【極東】北朝鮮総合スレ(旧北朝鮮実況)part925

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355日出づる処の名無し
>>217-220>>350-354
論 点 拉致被害者はいつ取返せるか 2005年版
◆ 私の主張
経済制裁は弱者を苦しめるだけ――援助こそが北を動かすカードである
朴 一(大阪市立大学経済学部教授)
ttp://books.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/ron/05/012/r05012BNB1.html
ttp://books.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/ron/05/012/r05012BNB2.html
中・韓との交易が増え、日本とは減った理由
 二〇〇四年(平成一六年)八月・九月、北朝鮮による日本人拉致問題などを話し
合う日朝実務者協議が相次いで北京で行われた。期待されていた安否不明一〇人の
再調査について北朝鮮が充分な情報を示さなかったことで、家族会(「北朝鮮によ
る拉致」被害者家族連絡会)やその関係者から強い不満が表明され、北朝鮮に対し
て経済制裁の実施を求める声が再び高まっている。
 拉致被害者家族のいら立ちや苦しみは理解できるが、経済制裁は北朝鮮に拉致問
題の解決を促す有効なカードになりうるのだろうか。
 日本政府は北朝鮮に「圧力」をかけるため、すでに二つの経済制裁法を成立させ
てきた。一つは、国連決議などの根拠がなくても、日本独自の判断で北朝鮮への送
金や取引を規制できる改正外為法(二〇〇四年二月)。もう一つは万景峰(マンギ
ョンボン)号など北朝鮮船舶の日本への寄港を禁止できる「特定船舶入港禁止法」
(二〇〇四年六月)である。家族会のみならず与野党の強硬派は、こうした経済制
裁をてこに北朝鮮に拉致や核問題の早期解決を促すというが、経済制裁が北朝鮮に
及ぼす効果はどの程度のものか、感情論抜きに冷静に考えてみる必要がある。
 北朝鮮にとって日本が重要な貿易相手国であることは事実である。だが、一九七
〇年代に北朝鮮の債務不履行問題が表面化してから、日本政府が貿易相手国のリス
クに対応する貿易保険の対象から北朝鮮を除外してきたため、日朝の貿易額は減少
の一途をたどってきた。食糧援助を除く日朝の貿易総額は、八〇年代前半には年間
八〇〇億〜一一〇〇億円規模で推移していたが、二〇〇〇年以降になると五〇〇億
〜三〇〇億円台まで落ち込んでいる。
356日出づる処の名無し:2005/10/05(水) 16:41:21 ID:rzbEL28T
>>355 つづき
 とくに北朝鮮への日本の輸出は低迷している。北朝鮮には貿易保険がつかないこ
とで、同国への大型輸出案件がほぼ停止状態になっているからである。日本政府が
北朝鮮に対する貿易保険の取り扱いを停止していることが、実質的に経済制裁に近
い役割を果たしてきたといっても過言ではない。
 北朝鮮は日本との貿易額を減らす一方で、中国や韓国との貿易額を大幅に増加さ
せている。北朝鮮と中国との貿易総額は九九年に三億七〇〇〇万ドル(日本円で約
四〇〇億円)まで落ち込んでいたが、二〇〇三年には前年比で四割近く増加し、初
めて一〇億ドル(日本円で約一一〇〇億円)を突破した。
 また韓国との貿易も太陽政策に乗って急増し、二〇〇二年には南北の貿易総額が
六億ドル(日本円で約六六〇億円)を超え、韓国は日本を抜いて中国に次ぐ北朝鮮
の第二の貿易相手国に成長した。二〇〇三年に入ってからも、南北の貿易総額は前
年比で一割以上増加し、七・二億ドル(日本円で約七九〇億円)に達している。こ
の結果、北朝鮮の対外貿易の約七割が中国と韓国で占められることになり、日本と
の貿易は送金を含めても二割に満たないのが実情だ。
 このように、北朝鮮は貿易面で中国や韓国への依存を深めつつあり、今後もこう
した傾向が続く限り、日本が単独で経済制裁を実施したとしても、金正日政権に大
きな打撃を与えることはできないと思われる。

送金停止は帰国者らにとっては「死刑宣告」
 北朝鮮への送金や北朝鮮船舶の日本への寄港が禁止されて、本当に困るのは誰か
。それは北朝鮮の支配層ではなく、一〇万人に達するといわれる北朝鮮に帰国した
元在日朝鮮人や、彼ら帰国者と結婚し、北朝鮮で生活する日本人配偶者たちである
。北朝鮮に引き揚げた後も厳しい経済生活を余儀なくされている彼らは、日本から
の仕送りを唯一の生活の糧としており、日本からの送金停止は「死刑宣告」に近い
ものがある。
357日出づる処の名無し:2005/10/05(水) 16:42:15 ID:rzbEL28T
>>356 つづき
 また日本は一九九五年から二〇〇〇年まで計六回、日本赤十字やWFP(世界食
糧計画)を通じて一二八万トンに及ぶコメ支援を北朝鮮に対し実施してきたが、経
済制裁でこうした人道支援がストップすることになれば、現地で飢餓に直面してい
る子どもたちが最大の犠牲者になる。
 WFPの報告によれば、現在、北朝鮮の人口の四分の一以上にあたる約六四〇万
人が依然として食糧不足に陥っているという。また二〇〇四年一月、国際人権団体
アムネスティ・インターナショナルも「北朝鮮の食糧危機でこれまでに数十万人が
餓死した」と報告している。WFPは二〇〇四年に四八万トンの食糧援助を計画し
ているが、未だ目標値は確保できず、援助のめどがたっていない。医薬品も必要と
している人々の半分以下しか行き届いていないという。
 こうした状況のなかで経済制裁を実施しようというのは、北朝鮮の罪もない弱者
を苦しめるだけの最悪の選択にほかならない。

食糧の配給状況は改善している
 幸い、二〇〇四年八月、日本政府は日朝実務者協議が開催される直前、北朝鮮に
対する食糧・医薬品援助を決定した。安否不明の拉致被害者一〇名の再調査に関し
て実務者協議で北朝鮮に前向きな対応を促すことが狙いであったと思われるが、飢
餓で苦しむ北朝鮮の民衆からみれば、何よりも歓迎すべき決定であったといえる。
 残念ながら、今回の日朝実務者協議では北朝鮮から再調査について新たな情報は
提示されなかった。だが、二〇〇四年五月の日朝首脳会談で小泉首相が金正日総書
記に食糧・医薬品支援を約束したからこそ、懸案であった拉致被害者五人の家族八
人全員の帰国・来日問題が解決したのである。
 経済制裁ではなく経済援助のカードが、金正日政権を拉致問題の解決に向かわせ
たことを、「制裁」推進派の人々は肝に銘じるべきである。
358日出づる処の名無し:2005/10/05(水) 16:43:16 ID:rzbEL28T
>>357 つづき
 日本政府は「安否不明者の調査結果が何も出ていないのに、援助すべきでない」
という批判を考慮し、今回は北朝鮮に約束した量の半分を先行して供与し、残り半
分の支援の時期については北朝鮮の出方を見て決定するとしている。だが、北朝鮮
もまた日本の出方を見ているということを、日本政府は理解する必要がある。
 また北朝鮮に対する食糧・医薬品援助については、「どうせ末端の国民に行き渡
らないから無駄」という批判の声も聞かれる。しかし、WFPは「北朝鮮に到着し
た食糧は支援国の名札を付けた袋に入れられて、WFPの監視下で各地域の拠点に
輸送され、各家庭や孤児院をWFPのスタッフが訪問して、実際に配給対象者が食
べたかどうかチェックする」と報告している。また米国政府も「北朝鮮もこの半年
間(二〇〇四年度)に食糧の配給状況に対する監視を受け入れる機会を増やしてい
る」ことを評価している(朝日新聞二〇〇四年七月二四日付)。

北朝鮮の改革にブレーキをかけるな
 北朝鮮の経済システムにも大きな変化が見られる。北朝鮮は二〇〇二年七月から
、配給制の廃止や商品価格の引き上げなど、実利主義の観点から物価や賃金システ
ムの見直しを進めている。
 配給制の廃止は、物資の不足という厳しい現実からもたらされたものである。ま
た商品価格の引き上げも、実勢価格よりも安く設定された商品の公定価格を、実際
に入手可能な闇市場価格まで引き上げたものにすぎない。とはいえ、こうした改革
を通じて農産物の買い上げ価格が大幅に引き上げられたことで、農民の労働意欲が
向上する可能性は充分にある。
359日出づる処の名無し:2005/10/05(水) 16:44:10 ID:rzbEL28T
>>358 さいご
 さらに今回の改革では、企業が赤字経営になった場合に適用されていた補償金制
度が廃止される一方、従来の連合企業所を解体し、完全な独立採算制が導入された
。また労働者に対しても、生産現場の収益に応じてより多くの報酬が得られる成果
主義が多くの職場で導入されることになった。
 これは、これまで計画目標が未達成であっても労賃の八割が保障された労働者も
、ある程度結果を出さなければ利益を享受できないということを意味する。いわば
、政府、企業、労働者がリスクも平等に分担しながら、労働に対するインセンティ
ブを高め実利を追求しようというのが、今回の改革の狙いであると思われる。
 とはいえ、改革をスタートさせ、国内の経済システムを改善しようとしても、改
革に必要なエネルギーや物資を海外から調達できなければ、北朝鮮は疲弊した経済
を復興させることはできない。
 日本が経済制裁を実施して、罪もない弱者を餓死に追いやり、北朝鮮の改革にブ
レーキをかけるのは、賢明な選択ではない。経済援助を提供して北朝鮮の改革・開
放を促しながら、拉致問題の解決を迫ることが、東アジアの平和と安定にとっても
、望ましい選択であることを主張したい。

推薦図書
『日朝関係の克服』
姜尚中(集英社新書)
『北朝鮮をどう考えるのか』
ガバン・マコーマック(平凡社)
『変貌する韓国経済』
自著(世界思想社)
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以上