時間を掛けて入念に開発された。その成果は、試乗を
してみて十分に確認できた。
新型エルグランドのスタイルは、エルグランドらしさを残しながら、さらに洗練された新しさを備える。一見、
いかついように見えるフロントマスクも、存在感はあっても嫌味はない。デザイン本部のテーマとしては、少ない
ラインでおおらかに、アメリカのミニバンを思わせる大地を走る雄大さを表現したとのこと。後姿も、横に薄く
配置されたテールランプ内蔵のガーニッシュと、リアゲート両脇に配置された縦長の細いウインカーが高級さを
漂わせる。アメリカのキャデラックに代表されるように、高級車のテールランプは細長いデザインである方が、
気品が出る。
一転して、運転席のドアを開けると、液晶テレビを置いた部屋を思わせるダッシュボードのデザインが新鮮だ。
デザインスケッチの中のアイディアがそのまま具体化されたような雰囲気を持ち、個性的で、目新しさが心地よい。
機能的にも優れ、カーナビ画面は一人乗りの場合と、二人乗り以上の場合とで画面の向きを変えられる。この
カーナビ画面の仕組みは、今後のインテリアデザインに一石を投じるのではないか。
運転席に座ると、そこからの視界がまた新鮮だ。車高を下げ、シートのヒップポイントも30ミリ低くした効果が
体感できる。今までのワンボックスカー的視線の高さより目線が低くなり、安心と落ち着きが感じられる。新しい
ダッシュボードデザインの先に見える景色も、ワイドスクリーンの映画を見るように横への開放感があり、腰が
落ち着く印象だ。
センターパネルのシフトレバーはステアリングホイールから自然に下ろした手の位置にあり、操作しやすい。
ドライバーが気分よく運転できる環境がつくり込まれている。ただし、プリメーラでも採用されたセンターパネルの
各種スイッチ類は、表面が一様に平らで、目で確認しなければスイッチを見分けられない。慣れれば大丈夫と
言うのかもしれないが、たとえ基本的なスイッチの位置は慣れても、隣のスイッチとの境目を指先で確認できないの
では、結局目線を動かすことになる。こういう点で、机上のデザインであることが見破られてしまう。
またエルグランドは従来型からFRを引き継ぐが、そのため床の真ん中に出っ張りが残り、ウォークスルーで
後席側へ移動しようとした際、センターパネル下の小物入れにつま先が引っかかってしまい、不便だ。
アルファードは、エルグランドに対抗して採用されたグランビアでの大きなメッキグリルの顔つきを
引き継いでいる。ただしエアロモデルはルーバー状のグリルデザインとなり、やや印象が違ってスポーティな雰囲気を
出す。大柄なデザインのテールランプを持つ後姿は、これといって特徴のないもので、エルグランドの個性ある
存在感には及ばない。好きずきだが、見た目のデザインはエルグランドの方が、主張が強い。
アルファードのドアを開け運転席に座ると、目の前に広がるのは高級セダンにあるようなオーソドックスな室内だ。
木目と、ツートーンの色使いは目に心地よく、快適である。エアロモデルの場合は木目の部分が黒基調の木目となる。
運転席に座った感覚は、エルグランドと違ってかなり腰高な印象だ。従来からのワンボックスカー的イメージを
ひきずる。しかし高いことの視界のよさを活かして、見晴らしは非常によい。また高いからといって不安を
感じさせない。高級セダン的なダッシュボードデザインと、ステアリングの位置、角度が、拒絶感を与えないの
だろう。グランビアやグランドハイエース当時に比べれば、ずっと親しみやすい印象を与える運転席だ。
エルグランドと同様に、センターパネルにオートマチックのシフトレバーがあり、操作しやすいのは
もちろんだが、オーディオやエアコンの操作スイッチが使い慣れた方式であるのも安心感を与える要素のひとつ
ではないか。新しいBMWの7シリーズに採用されたダイヤル式スイッチも、まだアイディア倒れで今後の熟成が
求められる。スイッチ類の進化を試みようとする志はよいが、それが本当に良いものになるまでには時間が必要だ。
またアルファードはFFとなったため、床が平らにでき、センターパネル下にはエルグランドと同じように
小物入れがあるが、後席へのウォークスルーは比較的しやすい。
さて、一通り外観と内装の比較を終えたところで、次回はエルグランドとアルファードのハンドルを実際に
握って評価してみよう。
トヨタ・アルファードと日産エルグランド(2):シャシーに不安定さを感じさせるエルグランド、
完成度高いアルファード
エルグランドは、従来型車のプラットフォームを使いながらも車高とフロア位置を下げ、
リアサスペンションには新開発のマルチリンク式を投入し、走りの良さを追求している。だが、
シャシーの煮詰めは十分とはいえない。
一番の問題はダンパーの減衰力にありそうだ。走り出してすぐに分かるのは、ステアリングを
切り込んだときのロールスピードが速いこと。スッと車体が素早く傾くので、いくら重心を下げたと
しても、あるいは着座位置を下げたとしても、乗用車より背の高いミニバンでは恐ろしくて
ステアリングにしがみつきたくなる。
また、わずかなステアリング操作で車体が動き、その揺れが収まりにくいためクルマ酔いする。
とくに2列目以降の席に長時間座っているのは苦痛だ。かといって、あまりロールをしないように
バネを固めてしまうと、路面からの突き上げがきつくなってしまうのだろう。現状でも、上下方向の
乗り心地は決してしなやかではない。タイヤの影響もあるかもしれないが、結局、ダンパーの十分な
熟成が足りないため走りも乗り心地も質の高いものに仕上がっていないのだと思われる。
これに対しアルファードは、エスティマのプラットフォームを活用しているが、シャシー性能は
エスティマに比べ、はるかに高い水準に仕上がっていた。まず、運転席の着座位置はエルグランド
より高く感じるのに運転にまったく不安がない。ステアリングを切り込んだ際にしっかりとした
手応えがあり、車体が急に傾くようなロールが発生しないのがいい。
かといって、ほとんどロールしないかのような硬いサスペンションではなく、乗り心地もいい。
荒れた路面状況は伝えるが、強い衝撃を体に伝えないし、振動の吸収も素早い。TEMSと呼ぶ
電子制御の減衰力調整のモード選択をコンフォート位置にしていても、柔らかすぎる乗り心地に
ならず、コーナリング中の安定性を含めこのコンフォートを選択して走るのが一番いい。スポーツ
モードにするとやや硬すぎる印象になる。
フロントが重くなりがちのFF(フロントエンジン・フロントドライブ)だが、V6エンジンを
搭載した車種でも前が重過ぎると感じさせず、この点でもエスティマをはるかにしのぐシャシー
チューニングがなされている。この仕上げのよさはセルシオをも凌ぐ。他のジャーナリストも
アルファードの走りの良さは絶賛したと耳にしているので、その素晴らしさは間違いのない
ところだろう。
またエアロモデルは、インチアップした偏平タイヤを装着しているが、それでも乗り心地を
必要以上に悪化させないでスポーティな運転感覚を高めている。アクセルを踏み込んで
コーナリングするのが楽しいミニバンだ。さらに4WDモデルも重々しく鈍感な印象は一切なく、
重厚さが増すかどうかという良い印象を与えるだけだ。
アルファードが明らかにしたのは、シャシー性能は形式ではないということだ。フロントが
ストラットで、リアがトーションビーム式というシンプルな形式のFF車でも、きちんと料理
すれば文句のつけようがない、セルシオより素晴らしいと感じる走りと乗り心地が実現できるのだ。
一方、エルグランドはマルチリンク式リアサスペンションであるとか、FR(フロントエンジン
・リアドライブ)だという形式に甘え、素材を十分に生かしきっていない。いくら良い素材を準備
しても、料理が一流でなければ美味しい食事は作れない。一流の料理人であれば、素材が一流
でなくても、手に入る材料で美味しい食事を作れるはずだ。クルマだからといって特殊なことは
何もなく、大切な事は料理と一緒だ。
室内は、エルグランドもアルファードも静粛性が高く、高級車の趣を持つ。エルグランドは
ゆとりある室内の広さが売りで、2列目シートは新幹線のグリーン車の余裕とうたっている。だが、
2列目も3列目も、シートクッションのサイズが足りず、腰が落ち着かない。いくら足元が広々と
していても、ゆったり腰掛けられないのでは快適さは味わえない。またシートバックの背が低く、
ヘッドレストもあえて調節しなければ低すぎて頭をきちんと支えられない。
なぜそのようなことになってしまうのかといえば、何通りにも変化させることのできる多彩な
シートアレンジがエルグランドの売りであるからだ。2列目シートには幅の広いアームレストがあり、
これが3列目シートとの回転対座モードではテーブルになるという。だが、このアームレストの
おかげでシートの幅についてもゆとりが不足している。
いったいエルグランドは、何が目的のクルマなのだろうかと思う。目指したのは、どこかに駐車した
時の見た目の格好よさや、室内の多彩な変化なのだろうか。そのために、走って移動するという
クルマの一番基本的な機能の面で、後席のシートクッションが小さくてゆったり腰かけられなかったり、
クルマ酔いをしそうな乗り心地になってしまっているのでは本末転倒である。子供も喜ばないだろうし、
VIP気分でゴルフに行こうとする人もティーグランドに立った時には体調が悪くなっているのでは
ないか。
アルファードも、フルフラットシートや回転対座のシートアレンジができるようになっているが、
後席のシートクッションはゆとりがあるとまでは言えないまでも、腰を落ち着けて座ることができ、
2列目では大きなオットマンに足を載せてくつろぐことができる。3列目に座っていても乗り心地が
しっかりとして不自然な揺れがないのでクルマ酔いしないですむ。これならば、朝一番の
ティーショットもナイスショットになるのではないか。
新型エルグランドは、外観とインテリアの斬新なデザインは非常に魅力だ。カタログを見て買うなら、
私はエルグランドを選ぶだろう。ディーラーの店頭でもまだ、エルグランドに軍配が上がる可能性
はある。しかし、後席の座り心地はクルマが停まった状態のショールームでも体験できる。シート
クッションの小ささはそこでわかる。さらに試乗してみれば、たとえ近所の路地を一周してみるだけ
でも、エルグランドはハンドルを切るのが怖いと感じるだろうし、アルファードは大柄なクルマである
のに運転が楽で、しかも楽しいと感じるだろう。
エンジンは、エルグランドが3.5リッターのV6のみ。アルファードは2.4リッターの直4と、3.0
リッターのV6の2種類がある。エンジンパワーではエルグランドのほうが勝るが、アルファードは
車両重量の軽量化に務めており、2.4リッターの直4でもパワーに不足はないと感じた。バリュー
・フォア・マネーの選択といえる。
燃費は全面的にアルファードが優位に立っており、2.4リッター直4であればリッター当り9.4キロ
台を手に入れられる。エルグランドがV6エンジンで超―低排出ガスを達成しているのはさすがだが、
排気量でゆとりのトルクを得ながら、車両重量の重さで燃費を悪化させていると考えられる。5速
オートマチックも宝の持ち腐れだ。
結論を言えば、トータルバランスの取れた仕上がりのよさで圧倒的にアルファードである。
エルグランドの個性的なデザインは捨てがたいが、クルマは置物ではないと考えると、いっそうの
熟成を待ちたいところだ。
おわり