★TOYOTA★ポルテ★Part2

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【御堀直嗣のテクニカル・インプレッション】トヨタ・ポルテ:使いやすい
助手席スライドドア、左右非対称ボディでも操縦安定性を十分に確保
[2004/08/20]
 トヨタ自動車が2004年7月に発売した「ポルテ」は、2003年秋の東京
モーターショーに出展されたコンセプトカー「NLSV」で、その概要はすでに
紹介されている。NLSVとは、New-Life Support Vehicleの頭文字をとった名だ。

 ポルテは、助手席側の大きなスライドドアが最大の特徴であり、この部分は
グレードを問わず電動による自動開閉機能が標準となっている。そしてこの
スライドドアを、家の玄関のように位置づけ、クルマに出入りする概念を
まったく変えようという試みが盛り込まれた。

 たとえば家のドアは、まずそこを開けて中に入り、それから荷物を
下ろしたり、コートを脱いだりという動作を行う。ところが、クルマでは、
人は車内に入る前に荷物を後席に置き、コートは助手席に放り投げて、やっと
乗り込むことができる。これを、家に入るのと同じように、まずクルマの中に
入ることができるようにしようというのが、ポルテの新発想なのである。

 そのためには、荷物で両手がふさがっていても、子供の手を引いていても、
問題なくドアが開くことが大切で、そのために全自動のスライドドアが、
グレードを問わず採用されたわけだ。開発を担当したチーフエンジニアは、
さっそくポルテに乗って買い物に出かけたのはよかったが、いざ自宅に
入ろうとして「家のドアは自分で取っ手を引かないと開かないんでしたね!」
と苦笑したほど、ポルテの助手席スライドドアは開け閉めが便利にできている。

 やや長い説明になったが、ポルテの助手席スライドドアは、実際に使って
みると実に便利で、私自身、それが当たり前のようにすぐに馴染んでしまうの
だった。助手席側のスライドドアを開ければ、前後の席にそのまま人が出入り
できる。運転席へも、わざわざ車道側に出なくても、助手席側から乗り込める。
 これを実現するため、スライドドアの大きさは、幅と高さともに、トヨタの
大型ミニバンである「アルファード」より大きい。またドアだけでなく、
床面を下げることによって、乗り込む際の足の運びも楽にできている。これを
実現するため、ファンカーゴやbBのプラットフォームを活用しつつ、客室部分の
床は専用に開発した。

 助手席側のスライドドア部のサイドシルは、スライドドアのレールを確保
しつつ、右側に比べ小さな断面とすることで床を下げることにも貢献している。
室内中央の床のトンネル部分もできるだけ平らにするため、出っ張りを減らし、
その分、補強を新たに加えているという。

 ポルテはヴィッツやシエンタなどと同じプラットフォームを使う、ある意味で
派生車種であり、販売目標も4000台/月程度だ。その車体開発に、これだけの
手間をトヨタはかけていることになる。

 さらにポルテをよく観察すれば、車体の右と左とでは完全にボディパネルの
形状が異なる。当然、車体側面の開口部の面積も異なることから、車体剛性を
左右均一にするための細かい作業が積み重ねられたという。もちろん、操縦性に
おいて、右回りと、左回りとで運転感覚が違ってしまってもいけない。

 こうした左右非対称のボディ構造で操縦安定性を満たす作業は、助手席側のみ
センターピラーレス構造としたラウムでトヨタは経験済みだが、だからといって、
ポルテの開発が簡単だったかといえば、答えは否である。従来以上にスライド
ドアが大きく開く車体であり、また車高も1.7メートルを超えるから重心も高い。
ふらつきを抑え操縦安定性を確保するのには苦労したということだ。

 運転をしてみると、なるほど開発努力の成果は確かに実感でき、操縦安定性に
不安を覚えることはまったくなかった。背の高いクルマにありがちな、頭上の
天井付近がふらふらと揺れて安定しないような様子もない。誰もが安心して
運転できるクルマに仕上がっていた。
 エンジンは直列4気筒の1.3Lと1.5Lの2種類があるが、1100kg前後の車両重量に
対して、1.3Lエンジンでも十分な加速性能を備えていた。室内の
シートアレンジは、実際に使う機会が自分でもあるだろうと思える程度の内容に
割り切られており、余計なアクションを与えていない。その分、それぞれの
操作が簡単で便利だ。

 後席右側に座ると、サイドウィンドーが特急列車の車窓を思わせる大きさで、
景色を眺めながら移動する楽しさを味わえる。助手席側シートを最後端に
スライドさせると、運転席と後席右側と3人で会話のできるちょうど三角の
位置関係になり、室内の静粛性のよさもあって会話が弾み、和やかな雰囲気にも
なる。ラゲッジルームは、前後方向への余裕はそれほどないが、深さが相当に
あり、かなり多くの荷物を積めるのではないかと思う。

 結論として、使う人の気持ちになって仕上げられたクルマであることが、
随所に感じられる心地よいクルマだと思う。ポルテの発想は、トヨタが
関連車体メーカーと合同でアイディアを出し合う会合を定期的に持つ中から
生まれたものであるという。大きな助手席側スライドドアが広げる新感覚の
クルマという、挑戦的な発想が、アイディア倒れにならず、クルマとしての
機能もきちんと仕上げられている点に、開発者達の真摯な姿勢が伝わってきた。
先に発表されたクラウン・マジェスタとはまったく別のジャンルのクルマでは
あるが、同じ様に試乗後に爽快な気分にさせられるクルマだった。
http://at.nikkeibp.co.jp/members/AT/ATCOLUMN/20040819/1/