またこの季節が巡ってくる…夏。そしてこの時分になれば決まって思い出される
ことがある…
「ほらあんたたち、道具忘れてない?」
「はーい」「はーい」
「行儀よくしなさい、それとおばあちゃんに迷惑かけないように」
「はーい」「はーい」
祖母との墓参り。共働きで多忙な両親の名代と、長い休みの一イベントを兼ねて。
首都圏の縁を出発して歩くこと暫し。孫兄妹、先達の歩みに合わせて。
「おじいちゃんのお墓?」
「タカは覚えとるかねぇ…ユカはまだちいちゃかったから、覚えとらんかもねぇ」
皆で雑草をむしり、墓石を磨き、そしてお供え。日常と非日常の交差するひととき。
「おばあちゃんはまだ、行くとこあるんけど、ついてくかねぇ」
取り立てて外へ出ることも希で、普段は寡黙だった祖母。その問いは未だ健康、
しかし齢相応な躰の衰えを子供心にも案じさせたし、また更なる非日常への誘い
とも取れた。
最寄りの駅に行く。日頃はお目にかかれない額面の切符。暫し揺られて、乗り換え。
都会の喧騒。迷路のような路線図。慣れない祖母に代わり、慣れない孫兄妹が目的地
探し。戸惑いながらも、ぎこちない手つきで機械の画面を二人して触る。全てが
極上のアトラクション。
九段下、一番出口より徒歩一分。その規模、その人出の多さ、そして若干の夾雑物。
自分の知るそれとは全く異なる世界。
「おばあちゃん、お参りしに来たん?」
「そうやなぁ…おばあちゃんは、おにいちゃんに会いに来たんやなぁ」
訝しる孫兄妹。
「ユカには、おにいちゃんがおるわなぁ」
「いるー」
「そうやな…おばあちゃんも、ユカと同じように、おにいちゃんがおったんやなぁ…」
かつての祖母には兄がいた。そこまでが当時の孫兄妹に理解できる限度であって、
それ以上の事柄を正しく把握するのにはそれ相応の年月が求められたのであった…
…その祖母も旧に没し、当時の事情も全て知る今、たまには当時の行程を辿って
思い出を暖めてみるのも悪くはない。そう思いながら妹にメールを打っている。
『靖国に行こう』