柏崎刈羽 緊急対策を問う 1
新潟日報 2011年5月29日
「データ」と「仮説」がなぜ、こうも違うのか。
19日午後、新潟市中央区の自治会館。柏崎刈
羽原発の安全性を検討する県技術委員会で、核燃
料に詳しい鈴木元衛委員(日本原子力研究開発機
構)が東電担当者に詰め寄った。
「解析(による仮説)は東電の作った一つの
想定だ。実際に計測されたデータを説明する努力
を、まずはすべきではないのか」
「データ」と「仮説」とは、最初に水素爆発が
起きた福島第一原発一号機の事故分析に伴い、東
電が公表した二つの材料だ。ともに原子炉内の状
況を表している。
データは原子炉内に設置された計測器の実測値。
推移系は震災発生から16時間後まで核燃料全体が
水に使っていたことを示している。
一方、仮説は東電が計算による解析を基にした
もので、核燃料が4時間半後には水に使っていない
空だき状態になり、16時間後に溶け落ちたとする
内容だ。
>>327 東電側は技術委で、仮説は説明したが、実測
データには触れなかった。
水位計について東電は今月に補正を行い、そ
の時点の水位が実測値よりも低かったと発表。
だが「どの時点で問題が生じたのか不明」として
おり、震災後も正常に機能していた可能性がある。
技術委の議題は、福島第一事故を受け、柏崎
刈羽原発がまとめた緊急安全対策だった。だが、
対策の妥当性を判断するには、事故状況の詳細な
把握が不可欠だ。
「福島で何が起こったのか」。委員たちの質問は
そこに集中した。
鈴木委員の先の発言は、データと矛盾する仮
説が確認された事実のように独り歩きすることに
懸念を表明したものだ。
2、3号機のデータが原子炉の状況を比較的正確
に示しているとみられる中、同時期に採取された
1号機のものだけが不正確だと思えないと考
えが根底がある。
これに対し、東電原子力品質・安全部の川俣普
部長は「解析は暫定的なもの、調整が必要」と仮
説の不十分さを認めた。
ただ、計測時は炉水が高温だったこと予想される
ことを説明し、水位データについても「誤差がある
かもしれない」と述べた。
この日の技術委では他にも、東電が「後日回答
したい」などと委員の質問に対し満足に答えられ
ない場面が相次ぎ、議論は堂々巡りの様相も呈し
た。当事者ですら事故状況を十分に把握できてい
ない現状が浮き彫りになった。
>>328 福島第一原発事故を受けて東京電力がまとめた
柏崎刈羽原発の緊急安全対策には、機器の耐震強
化策は入っていない。地震のゆれが事故に影響し
たとは考えていないからだ。
東電は16日、東日本大震災の本震から津波が
到達するまでに福島第一で計測されたデータを公
表。「少なくとも地震から津波までは配管破断や
冷却水喪失はなかった」として、地震直後は原子
炉の健全性は維持されていたことを強調した。原
子炉内の圧力が急低下していないことなどを根拠
として挙げた。
そんな中で、専門家たちが注目するのは、津波
到達後の11日の夜に1号機の原子炉内の圧力が
急低下し、格納容器の圧力とほぼ同じになった原
因だ。
原子炉の蒸気が通る配管などが破損した可能性
が考えられるが、それらは建屋内にあるため津波
の衝撃を直接受けたとは
考えにくい。地震で亀裂が入ったり,弱くなった
りした部分が、その後の炉内の高い圧力や高温に
耐え切れず損傷したという見方もできるという。
事故に対する地震の影響の問題は、19日の県
技術委員会でも議論になった「地震に対しては健
全性を保ったと断言するのは時期尚早ではない
のか」。委員からこう問われた東電担当者は、「(原
子炉内)誰も見ていないので…」と、現時点で
断言できないことを認めた。
>>329 実際、福島第一の3号機原子炉につながる重要
配管が破損した可能性があることが25日に分かっ
た。震災翌日、緊急炉心冷却システム(ECCS)
の一つが起動すると、直後から原子炉の圧力が低
下。東電がECCSの配管から蒸気が漏れたと仮
定して解析した結果、実際の圧力変化ほぼと一致
したという。
東電は25日の会見で、その配管が地震で破損し
た可能性もあることを認めた。一方で、「(原子炉
内の圧力を測る)計器の異常の可能性は残る」と
も付け加えた。
地震の影響を打ち消そうとしているかに見える
東電。県技術委委員で京大原子炉実験所の中島健
教授(原子力工学)はこう推測する。
「地震の揺れが配管などに影響したとなれば、
もっと厳しい問題を抱えることになる。関係ない
と切り分ける方が楽なのだろう」
地震による重要機器の損傷が見つかれば、これ
までの原発の耐震安全性の崩壊に直結する。全国
の原発が耐震強化を求められる事態に発展するの
は確実だ。
>>330 震災から2ヵ月半余り。福島第一事故の収束
の見通しは依然として立っていない。実際に原子
炉周辺の機器の様子を見て、地震の影響があった
かどうかを確認できるまでには、かなりの時間が
かかる見込みだ。
この状況を踏まえ、東京工業大大学院のニノ方
寿教授は、電力会社自らが地震の影響を前提とす
るよう促す。「地震に弱い部分があったから、こ
れだけの事態になったのだろう。電力会社には弱
い部分をさらけ出して対策を行い、地震に対する
リスクを少しでも減らす責任がある。
東電は30、31日の両日、柏崎市と刈羽村で
緊急安全対策に関する住民説明会を開く。事故原
因すら十分に把握できていない状況で、不確定要
素がある仮説や対策ばかりを並べ立てれば、住民
はかえって不安になりかねない。