EDITORIAL 皮膚病診療:9(11);997 , 1987 西○茂○
アトピ−性皮膚炎はもっとも重要な皮膚疾患の1つであり、実地診療上避けて通れない難関である。
30年前に比べると、アトピー性皮膚炎の患者数は明らかに増加しているし、また重症の
例も多くなっている。
ーーーー中略
Bonn大学に留学した際に、やはり重症のアトピー性皮膚炎の若い女性が入院している
のをみた。当時ドイツではendogenes Ekzem といっていたが、なぜアトピー性皮膚
炎で入院を、と不思議に思った。同様にステロイド軟膏を使わない、旧来の外用療法で
治療されていたが、数週間でよくなって退院した。
ドイツの大学の小児病棟には、アトピー性皮膚炎の子供も入院している。腕に筒を
はめて、肘関節が曲がらないようにしている姿はなんとも非人道的な感じがした。本来
痒感とは掻くという衝動を伴う感覚であるが、痒い皮膚を掻けないのは大変な苦痛であろう、
しかしそれを遊びで紛らわしつつ、食物の制限を行わずに、短期間の入院治療で症状
がよくなれば治療の目的は達せられる。
endgenes Ekzem といっても、exogenの環境因子が重要な役割を演ずることは当時から
推測されており、スイスの山地にサナトリウムができたのも当然であろう。転地ができ
なければ、外因性の抗原の侵入を防ぐために入院して、厳重な包帯による外用療法が重症
のアトピー性皮膚炎の治療に必要であることを痛感した。
今日、アトピー性皮膚炎の誘因として、乳幼児では食事の因子が、成人ではダニのよう
な外的因子が問題となっているが、それらの侵襲を防ぐことは必ずしも容易ではない。実際
の治療方針としては止痒剤の内服をするにしても、ステロイド軟膏の外用療法が主体とな
らざるをえない。
ステロイド軟膏を使用していつも問題となるのは、その離脱の方法である。われわれは
ステロイド軟膏の長期使用によって、頸のびまん性の潮紅や、頸のポイキロデルミー
様変化をきたす重症のアトピー性皮膚炎がいかに多いかを経験している。このような例では、
外来でステロイド軟膏を渡すだけではまったく解決しないのであり、入院治療が望ましい。
入院したからといって特別な治療法があるわけではないが、普通の外用療法と包帯によって
症状は著しく改善される。入院中に疾患の説明と生活指導を行って、退院後悪化しない
ように努めることはいうまでもない。重症のアトピー性皮膚炎においては、このよう
な治療的および教育的な入院が望ましい。