★喫茶居酒屋「昭和」参百参拾壱日目★

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487 ◆h26ZWDGHQc
じっとりと湿気を含んだ風を纏って砂色の髪、碧眼の男が店に入ってくる。
整った目鼻立ちだが、取り立てて言う程でもない。
しかし奇妙なくらいその顔の特徴を挙げるのは難しい。不思議と「印象のない」顔の男である。
テーブルの私の前の席に座り、寄ってきたウェイターにビールを頼んだ彼に話しかける。
「しかし、世界中でアンタと顔を合わせてているような気がするな。」
運ばれてきた小ぶりな瓶から直接ビールを喉に流し込んだ相手が応える。
「そうかもしれんな。」
彼が来るのは予定では2月以降の筈だった。その彼の都合が替わり、それにに合わせて、
私も現地に少し早く羽目になったのだ。そのせいではマナウスでピラニアも鰐も食べそびれた。
「で、今回のお目付け役以外に、何かあったのかい?」
私は目の前のグラスのビールを飲み干し、おかわりを仕草でウェイターに頼む。
「うん。それもあるが、伝言を頼まれているコトもあり、そして質問も預かっている。」
「伝言は「国境の煙草屋のシャッターが開くかもしれない。」だ。」
「質問は「シャッターの奥の事情を乗越入道は知っているのではないか?」だ。」
「・・・・・・・・・。」
ウェイターがおかわりのビールを置いて帰る。
「どこからの伝言かはまあ大体わかる。問題はどこからの質問かだなぁ。」
自慢じゃないが、「本国」の事情には、笑ってしまうくらい疎い私には、
前半の「伝言」は中々示唆に富むものではあるが、後半の「質問」には正直答えようもない。
そのあたりは目の前の男は百も承知だろう。自分も2杯目を注文した男が続ける。
「そう。こんな質問をお前に寄越すのは、お前さんをちゃんと知らないからだ。」
見事に一息に飲みほして
「驢馬飼いのポーランド野郎の周辺にどうやってコネつけたんだ?」
「いろいろあってね。」
ため息まじりに男がつぶやく。
「これは「伝言」と「質問」を終えた私からの「忠告」だ。奴さん達、お前さんの居所を探していたぜ。
そして今はもう知っている。どうするんだ?彼らは消耗品として「リクルート」する気だぞ。
そしてそれを断るのは中々どうして難しい。」

「そうだな。とりあえずイヤな事は酒でも飲んで忘れるコトにする。」