934 :
53:2006/02/23(木) 19:34:48 ID:bwToB0O7
>>932 そうか…携帯の人を忘れてた。
できる限りこちらに貼りますが、危なくなってきた場合はテキストに切り替えます。
ご了承下さい。
しかも直貼りはただいま2分規制のため、投下が凄くゆっくりです。
こちらもどうかご容赦を。
では、続き。
935 :
53:2006/02/23(木) 19:38:25 ID:bwToB0O7
─────────……。
「…ふぅ、ん。やっぱり。…これしかないのね。」
帰宅途中の裏通りで、彼女…マリアは珍しく緊張した面持ちで歩いていた。
その両手には一枚の薄っぺらい羊皮紙が広げられている。
段々と日が短くなって来るこの時期。
逢魔刻と呼べる時間帯である。
「……あの子、なんて顔するかしら。でも私だって本当は…。」
街灯がふいにパッと彼女の黄金の髪を照らし出す。
その人工の光に自然に触覚が反応し、揺れる。
「残してきた子供たちにとっては残酷だけど…。そうね。アトリにとっては…。」
クスリ、と一瞬微笑を浮かべて彼女は歩調を速めた。
その瞳は、すでに深海の蒼ではない。
彼女の全てが込められた深森の碧と化していた。
936 :
53:2006/02/23(木) 19:40:53 ID:bwToB0O7
ふ、と風が頬を通り抜けた。
夏の余韻を僅かに残す風は、暖かさが微塵にしか感じられない。
「この風…前より冷たくなってる。」
徐々に暖かさを失ってゆく風。それは、一人の女性を連想させた。
彼女に今回の『決意』を固めさせた張本人…モカ。
五感全てを研ぎ澄まし、彼女は風を感じた。
その髪で。その触覚で。その頬で。…その心で。
段々と日が沈んでいく。
彼女の儀式が、始まろうとしていた。
日が落ちると共に、彼女の『力』が瞳に集中していく。
「でも…大丈夫よ。必ず助けてあげる。だってあなたも…。」
彼女の瞳の色がまた変化し、彼女の視界が若干揺らぐ。
…彼女は意志を再確認するように、再び言葉を紡ぎだした。
「…私の、娘ですもの。ね、モカ…。」
937 :
53:2006/02/23(木) 19:43:47 ID:bwToB0O7
──────……。
ドクン
今。今しかない。もう、今しかない。
これ以上先はもう望めない。
まだ少し寒い。だけど。
今しか…ない。
いつか祐二さんが言ってたっけ。
あれは…そう。一緒にドラマ見てた時。
その中の台詞で男の人が言ってた。
「ろうそくが消える前が一番輝く。…お前は今、輝いてるよ。」って。
ねぇ…祐二さん。言葉にはできないけど、聞いていいですか?
私、今───……輝いて、いますか?
938 :
53:2006/02/23(木) 19:46:05 ID:bwToB0O7
もしも輝いているなら、私の最後のお願い聞いて欲しいです。
最後の、輝きの煌きを受け取って欲しい…。
もう、今しかないんです。私は今しか起き上がれない。
後数時間でもう終わってしまうから…消えてしまうから…。
最後に…あなたと私の結晶を作りたい。
消える私が残せる、唯一の、生きた証と愛の結晶。
祐二、さん…。ううん…私の…旦那様…。
──────……。
939 :
53:2006/02/23(木) 19:48:21 ID:bwToB0O7
首がガクンと崩れた衝撃で俺は飛び起きた。
辺りが若干以上に暗く、時計すら見えない。
…背中に感じる冷たい風が、なんとなく時刻を知らせてはいたが。
でも風が流れ込んでくるなんてことがあるのだろうか。
モカの体温が下がっているときに奥の間の窓を開けるなど
俺はそんなことはしない。
不審に思って俺は座ったまま後ろを振り向いた。
満月がちょうどいい位置に来ていた。
家の中を照らすような角度で、俺に顔を向けている。
だが、俺はそれよりもとても大きな事実を目の当たりにした。
──モカが、起きている。
940 :
53:2006/02/23(木) 19:50:39 ID:bwToB0O7
いつも以上に儚げに彼女は月を見つめていた。
布団から上半身だけを起こし、ただひたすらに。
その様子は月に帰らねばならないかぐや姫か、月を臨み浜辺で歌う人魚か。
…そんな、錯覚すら覚えるほどに彼女は寂しげで、儚げなんだ。
起きたら散々言いたいことがあった。「大丈夫か」「気分は?」「何か食べるか?」
でも、俺は声を掛けられない。
これは喜びからでもなんでもなく…ただ、その姿に対して声を掛けづらい。
何か重大なことを秘めている…そんな圧迫感。
「……こんばんは。祐二さん。とってもいい月ですよ。」
思わず体が跳ね上がった。静寂の中突然声を掛けられたせいだろうか。
俺は舌足らずのように、ただ普通に挨拶を返してしまう。
「…あ、あぁ…月が、そうだな。」
情けなくも日本語すらままならない。
941 :
53:2006/02/23(木) 19:52:55 ID:bwToB0O7
「クス…どうしてそんなに緊張してるんですか?」
「いや…緊張なんかしてない。…そうだ、モカ…その…もう起きて大丈夫なのか?」
モカは月を見ているばかりで決して振り返ろうとはしない。
だが、その声色は明らかに悪くなってきている。
「…はい、今は。」
「今は…ってお前。」
「もう時間がないんです。…これが、最後です。」
そう言って振り向いたモカの顔は、病的なまでに白い。
瞳の紅蓮は何故かより一層の輝きを見せ、顔とは驚くほどに
ミスマッチ…だろう。
「最後…。」
改めて再認識する。モカの身体はもう持たない。
分かってはいても奈落の底に落とされた気分になってくる。
942 :
53:2006/02/23(木) 19:55:13 ID:bwToB0O7
「だから…最後のお願い聞いてくれますか?」
「……モカ。」
モカの一筋の涙が月明りに照らし出され、輝いた。
何も言わずに俺は奥の間へと歩き、モカの布団へ腰を下ろす。
「祐二…さん。私をいっぱい愛してください。最後まで…終わる、その時まで…。」
「俺も…最後までお前を愛したい。お前の全ては俺の腕の中で受け止めるよ。」
気がつけば俺も涙を流していた。
モカが消えることが悲しいのではない。…最後まで繋がっていける俺自身が嬉しかった。
「…あ…後もう一つだけ。」
俺に身を預けようとしたモカが顔を上げ、恥ずかしげに言葉を発した。
「…ん?」
「あの…祐二さん…私、もし、できたらですけど…祐二さんの子供が欲しい…。」
「結構モカとはしちゃってるから…もうできてると思うぞ。」
943 :
53:2006/02/23(木) 19:57:30 ID:bwToB0O7
俺が苦笑し、モカを抱き寄せる。
「いいんです。念には念をって… 言うじゃないですか。」
「じゃあ俺にも約束してくれよ。無理…かもしれないが。」
「…はい?」
大きく深呼吸して、モカにその『約束』を伝える。
「産んでくれ。元気な子を産んで欲しい。」
モカは身をよじらせて、俺の胸に顔を擦り付けつつ笑った。
「ふふ…はい。分かりました。それだけは必ず約束します。」
「それでいい。…じゃあ、モカ。始めようか。」
モカを仰向けに優しく押し倒して、俺は開始を告げた。
黒髪が大きくばらけて、布団に広がっている。
「…はい。私を最後まで…見てください。」
そしていつもの通り、俺達の育みは口付けから始まった。
944 :
53:2006/02/23(木) 19:59:49 ID:bwToB0O7
──────……。
気がつけば祐二の部屋で寝かされていて…下に降りてみれば
モカお姉ちゃんが起き上がっていた。
とても悲しそうな後姿で月を見つめていた。
…うん。もういいの。この先は何も思わないことにする。
あたしはこれでいいの。
嫉妬なんて真似はしないよ。
このままあたしはこの家を出て行くから…。
祐二とは別の意味で深く分かり合えた気がする。
あいつもあたしの気持ちのことでたくさん謝ってくれたし
理解もしてくれたんだもの。
…もう、いいの。
祐二…モカお姉ちゃんはもう…凄く短いと思うけど幸せになってね。
945 :
53:2006/02/23(木) 20:02:09 ID:bwToB0O7
「…そう。幸せに、なって。」
心の中で思ったことをあたしは言葉にして決意を固めた。
「さよなら…祐二。」
……よし。言えた。
あたしは音を立てないように、玄関から出て行った。
巣への暗い夜道をひたすらに走る。
走りながらあたしは、未練がましくこんなことを思っていた。
「…あんたがあたしを忘れた頃。もっと美人になって帰ってくるから。にひひっ…。」
自分でも気色悪いなーなんて笑いを浮かべてあたしは走り続ける。
実はこんなに走り続けるのにはもう一つ…とても心配なことがあるから。
お母さんの帰りが遅すぎる…。
946 :
53:2006/02/23(木) 20:04:26 ID:bwToB0O7
実はあたしの巣は祐二の家から30分ほどの場所にある公園の茂みの中にある。
この前2〜3日帰ってこなかった時は、あたしのお姉ちゃん達と遊んでたから遅かったんだけど…。
調べ物して帰ってくるのにこんなに遅くなるのは少しおかしい。
お母さんはああ見えて凄く博学な人だからそこまで困らないとは思う。
だから、余計に…。
公園の茂み近くまで通常の半分の時間で到着した。
そこで、一旦本来の姿へと戻るべく精神を集中させる。
祐二の血を浴びてから作られたこの体から、本来の姿へ戻ることは
あたしにとってほぼ絶望だった。
そんな時、お母さんが現れて…そう。元に戻る方法教えてくれたんだっけ。
極度の精神集中とかなんとか言ってたけど…やるのは初めてなのよね。
一瞬の風が体を通り抜けたような感覚の後、フワリと体が浮いた。
…でも、その時。あたしの蟻としての感覚が反応し、それは中止された。
947 :
53:2006/02/23(木) 20:06:44 ID:bwToB0O7
近くにお母さんの反応がある…!
しかもその反応は一向に動く気配がない。
迫り来る焦燥感と闘いながらも、あたしは目を閉じて触角の感覚を鋭敏にした。
五感のうちの一つ、視覚が閉ざされ、変わりに聴覚が研ぎ澄まされる。
耳の鼓膜に響いてくるのはここちよい夜風の、ここちよい風音。
…ただ、それだけ。
もしお母さんが仮に、人間体型のまま倒れているとしたら呼吸があると思ったのに…
その期待は『ハズレ』だった。
…だけど。
──……シリア。
聞こえた。
息ではなく、発せられる声でもなく、それは意識に響くお母さんの声。
親子だから分かるのか、あるいはお母さんの不思議な力なのか。
私はとにかくその声に従って、突き進んでいった。
948 :
53:2006/02/23(木) 20:09:07 ID:bwToB0O7
──────……。
「…っぁ…はぁっ…はぁ…祐二さん…熱い…。」
「すぐ慣れる。…気分は大丈夫か?」
「んっ…んぁっ…は…だ、大丈夫…です。気持ちいい…。」
モカの体が、少しずつ俺の唾液にまみれていく。
全身全てを愛撫して、少しでも体温をあげようかなどとでもいうように。
実際モカの体温は何故か上がっていた。
最初に触れたときよりもずっと暖かく、そして安心する温度になっている。
「…なんか…いつもより…敏感に…ぃっ…あっ!」
舌が全身をくまなく這い回り、最後に彼女の秘部へと到達する。
そこはすでに濡れそぼっており、奥からもとめどなく彼女の愛液が溢れていた。
「モカ…結構感じちゃってる?」
「んっ…もう…祐二さんてば、最後まで意地悪です…。」
窓から差し込む月明かりがモカの真っ赤な顔を照らし出し、俺の顔をほころばせた。
949 :
53:2006/02/23(木) 20:11:24 ID:bwToB0O7
「ごめん。…でもモカ可愛いから。」
「っふふ。祐二さんは本当に率直にものを言いますね。…あ、そうだ…。」
久しぶりにモカの触角がピコン、と動いた。
何かを思いついたらしい顔つきのモカは、ゆっくりと起き上がる。
「祐二さんの…、私のお口でしたいな…。」
いつにも増して色の強い赤の瞳が、うるる、と潤んだ。
こっちからお願いしたいくらいのことを断るはずもなく…。
「ん…じゃあお願いする。」
「はい…。では、最後のご奉仕。…頑張りますね。」
モカは俺を仰向けに寝かせると、俺のそそり立ったそれを手で優しく包んだ。
細く、きめ細かな指に触れられて勝手にビクン、とそれが反応してしまう。
「ちょっと触っただけなのに…ビクッ、て。可愛い…。」
その反応がお気に召したのかモカは手を上下させて、しごき始めた。
950 :
53:2006/02/23(木) 20:13:44 ID:bwToB0O7
「ごめん。…でもモカ可愛いから。」
「っふふ。祐二さんは本当に率直にものを言いますね。…あ、そうだ…。」
久しぶりにモカの触角がピコン、と動いた。
何かを思いついたらしい顔つきのモカは、ゆっくりと起き上がる。
「祐二さんの…、私のお口でしたいな…。」
いつにも増して色の強い赤の瞳が、うるる、と潤んだ。
こっちからお願いしたいくらいのことを断るはずもなく…。
「ん…じゃあお願いする。」
「はい…。では、最後のご奉仕。…頑張りますね。」
モカは俺を仰向けに寝かせると、俺のそそり立ったそれを手で優しく包んだ。
細く、きめ細かな指に触れられて勝手にビクン、とそれが反応してしまう。
「ちょっと触っただけなのに…ビクッ、て。可愛い…。」
その反応がお気に召したのかモカは手を上下させて、しごき始めた。
951 :
53:2006/02/23(木) 20:16:02 ID:bwToB0O7
「っぉ…モカ…それやばい…。」
モカの手つきはとんでもないほどに、いやらしい。
あまり触らせたことはないのに的確に俺の弱点をついてくる。
「いつも祐二さんと一つになってるんですよ?…弱いところぐらい知ってます。…こことか。」
そう言って、中指で亀頭の左側根元を擦りあげた。
「…ああっ…!」
背中に電流が流れたと思うほどに、俺は仰け反る。
それをモカは面白がり、さらに弱点を擦りあげ、時には焦らしてつづけた。
「やばい…やばいっ!モカっ…!」
「…っとと…ダ〜メ、ですよ?まだ『ご奉仕』してませんからね…。ふふ。」
俺がイきそうになると、モカはそのしごく手を休めて俺の射精感が収まると
再び上下運動を開始する。
まさに、地獄。モカってこんなにサディストだったっけか…。
腹の底から湧き上がる苦笑をなんとか留めて、モカに身を任せる。
952 :
53:2006/02/23(木) 20:18:19 ID:bwToB0O7
「じゃあ…いきますね?…あむ。」
その比較的小さな口に俺の亀頭が控えめに納まった。
たったそれだけなのに、早くも強烈な射精感が襲ってくる。
「っ…!」
「ん…ちゅ…ぢゅる…んん…。」
あっという間にモカは口内を唾液で満たし、それを潤骨剤として
舌を右往左往と這いまわせた。
「…っくぁ…っ…モカっ…ペース早いって…!」
襲い来る快感の中、モカを制してみようと試みるもやはり無理。
俺の反応を楽しむように、モカは初期の頃など比べ物にならないくらいの
舌技を駆使してくる。
「ぇる…ん〜…ちゅっ…ちゅむ…。」
ぞわわ、と背筋に走る何か。モカの舌が裏筋を這った証拠だ。
「…んぅ…んふふ…ぷぁ…れる…はむぅ…。」
953 :
53:2006/02/23(木) 20:20:43 ID:bwToB0O7
しかも焦らされてる。
モカ…何か凄く『責め』がうまくなってますね。…もしかしてマリアさんの入れ知恵か?
ソフトクリームを舐めるようにゆっくりと舐め、咥えたらすぐに離すという快感地獄。
「モカ…やめ…。」
「んー…?らめれすよぅ…んふふ。んぷ…ぁ…。」
モカは上目遣いに俺を見つめて、その瞳を可愛げに細めた。
…と。
ビリッ
亀頭の敏感な尿道付近に強烈な痺れが発生した。
「あ…っ…何だこれ…!」
その感覚はやがて亀頭全体を包み込むように伝わっていく。
「…ん…ちゅ…。これ…蚊の唾液成分ですよ。うふふ、気持ちよく、なってきませんか?」
食らった時は痛かったが、中々どうして気持ちよくなってきている。
954 :
53:2006/02/23(木) 20:23:01 ID:bwToB0O7
「でもモカ。これ身体に悪影響な気もする。」
「大丈夫ですよ。…それじゃあ、そろそろ慣れてきたと思うのでラストスパートですね。」
「ラストスパート…ってモカ…うわわっ!」
再び控えめにモカの口の中に納まった俺の亀頭。
しかし快感は先ほどの比ではない。
まるで初めて皮を剥いたときのように、初めてその敏感な部分を空気に晒した
あの時のように亀頭そのものが敏感になっている。
「ちゅ…んぷ…ぁ…はむぅ…。」
そこへ持ってきてモカの追い討ちのような強烈な舐めまわしに、俺はあっけなく限界を迎えた。
「無理…モカ…っ!」
「…ん…ちゅ…ちゅう…んんっ…!」
俺の言葉に合わせるようにモカの愛撫の仕方が変化した。
中の精液を抜き出さんとするばかりに吸い上げていく。
955 :
53:2006/02/23(木) 20:25:21 ID:bwToB0O7
そして、俺はモカの口内で果てた。
「…っっぅ…!」
ビクッ…ドクンッ…
イチモツが激しく脈動し、ひたすらに先端から白濁液を放出する。
「んんっ…!んっ…んく…っ…あ…ん…ちゅ。」
それをモカは若干苦しそうに、飲み込み始めた。
「…ん…けほっ…けほっ…。」
「ちょっ…モカ!大丈夫か!」
むせ返り、口元に手を当てるモカ。
だがモカはにこーっと満面の笑みを浮かべた。
「凄く喉に絡み付いてきて…うまく飲めませんでした。えへへ…。」
そのカラッとした様子に、思わず苦笑する。
「…馬鹿。無理するなっての。」
「蚊はこうしたほうが赤ちゃん作りやすいですよきっと。」
…果たしてそうか?確かに血を吸ってどうとかは聞いたことあるけど…。
956 :
53:2006/02/23(木) 20:27:40 ID:bwToB0O7
そんな姿でも笑顔のモカに俺は迷わずキスした。
自分の体液がモカの口についているとかお構いなしに、深く、深く。
汚いうんぬんではなくて、今俺の心にある感情は一つ。
──愛しいから。
キスをしながら、お互いの指をからませて俺達は布団へと沈んでいく…。
──────……。
「お母さん…何で…?」
蟻の感覚を頼りにあたしが向かった先…それはいかにも人目につかなさそうな
公園の奥の林を回るための道に、お母さんは倒れていた。
蟻の証でもある力強い二本の触覚をだらしなく垂らしながら。
急いで抱き上げてみるものの、お母さんは目を瞑ったまま…。
「…ねえ…お母さん…。」
「……。」
957 :
53:2006/02/23(木) 20:29:58 ID:bwToB0O7
呼吸はある…だけど…とても荒い。
抱きかかえるあたしの腕の中で、お母さんは手を動かしてあたしの頬に触れた。
そこにいる誰かが娘であることを確認するように声を発する。
「シリア…?」
「うん。あたし…。お母さん…何があったの?」
お母さんは瞳を開けようとはしない。道脇の外灯が私達を優しく照らし、そして瞬いた。
「…ごめん、ね。私…もう目が見えないのよ。」
…本当に、何が。
何が、あったのだろう。常日頃、決して『挫ける』ことも『倒れる』ことも知らなかったお母さんに一体何が。
「今から話す事…よく聞きなさい。」
「…うん。」
驚くほどに冷静な自分がそこにいた。
命の灯火がすぐにでも燃え尽きそうな母を目の前にして、こんなにも冷静なあたしが。
お母さんは、荒い息を抑えつつ静かに語り始めた。
958 :
53:2006/02/23(木) 20:32:17 ID:bwToB0O7
「…いい?お母さんはね…シリアと違って『血』でこの身体になったんじゃないのよ。」
これが最後だよ、とでも言わんばかりにお母さんはあたしの本名を連呼し、続ける。
「長年…養ってきた女王の『力』。特別な『不思議』でこうなった…。これは知ってるでしょう?」
「前に…聞いたよ。」
外灯が瞬くのと同じ瞬間、お母さんもまた息継ぎをするように大きく深呼吸した。
「この『力』の中の一つにはね…女王が息を引き取るその間際に娘を延命させるっていう力があるの。」
「…延命?」
「そうよ…ん…けほっ…。だから…『私の娘』を延命させたの。彼女…子供が欲しいって…げほっっ!」
深夜の公園に、ひとしきり大きな濁音が響き渡った。
「お母さ…!」
「聞きなさい。……あの子も私の娘なの。…ごめんね、シリア。あなたにはほとんど母親らしいことしてあげられなかった…。」
お母さんの閉じられた瞳からは、一筋の涙が零れ落ちていた。
その涙を拭うこともせず、お母さんの細い指はあたしの頬に触れている。
959 :
53:2006/02/23(木) 20:34:38 ID:bwToB0O7
「…お母さ…ん…っっ…えぐっ…!」
「もう…。泣かないの。次期女王はあなたなのよ…?」
「だって…ふぇっ…ぐすっ…あたし…!」
お母さんを支えているから、あたしは溢れ出る涙を拭えなかった。
とめどなく溢れるそれを、代わりにお母さんが指で拭ってくれる。
「…ふふ。本当にもう…どうしようもない子ね。」
「うっ…ぐっ…ひぐっ…。」
微笑みながら、お母さんはいつかのように頭を撫でてくれた。
子供の頃からあたしがなくとお母さんはいつもこうして慰めてくれたっけ…。
そういう時はいつも大人しく泣き止んでいたけど… 今は決して、泣き止めなかった。
「…本当に…ごめんなさい、シリア。残してあげられるのが女王の座だけで…。」
「いい…からっ…!そんなのいいからぁ…っ!一人にしないでよぉ…!」
顔をくしゃくしゃにして、我侭にも無理なお願いをするあたし。
960 :
53:2006/02/23(木) 20:36:59 ID:bwToB0O7
少しの沈黙の後、お母さんは口を開いた。
それを、最後の言葉とするために。
「…シリア。私のところに産まれてきてくれて…本当にありがとう。そして…」
──さようなら。世界で一番愛しい、私のシリア──…。
その言葉と微笑みを最後に、お母さんはそのままあたしの腕の中で事切れた。
…微笑んだ、その顔のままで。
「……嫌だ… 嫌だよお…お願い…ねぇ…一人にしないで…!」
ゆすってもゆすっても、あたしのお母さんは動かない。
ただ安らかに静かな微笑みを浮かべて、あたしの腕の中で眠っていた。
お母さんの最後の笑顔すらも飲み込んでしまいそうな夜の闇に向かって
あたしはひたすらに叫んだ。
人目も、時間も、言葉すら気にせずにただ、ひたすらに。
961 :
53:2006/02/23(木) 20:39:19 ID:bwToB0O7
「いやあああァァァァァァァッッ!」
あたしは…なんてバカだったんだろう。
人間の男一人を追い続けたがために、一番大切な人を失ってしまった。
どれだけその男が大事でも、常にそれ以上の絶対的存在であるその母を。
腕の中で、安らかに眠る母に問いかける。
──ねえ、これでよかったのかな。
──あたしが祐二を追い続けなければ。
──こんなことにはならなかったの?
…答えてよ。お母さん…。
でも、その答えはもう自分の中では出てたんだ…。きっと。…きっと。
あたしは、お母さんの体を地面に置くと溢れ出る涙も止めずに本来の姿へと戻っていった。
お母さんもまた、いつの間にか戻っていく。
…いつかまた、祐二に会えるその日まで…女王として生きていくために。
962 :
53:2006/02/23(木) 20:42:13 ID:bwToB0O7
何だかんだで1時間浪費。今日はここまでで…。
なんとか後半終了まではいきそうな感じです。
エピローグが投下中止になってしまいそうですが…テキストじゃないと。
964 :
53:2006/02/23(木) 21:32:04 ID:bwToB0O7
>>963 次スレ…結局それが一番いいんだけども。
なんか、もうすぐ終わりなのに次スレっていうのも気が引ける…。
ここは住人の皆様の意見次第かな…。次スレ立ててもいいのかどうか。
テキストうp&暇な方が張るっていうのも相手方に迷惑な気が。
困った文士で申し訳なく…。
うっ、アトリ…お母さん…
・゚・(つД`)・゚・
…目から水が溢れて止まらない(つД`)
>>53氏がそう思う気持ちも解ります。
しかし、レス残りも少ないし中途で切れてしまうならば、仕切り直しとして新スレで残りを始められても…
968 :
53:2006/02/24(金) 20:10:04 ID:LfhtcC7j
>>967 後半は今回が最後です。
中途で切れることはない…と、思います。計算では収まっているので。
切れるとすればエピローグだけですけども。
では、後半ラスト投下します。
969 :
53:2006/02/24(金) 20:12:18 ID:LfhtcC7j
──────……。
「ん…っ…っ!」
キスの途中…突然モカの瞳から涙が零れた。
一瞬だけ戸惑ったが、聞いてみる。
「…モカ?」
「……リアさん…。」
俺に聞こえないような小声でモカは何かを呟いた。
「…?」
「いえ。なんでもないです。えへ…嬉し涙ですね、きっと。」
今の事について話す気はさらさらないようだ。
…大丈夫。モカは俺に隠し事をするような奴じゃない。
何か…引っかかるものはあるけど深くはやめておこう…。
「モカ…もう、いいか?」
そんな雑念を頭に浮かばせていたが、行為はもうラストスパートへ移行しようとしていた。
970 :
53:2006/02/24(金) 20:14:33 ID:LfhtcC7j
俺の『確認』に、モカはニパッといつも以上の笑みで返してきた。
「…はい。じゃあ…このまま。この姿勢のまま…祐二さんの顔が見えるように。」
「そっ…そういう恥ずかしいことを耳元で囁かないで…。」
モカの上に覆いかぶさり、キスをした後の耳元囁きは破壊力抜群である。
…と、ふざけたことも考えて苦笑しているものの…ここからは俺達にとっていつも以上に重要な
行為となってくる。
おふざけはなし。…ただ、瞳にモカだけを映して。
「さてと…じゃ、いくぞ?」
「ん…お願いします。」
ゆっくりと…濡れそぼった秘部に俺のものが埋まっていく。
971 :
53:2006/02/24(金) 20:16:49 ID:LfhtcC7j
ヌプゥ……
「んっ…入って…。」
「…入った。…モカ、どうだ?」
俺のその意味の篭った『どうだ』にモカは期待通りの言葉を返してきてくれた。
「…まだ、大丈夫です。でも…急いで。もうあまりもたない…。」
本当はこんなことしてる最中に言ったり思い出させたくはないんだが、仕方ない。
「いつもよりペース上げるから…。少し我慢な。」
「っ…それはいいんですけど…突然ですか…ぁっ…!」
挿入直後から俺は一心不乱に腰を振り始めた。
自分の思いのたけをその動きにこめるかのように、激しく。
まさしく獣のように振舞う自分自身を客観的に俺は見つめてみた。
…やっぱりこの場合文字通り『男は狼』かな。
972 :
53:2006/02/24(金) 20:19:04 ID:LfhtcC7j
「んぁっ…あっ…んっ…くぅっ…!」
お互いが一つとなり、静寂な月下に響き渡る卑猥な肉音を奏でる。
その音の鳴る場所…繋がったその場所からはとめどなく透明な液体が溢れ出ていた。
時に激しく、時に優しく。
気がつけばモカも自分から微弱ではあるものの、腰を動かし始めていた。
「っあ…はっ…あんっ…!祐二さぁんっ…!」
名前を呼ぶモカの口をそのまま唇で塞ぎ、愛を確かめるようにお互いの舌を絡ませあう。
指もまたそれと同じく絡み合い、そして握られていた。
…離したくない。離れたくない。
否。
──離さない、という思いをそこに込めて。
普段よりもより深く密着し、行為に没頭しているせいか俺は限界を迎えようとしていた。
自然と体がモカの『奥』を求め、潜り込んでいく。
973 :
53:2006/02/24(金) 20:21:20 ID:LfhtcC7j
「っっ…祐二さっ…奥に来てる…!うぁっ…!」
「苦しいか?」
俺の問いにモカはやはり、眩しく咲く花のような笑顔で答えた。
「いいえ…祐二さんを奥で感じられて…。それよりも、そろそろ…?」
「…ああ。最後まで、一緒にいこう。」
笑顔の裏に隠された悲愴を隠し、俺達は最後まで繋がっていく。
「奥っ…ダメ…擦れちゃって…私っ…あっ…あぁっ!」
「っっ…モカッ!」
果てる瞬間眩しすぎるほどの白い光に包まれて、俺はモカの涙を見た。
今まで流したそれらとは違う…なんだろう。光の加減かもしれないが。
あれの色は…澄み渡るような蒼。
何故か薄れていく意識の中で、瞳から零れる蒼を見て思い出した。
瞳の蒼、それはマリアさんの色。こんなときに何故あの人が出てくるのか…。
自分でもおかしかった。
974 :
53:2006/02/24(金) 20:23:37 ID:LfhtcC7j
そういえば、アトリはまだ寝てるんだっけ。
マリアさん巣から帰ってきたかな…。
…なぁ、モカ?
…モカ?
視界が一面の白で覆われ、何も見えない。
でもその視界はとても暖かかった。
ちょうどモカの胸の中にいるような、そんな暖かさ。
モカ…。この光が消える頃にはお前はいないんだろうか。
俺の元から消えていってしまうのだろうか。
あの楽しかった思い出も、悲しかった思いでも全て。
──また、独りぼっちになっちまうのか…?…はは。
──なぁ…モカ…約束したこと、忘れるなよ。
──元気な子を俺のために…お前のために…産んでくれ。
──────……。
975 :
53:2006/02/24(金) 20:27:22 ID:LfhtcC7j
──────……。
窓から差し込む陽光が、まぶたを刺激した。
突き刺さるような光をさえぎるように俺は起き上がった。
「………。」
隣を見てみるも、すでに愛しい彼女はいない。
むくろも残さずに消えてしまったというのだろうか。
布団の上に立ち上がって、食卓へ行ってみる。
当然、誰もいない。
不思議と予想していたほどの悲しみはなかった。
もしかしたら俺達はお互いの道を認めてしまっていたのかもしれない。
あの切なくも暖かい、行為の中で。
976 :
53:2006/02/24(金) 20:29:37 ID:LfhtcC7j
「……モカ。」
名を呟けば、返事をしてくれる気がした。
寂しそうにすれば、慰めてくれる気がした。
涙を流していれば、抱きしめてくれる気がした。
しかし、現実は変わらずに俺に突きつけてくる。
──もう、お前が愛したモカはいない。
深く溜め息をついて、そのまま2階へと足を運ぶ。
アトリを起こすためだ。
…そう、だった。俺にはまだアトリっていう家族がいるんだ。
マリアさんだっている。
きっと二人は俺の事、慰めてくれるさ。
いつもみたいに、マリアさんが俺をからかって…アトリは俺のこと殴って…
そんな、楽しげな慰めがある…。
977 :
53:2006/02/24(金) 20:31:52 ID:LfhtcC7j
比較的広い寝室をアトリにとってやっていた。
子供には広すぎるとも思ったが、本人の強い希望があったからだ。
あいつはいつも我侭で、強情で…俺に好意を寄せてくれていた。
結局それには答えられなかったけどさ。
ガチャリ
静かに扉を開ける。
寝ているアトリを驚かせて起こそうと…そう思った。
こんな時はアトリと遊ばないとやっていられない…。
ちょっとした無理をして、笑顔を作り、布団を思いっきりめくった。
「おはよーー!アトー……リ?」
めくったその布団の中に、彼女はいなかった。
残されていたのは枕元に置かれた簡単な手紙。
震える手で俺はそれに目を通した。
978 :
53:2006/02/24(金) 20:34:10 ID:LfhtcC7j
『ゆーじへ
ごめんね。やっぱりあたし、ここにはいられません。
ここにいてもあんたへのおもいが溜まっていくばかりです。
だから、ごめんなさい。
いつかまたゆーじが みほれるような 女になって かえってきますから。
じゃあ さようなら。
あとり』
…。
……なんだよ。お前…お前まで行くのかよ。
「…畜生…。俺…やっぱり一人ぼっちじゃねぇか…!畜生ォォォォ…!」
もう、どうでもよかった。
ベッドが汚れるとか、情けないとか、そういう感情を一切抜きにして俺はただ、泣き喚いた。
お前まで去っていってしまったら…何が残るっていうんだよ…!
979 :
53:2006/02/24(金) 20:39:45 ID:LfhtcC7j
さながら、おもちゃを買ってもらえない子供のように。
ただ、淡々と。
全てが終わったのだと、確信した。
誰一人として救えなかった俺の、終わり。
壊れたように抜け殻の毎日が始まるのだ…。
だけど、モカやアトリ、マリアさんとの思い出がなくなってしまうわけではない。
彼女たちは俺にたくさんの宝物をくれた。
それは、決して何かと交換できるようなものではない…『幸せ』
これを、胸に焼き付けて俺は生きていこうと思う。
お前も、きっと…俺との思い出…これから還る場所に持っていってくれるだろ…?
──こうして俺の一夏の甘くも切ない、夢のような物語は幕を閉じた…。
980 :
53:2006/02/24(金) 20:45:13 ID:LfhtcC7j
──祐二さん。
ふと、聞こえた懐かしい声。
だが俺は振り向かない。確かな返事を心の中で返し、立ち上がる。
想い出は…心の中にしまって置いたほうが綺麗…だろ?
ああ、そうだ。これから書かなきゃいけない物があったんだっけ。
題名は───『愛しき貴女へ』
──────……。
〜〜〜〜〜モスキートEnd Thank you for reading !
981 :
53:2006/02/24(金) 20:51:27 ID:LfhtcC7j
これにて後半終了です。
長らくのご愛読、ありがとうございました。
最後の詰めが若干以上に甘かったかな、とは思いますが
初めて完結させた作品ということで、気分が浮かれております。はは…。
さてと…エピローグの件は、うん。読みたい方もいるみたいですし…どうしよう。
次スレしかないかな…。
...next 【epilogue】蚊たん萌え3g【『愛しき貴女へ』】
今日は雨か…
はぁ…