『ヤクザと原発』書き起こし その1
“ 「海から固めた。まずは漁協の組合に話を通して、抜け駆けがないようにまとめたんだ」”
(原発誘致にあたった地元ヤクザの親分の言)
“「…中略… (建設の)話が表に出たら、街は蜂の巣をつついたような大騒ぎになったよ。もう土地はこっちで買ってあるし、それから騒いでも遅せぇんだけどな。
賛成、反対……みんな好き勝手言うけど、本音を言えば、金、金、金、どれだけ儲かるのか、いくら稼げるのか、頭にあるのは金のことしかない。
電力会社は普通の企業と規模も体質も違う。バックにいるのは日本政府だ。素直に、はいはい言ってたらなめられちまう。あっちこっちから蟻が群がってきて、儲けがよそに持ってかれちゃうんだ。
俺たちは街のため、みんなのため、地元が少しでも多くの金を取れるよう努力する。それをちゃんと地元に還元する。街の人間に嫌われたらヤクザなんてやっていけない。
地元密着の人気商売だから、みんなで儲けてハッピーにならないと生きてはいけない。きっちりそれを有言実行してるから、警察だって見て見ぬふりをしてくれる。
それに警察だって、ほとんど俺らの幼なじみだよ。あいつらも仕事だ。上からヤクザを取り締まれと言われたら逆らえない。だからメンツは立ててやる。共存共栄。…中略…」”(同じく地元ヤクザの親分)
『ヤクザと原発』書き起こし その2
“「原発というヤツは……どうしても海の近くでないと作れない。 中略 漁師たちは不安にある。漁業権はがっちり独占しているけど、自然が相手の商売だから博奕(ハクエキ)みたいなもんで、
なにかあったら補償問題にあるだろう。それを掛け合う代理人が俺たちだ。ギャーギャー大声で叫ぶだけじゃ金は取れない。原発がよその土地に行ってしまえば元も子もない。
一人一人漁師に話をする、なんてことはしないね。漁協のトップや実力者……俺らの同級生なんかと話して、賛成なら賛成、反対なら反対と動くようにしてもらう。それで電力会社から金を引き出すんだ。
足並みが揃わんとうまくいかない。一致団結、これが大事なんだ」
話が矛盾していた。被害があって初めて補償問題になるわけで、それまでその街に隣接する原発が事故を起こしたという話は聞いたことがなかった。
中略
「補償というヤツは……被害が起きてからでは遅い。漁が出来なくなったら、賠償金が下りるまで何年もかかってしまう。そんなことになれば、普通の漁師は生活が成り立たない。
家や船、GPSや魚探など、先行投資した設備のローンは、どんなことになっても待ったなしだ。もし原発から出る汚染で魚が穫れなくなったら立ち直れない。だから先取りするしかない。
それが生活の知恵、いきるための賢さだろう。 中略」”
『ヤクザと原発』書き起こし その3
“「なんていうか、給料もらってておかしな話だけど、やっぱり東京電力なんですよ、どこまでいっても殿様なんだ。
事故当時はヤクザでもなんでもいいから人を集めろ、と言ってたくせに、都合悪くなると、突然、手のひら返したように態度が変わる。表に出てないけど、フロント企業とか入ってますよ。かなりの数で。
みんな知ってるけど、関わるとややこしいことになるから黙ってるだけです。ヤクザのことは……言わないって言うか、暗黙の了解ですもんね。
有名なのはA社。本社は関東だけど、支社がいっぱいあります。とあるプラントメーカーの直です。社長が元ヤクザだったって聞いたことがあるけど、それはわかんない。
協力会社なんてたいていそう。創業者がヤクザだった会社はたくさんあります。でも時代の流れがあるから、みんな考えるじゃないですか。なのにあそこは特別やばかった。彫り物入ってる人ばっかりで。
鳶だと……ヤクザじゃなくてもけっこう入れるんですけど、話したら分かります。もう20年前はヤクザがいっぱいいましたね。 中略
自分の知人の会社も、以前はヤクザを使ってました。私らに言わせればいまさらって話で、ここはおまけにポン中(覚せい剤中毒)ばっかりで。
原発のどの分野にも、こんな会社がごろごろあった。それぞれの場所にヤクザのラインに繋がる会社があるんです。 中略」”
(電力の関連会社幹部の証言)
『ヤクザと原発』書き起こし その4
“その後も原発は暴力団……正確に言うならヤクザと一心同体だった地域共同体に金を落とし続けた。
電源三法交付金や発電所が支払う固定資産税をはじめ、原発運営、維持管理……地元に落ちる巨額の金を抜け目ない連中が懐に入れる。
バブル期は作業員一人につき、月額100万円が支給されたという。それぞれに40万円の月給を支払っても、60万が仲介した暴力団の懐に落ちる。
「駆け出しのヤクザでも10人集めれば月に600万円だ。 中略
なにか不祥事があり、それが新聞沙汰になっても、東電が怖いのは世論からの批判だけ。どの協力企業も、一度や二度、そういった不始末を起こし、名前を変えて再出発しているし、元請けだってそれは分かっている。
実質、ヤクザの会社であっても、兄弟や親戚を社長にすればいいだけだ。狭い田舎なんだから、隠そうって無理な話で、それは暗黙の了解だ。
もともとみんな仲間内なんだから。親戚や友達、先輩後輩……地域が全部グルと思っていい」
暗黙の了解……その後も原発取材で嫌というほど聞かされた言葉である。暴力団でも企業であっても、さも当たり前のようにこのフレーズを繰り返す。
暴力団にとって、原発のようにダブルスタンダードと隠蔽体質の上に成り立つ産業は、最高のユートピアかもしれない。 中略 ”
『ヤクザと原発』書き起こし その5
「1F正門に突撃」
“ 中略
さらに歩くと右に『東京電力福島第一原子力発電所サービスホール』、反対側に「おもちゃの国へようこそ」という看板があった。
ノーファインダーでデジ一眼を構え、適当にシャッターを切った。ディスプレーで確認すると露出がアンダー気味だ。ボタン操作で調整しようとしても分厚いゴム手袋のせいでうまくいかない。
ひどく暑く、なぜか口腔内に鉄の味がした。放射性物質は無味無臭のはずだし、防毒マスクをしていたので錯覚だろう。
そのとき原子炉建屋の方角から黒い煙が上がった。手にした携帯電話が鳴り、 中略
午前中はぎりぎりで荷物を取りに戻った住民が多く、一部では渋滞になっていたと聞いた。事実、私が1Fに向かう途中、バイクを運び出している男性がいて、彼の愛車はプレミア価格で取り引きされるカ■■キのZ2だった。”