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452日本の格差是正に中道主義をその1
平成18年5月1日月曜日 静岡新聞『論壇』 ポール・サミュエルソン
(マサチューセッツ工科大名誉教授)

日本の格差是正に中道主義を

不公平生む規制なき市場
 日本経済に成長が戻りつつあるいま、新たな懸念が浮上している。この新たな「前進」
は戦後1950−1980年の時代に享受した平等主義を失うことで得たものであろうか。
 グローバリゼーションと規制なき市場メカニズムは貧者の犠牲で富者を反映させる不公
平な現象を生み出しているからである。
 アダム・スミスは1776年の時点でこれを予想しなかった。ノーベル賞受賞の歴史経
済学者サイモン・クズネッツは、不平等の悪化は封建時代から資本主義への移行直後にの
み発生すると予想した。そして"発展した"資本主義の下では貧者も低中流階層も平等に
大きな「勝者」となる、と予想した。
 残念ながら、1950年以降のグローバリゼーションの結果、多くの国の経済指標に所
得と富の不平等の拡大傾向が現れている。だから、4月16日付ニューヨーク・タイムズ
紙が報じる日本の規制なき市場が生んだ多くの「敗者達」の不平不満の記事は意外なもの
ではない。
 民主主義国家の有権者は@自由主義がもたらす国家の繁栄とその恩恵を保ちながらA不
平等の増加傾向を是正するために、何をすべきであろうか。
 私の現実的な答えは「優良国家であってもかつての平等社会を取り戻すためにできるこ
とは多くない」というものである。1917年以降社会主義には、マルクス主義にせよ毛
沢東主義にせよ、すでに公正な審判が下されている。例外なく、社会主義はいかなる国に
おいても人々の期待に応えられなかった。
 混合資本主義は別な道を与える。周知の通り失業とインフレを伴うマクロ経済の不安定
性は、中央銀行の金融政策と国の財政政策によって制御可能である。企業統治や売り手寡
占市場を縛り付けている悪い規制への良い対策は、規制をゼロにすることではない。正し
い企業会計を求めて意味のある規制を作ることである。
453日本の格差是正に中道主義をその2:2006/05/01(月) 23:31:50 ID:wHLqPoz3
なぜ1980年以降の保守的な自由主義論者が選挙に勝ち続けていたその時期に、企業
スキャンダルが噴出したのだろうか。現在ほぼあらゆる国々に、ロビイスト金権政治が存
在している。一人一票の制度は依然として生きている。しかし、現代の選挙で勝つために
は何百万jあるいは何百万円ものカネが必要である。このカネは企業や裕福な大物にしか
出せない。
容易でない所得移転の断行
 "制限付きの"福祉国家は、有権者に発言権があれば、限定的ではあるが中道政策とし
て、@所得と富の上昇に伴う何種類かの"累進"課税を制定しAグローバル化の市場主義
の下で敗者となった国民に対して、政府がさまざまな救済措置を制定することができる。
 ここで用いた「制限付き」という言葉は重要である。ラテンアメリカの大衆迎合的な民
主国家は、いずれも法律により経済発展への意欲を阻害することなく不平等を無くすこと
ができなかった。1950−1990年の北欧の行き過ぎた平等主義からも同じ教訓を学
ぶことができる。フリードリヒ・ハイエクは「隷属への道」で、スウェーデンが全体主義
になる、と予測したがこれは誤っていた。
 だが、国民所得の半分が政府支出で賄われるような福祉国家では、"平均的"国民が享受
する福祉の伸び率は逆に低下せざるを得ない。
 中道主義は思いやりのある社会の構築を成功させるスローガンではない。成功のための
一つの必要条件である。同種民族の日本だからこそできることは、勝者から敗者への限定
的かつ人道的な所得移転という投資を断行することである。だがこれは政治的には容易な
ことではない。《以上です》