ミーンミーンミーン・・・・・
「相変わらず暑いところだよなあ・・・ったく」
額に浮かぶ汗をタオルで拭いながら何度目かの同じ台詞を吐いていた。
ミーンミーンミーン・・・・・
セミの声が頭の奥のほうにぼうっと響いてくる。本当に鳴いているのか
耳にべっとりと纏わりついているのかすらもうわからないほど、この声を
聞き続けているように感じる。
「くそっ!」
俺は母親の姉夫婦の家に向かっていた。しかも残暑の山の中、一人で歩いてだ。
毎年この時期になると叔母夫婦の家に親族が集まるのがしきたりになっている。
盆の行事、俺にとっては単なるその程度のものなのだが、祭祀を大事にする田舎では
それは大事な事らしい。従って親族の一人でも欠ければ叔母夫婦は「恥ずかしくて
表を歩けないでしょ!」と怒るわけでそんな愚痴を聞くよりは数日間山中に監禁された
方がまだましなのだ。
いつもは近場の駅−と言っても単線の無人駅なんて俺にとっては小屋以外の何物
でもないのだが−からタクシーで20分も山道を揺られれば着くのだが、何故か駅前に
タクシーが居なかった。いや、居たのだが主は熟睡中で窓を叩いても起きなかった。
それなら、と思って歩こうとした俺が間違いだったのかも知れない・・・・・
ブー、ブブー
安っぽいクラクションに振り返ると、麦藁帽子に白いシャツとこれまた田舎の年寄りを
絵に描いたような爺さんが車の窓からしきりに手を振っている。
「ん・・・?井上の爺さん!?」
それは叔母夫婦の近所の住む井上と言う爺さんだった。
「よーぅ。やっぱり山ヶ屋んとこの坊主でねえか〜。おめ何でこんなとこ歩いとっかあ?」
山ヶ屋、叔母夫婦の屋号らしい。この村ではみんな苗字と屋号を持っている。土地に縛られた
名前で年よりは好んで使うが俺たちの世代には縁の無いものだ。そもそも誰がつけたかも、
いつから使っているのかもわからない。
俺は井上の爺さんの好意に甘えて(むしろ喜んで)車に乗り込んだ。エアコンもかからない
古臭い軽だが、窓を開ければそれなりに風も入るし何より体を動かさないで済むのは好都合だ。
「はぁ〜〜ん、おめそんなん思いっきり壊れるくらい叩けばよかったに」
「普通タクシーを叩かないでしょ。ノックくらいはしたんすけどね・・・」
「どうせ小谷のだ。いっつもそんなだから奴も慣れとーき」
「は、はぁ・・・」
田舎と言うのは独特な文化で、人のプライバシーとか財産とかはあまり気にしないようで、
母はそれが嫌で村を出たと子供の頃聞かされたが・・・わかる気がする。
「ほら着いたで」
どうも、と俺は一礼すると叔母の家の玄関を開けた。
ガラガラガラ−
「はーい」
聞きなれた叔母の声。俺は一通り挨拶と両親が遅れてくる事を伝えるとそのまま
居間に座り込んだ。
「たーーーっ。流石に駅から徒歩は無理っすね。」
「お兄ちゃん、うちに電話すればよかったに」
携帯が−と言いかけた所で気づいた。圏外だったのでそのまま電話は諦めたのだが、
俺は公衆電話の存在を忘れていたのだ。こんな田舎じゃ、公衆電話や貸し電話が
普通だったと母が言っていた。
冷たい麦茶を飲みながらぼーっとしていると
バコッ☆
後頭部に何かがヒットした。いや・・・殴られたと言ったほうが正しいかも知れない。
「あ、バカ兄(にぃ)居たんだ。」
「こら、あゆちゃん!お兄ちゃんに謝りなさい!」
「プール行ってきまーっす!」
べーっと舌を出してから、水着が入ったであろうビニールの袋をぶるんぶるん振り回しながら
消えていった。
「ごめんなさいねー。あゆったらいつもあーなんだから・・・」
「良いっすよ。慣れてますから(笑)」
俺の後頭部を(恐らくビニールの袋で)殴って消えていったのは従妹のあゆみ。今は確か−
小学校3年か4年くらいだっただろうか。
昔はにぃたんにぃたんと離してくれなかった物だが、小生意気に育った今ではこの始末。
まあ・・・あの歳で纏わりつかれた方が気持ち悪いってもんだが(笑)
「じゃ、行ってきますから。お夕飯は」
「今のチラシ寿司ですよね。あゆみにも伝えておきますから。」
「ごめんねぇー。」
「良いですよ。いってらっしゃい」
叔母はチラシ寿司の詰まった手桶を持って歩いていった。この地方では盆の時期に
お宮さんのかがり火を消さないように24時間ずっと付きっ切りで火の番をする
お宮番と言う風習がある。4〜5人の持ち回り制で、今日は叔母夫婦の日らしかった。
俺はチラシ寿司を摘みながら、3人がけソファの中央に座りビール片手にTVでも
見て夜を過ごす事に決めた。
ガラガラガラ−
「ただいまー」
あゆみの声だ。時間はもう7時・・・こんな時間までプールとは、若いって良いなあ
などと思いながら返事を返した。
「おかえり」
「あれ?バカ兄だけ?母さんは?」
まだ濡れたままの髪を左手で弄りながら居間に来たあゆみがそう聞いた。
「叔母さんはお宮番ー。」
「そっか、もう・・・・・・・・・・」
「ん?」
髪を弄った状態のあゆみが、一点を凝視して固まっている・・・その視線の先を
見てみると俺が見ているTV番組−心霊特集−の画面だった。
「あゆみ怖いの苦手だったっけ」
「っかじゃない!そ、そんな子供っぽいもの見るわけないじゃん!」
思い出した。あゆみは確か小さい頃から怖いものが苦手で、祭りの時にも俺の
手を離さなかった記憶がある。そうか−
「怖いか。そーだよなー。あゆみまだおこちゃまだもんなー。こわいでちゅねえー」
「むっかーーーーーーー!違うって言ってるでしょ!」
こいつおもれー(笑)
「じゃあ座って見ようぜ。ほれ」
横にあったクッションをぽいっとあゆみに投げ、ソファの隣を空けた。
クッションを受け取ってしまったあゆみは両手でそれを抱えながら
しばらく抗議するような目を俺に向けたが、諦めて俺の隣に座った。
「ひっ」
特集は短編集なのだが、クライマックスになるに従い毎回小さい悲鳴を
上げながら(それでもクッションに口を押さえつけて、なるべく声を出さない
ようにしてるのが可笑しいのだが)俺の手をぎゅっと握っている。
CMに入るたびに俺に気づかれまいとしているのか、そーっと手を離すのが
子供らしい精一杯の抵抗なんだろうな−−−
軽く頭を抱いてやるといつものおてんばがそのまま大人しく俺の方に頭を
寄せてくる。いくつになっても甘えん坊は変わらないんだな・・・
『ではまた、来年もこの番組でお会いしましょう!
さよなら〜〜〜(ぱちぱちぱちぱち』
「終わったかー。どうだったあゆ・・・・・」
クッションで完全に顔を覆って・・・こいつ画面を見てなかったのか。
「あゆみ、あゆみ?」
はっと我に返り顔を上げたあゆみに向かっておなじみの(?)ゾンビポーズ
で思いっきりおどかしてみる
「がーーーーーーーーーーー!!!!!」
「ふぎゃあああああああああああああああああああああああ」
バコッ!あゆみが驚いて倒れた次の瞬間、両足きれいにそろったロケットキックが
俺の顔面に飛んできた
「ふご・・・・・」
そのままバタバタする足を両手で捕まえると、あゆみは目を閉じたままじたばた
している。パンツが思いっきり見えたままだったりするのだが・・・・・・
水色と白のストライプ、暴れているからお尻のラインがくっきりと浮き出ている。
「あゆみ、水色か」
「・・・・・え!?」
目を閉じていたあゆみが顔を上げて、こっちをキッと睨んでさらに足をばたつかせた。
ぱっと手を離すと、あゆみはそのままソファから転がり落ちてしこたま頭を打ったらしい。
「バカ兄のバカ!あほ!すけべ!!へんたいっ!!!!!」
あわてて立ち上がると、持っていたクッションを俺に投げつけてあゆみは
逃げるように自分の部屋に戻っていった。
ギシッ・・・・・ギッ・・・・・・・・ギシッ・・・・・・・
耳慣れない音と人の気配で俺は目を覚ました。
俺が寝ている客室には誰も居ないはず。でも明らかにふすまの向こうからは人の気配がする・・・・・泥棒?
俺はそっと布団を出るとふすまに手をかけ、一気に開けた
「誰だ!・・・・・・・あ?」
そこには突然開いたふすまに驚いてへたり込んでいるパジャマ姿のあゆみが居た。クマの縫いぐるみをぎゅっと抱きながら泣きそうな目で俺を見ている・・・
「あゆみか・・・脅かすなよ。泥棒かと思ったじゃないか。」
「ううぅ・・・」
「あゆみトイレか?」
うんうん、と頷いた。
「ヵ兄が悪い・・・らね」
聞き取れなかったが、多分夜に見てた心霊番組のせいでトイレにいけなくなったのを俺のせいにしてるらしい。
「わかったわかった。悪かったって。ほらトイレまで着いてってやるから」
すっと手を差し伸べるとその手にしがみつくようにあゆみがつかまった。
ひょいっと起こしてやると、それは(当たり前だが)とても軽かった。
トイレに着いて表で待ってようとすると、あゆみはじーっと無言で俺の目を見たまま俺のパジャマの裾をぐいぐいと引っ張っている。
「表に居るから大丈夫だってば」
離そうとしない・・・・・
「中はまずいだろ・・・」
離そうとしない・・・・・
俺はそのまま中に入ることにした。といってもこんな田舎にあるトイレは古く狭い和式トイレと相場が決まっている。
俺はあゆみの熊の縫いぐるみを抱えながら片手はあゆみの手を握ってあゆみの用が終わるのを待つことになった。
薄暗い電灯に照らされてあゆみの臀部はやけに痩せて思わず俺は唾を飲み込んだ。
シャ、シャー
漏れ出てくる水音の主を凝視していた俺だったが、ふっと振り返ったあゆみの視線に顔を
上げた。ちょっとばつの悪くなった俺は軽く視線をそらした。
「・・・・・ばか」
カランカラン
あゆみはペーパーで軽く自分のそこを拭くとパンツとズボンを上げた。
結局トイレの後もあゆみを部屋まで送っていくことになった。俺の脇にしがみついて
顔を胸にうずめたままイヤイヤをするあゆみに、俺は小さく大丈夫だからと言って
何度も頭を撫でた。
そのまま離してくれるわけもなく俺はあゆみの布団で朝を待つことになった・・・・・
ふっと唇に柔らかい感触と、顔の前に人の気配を感じて眼が覚めた。
うっすら目を開けるとあゆみの顔が俺の目の前にあった・・・!?
今のはあゆみの唇???
「あっ!」
俺が起きたことに気づいたあゆみが一歩身を引くとそのまま甘い香りだけを残して
部屋を出て行った。
「あゆみー、お兄ちゃん起こしてきー」
「えーメンドウー。バカ兄なら自分で起きるんじゃない?」
どうやら叔母が帰ってきたようだ。そう言えば味噌汁の匂いと、炊き立てのご飯の匂いが漂っている。
ガチャ
「まーだ寝てる!おっきっなっさいっ!」
てててて・・・見上げるとあゆみが俺の頭に素足を乗せてゴリゴリしていた。パンツも丸見えなんだが・・・・・
「人の頭に足を乗せるなよ」
「いつまで経ってもにぃが起きないからでしょ」
「・・・にぃ?」
声をかける前にべーっと舌を出して出て行った・・・・・まったく騒がしい奴だ。
「早く起きてこないと、ご飯全部食べちゃうからね!」
俺はあゆみの布団を後にした・・・・
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後は個人の妄想でよろ (´・ω・`)ノ 短文のエロは苦手じゃ