48 :
メロン名無しさん:
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」
バ、バカ。ハルヒのヤツ、本当に言っちゃったよ。マイクまで持っちゃってさ。
「おい、ハルヒ。早くこっちに。」
「ちょ、キョン。」
僕はハルヒの手を引き、緑色のリングから降ろした。
「何するのよ。」
「何じゃないよ。ハルヒこそ、ここが何処だがわかってるのかい。」
「ええ、当たり前じゃない。プロレス会場でしょ。」
ハルヒは口元に手をやり、笑ったような仕草を見せ、僕に言う。
「も〜う。ただのプロレス会場じゃないよ。ノアだよ。ノア。」
「ノア、ノア、ノア。キョンは今日だけで何回言ったのよ。バカみたいに興奮しちゃってさ。」
なぜかハルヒは怒り出した。
「だって、長門さんがノアのチケットくれたんだよ。僕等、子供がノアの試合なんて生で見れるはずないんだから、興奮すんの当たり前だよ。」
ハルヒはまた僕を小バカにしたように、
「あ〜ら。キョンはこんな八百長裸踊りに興奮するなんて、お子様だこと。」
「な、なに。言ってんだよ。僕達が見てるのノアだよ。三沢さんだよ。ガチだよ。」
「そうなの。私には興味ないわ。私が興味あるのは地球上生物じゃない物。でも、八百長じゃ無理よね。」
僕はハルヒの八百長発言に怒ってしまった。
いつもならまた世間知らずなハルヒの戯言と思い、ハルヒをなだめるのだが、今、ハルヒがバカにしているのはこの世の中で唯一、ガチの真実、三沢さん率いるプロレスリング ノアなんだ。ちなみに僕の押入れにはノアグッツで溢れている。そのノアに対してだ。
「やれやれ、八百長なんかじゃないよ。ガチだよ。何でわかんないのさ。今まで見てただろう。泉田さんの森嶋さんもただのデブじゃないんだよ。動けるデブなんだよ。」
「見てたよ。へぇー、そうなの。前に闘ってた人、泉田さんと森嶋さんって言うの。で、白い方、黒い方、どっちよ。だって、私がキョンに今闘ってる人誰って、聞いたら、キョン、私の事なんか無視してたじゃない。」
それは……。それは、答えられないさ。ノアの試合だぞ。只でさえ、むちゃくちゃ言うハルヒに付き合ってるのに、ここまで来て、ハルヒの妄想なんかに、構ってられるか。
今日だって、長門さんにハルヒと一緒に言われなかったら、連れて来ないよ。
49 :
メロン名無しさん:2006/12/27(水) 00:52:45 ID:d1e+AUbH0
「しょうがないじゃん。目の前で憧れのノア選手がガチ試合してんだよ。聞く耳もたないよ。」
僕は初めてハルヒに冷たく言った。多分、転校して来てから一番の冷たい言い方だろう。
「なによ。」
ハルヒは顔を伏せた。酷い言い方かもしれないが、これでいい。これで静かにノアが観戦出来る。
「ナニヨ。ナニヨ。ナニヨ。ナニヨ。それじゃあ、キョンもみんなと同じじゃない。キョンだけは、キョンだけは私が初めて話しかけられたのに。こんな八百長に夢中になるなんて。」
顔を上げてそう叫んだハルヒの瞼は濡れていた。言い過ぎたかな……罪悪感が僕の中に芽生えようとした時、
「八百長、八百長、うるさいんだよ。」
声がした。はっとした。そうだ。ハルヒの手にはON状態のマイクがしっかりと握られていたんだ。当然の事ながら今までの八百長発言はディファ有明中に響いてたに違いない。その声を聞き、駆けつけた警備員だろう声に僕は恐る恐る振り向いた。
そこには菊池選手が立っていた。
永遠の火の玉ボーイ。
やられ役ながらもけして引かない無茶な戦い方に僕は密かに憧れていた。
「新手の営業妨害かい。ほら、マイク返して。僕だからいいけど三沢さんが聞いてたら大変だよ。」
菊池選手はハルヒからマイクを取り上げる。そんな菊池選手に僕は、
「サ、サインください。」
「えー、どうしょ。あ、君、Tシャツ買った?」
「え、Tシャツですか。まだですけど。」
「じぁ、ダメダメ。買ってからね。」
マイクを手に持った菊池選手はスタスタと控え室に帰ろうとした。が、ハルヒはムキになって、
「待ちなさいよ。こっちはお客よ。何よ。その態度。」
多少ながらイライラした様子だ。だが、僕はそんなハルヒに、
「いいから。そんな事。失礼だよ。ノア選手だよ。なのにハルヒの態度こそないよ。」
黄色いリボン付きカチューシャが揺れた。
「ナニヨ。」
振り上がった手が僕の頬をぶった。ハルヒは大きな瞳に涙を溜めながら、
「ひさしぶりにキョンと二人で遊べると楽しみにしてたのに。興味なくてもキョンが楽しめればそれでいいと思ってたのに、なのに、なのに、ノア、ノア、ノア、ノアって、酷いよ。」
50 :
メロン名無しさん:2006/12/27(水) 00:54:30 ID:d1e+AUbH0
僕は頬の痛みを感じながら、
そっか……二人で観戦しに来たんだよな。ノアを知らないなら、説明しないといけないんだよね。それがノアヲタの宿命なんだ。ハルヒに誤ろうとした瞬間、空気の読めない菊池選手は引き返してくると、
「ほらほら、ケンカしない。三沢さんの試合が始まるから静かにしないと出てってもらうよ。」
三沢さんの試合前に強制退場なんてそんな事、
「すいません。もう騒ぎませんから、お願いします。三沢さんの試合を見せてください。」
「しょうがないな。これからはしないんだよ。他の皆さんに迷惑かかるから。でも、彼女の方は一言ないの?」
その一言が良くなかった。
「も〜〜〜〜う。完全に頭来た〜〜〜。ノアなんて世界から消えちゃえ。」
イライラが限界に値に達した。空気が震えだす。こ、これは3年前にも同じような事が……。時間震動?ここでか?
そうなると、閉鎖空間が出る。
そんな、ハルヒはノアはいらないといった。ノアが消えるというのか。
「ハルヒ、ハルヒ。止めろ。考え直して。」
「キョンはSOS団なんだよ。ノアじゃないんだよ。だったら別にいいじゃない。」
「ぼ、僕はノアヲタなんだ。SOS団よりも同じ世界的な物だったらGHCの方が興味あるんだ。だから、だから、止めてくれ。」
しかし、ハルヒは僕を優しく見つめ、
「うんん。キョンはSOS団だよ。例え、この世界がなくなっても私と二人だけで永久にね。」
ハルヒが目を閉じるとディファ有明は灰色な世界に包まれた。今までこんな事はなかった。ハルヒの閉鎖空間は彼女の意思により特殊能力者以外は入れないはず、だったが、
それさえもハルヒの意思が変え、具現化し、僕等の前に現れたのだ。その目的は、多分、僕の目の前でプロレスリング ノアを叩き潰すためだろう。
彼女は無意識の内に僕が心に抱いている ノアだけはガチ の言葉まで否定しようとしているのだろう。
52 :
メロン名無しさん:2006/12/27(水) 00:56:44 ID:d1e+AUbH0
な、なんだ。これは。」
灰色な世界に菊池選手はうろたえた。が、更に驚いた。青い巨人が音もなく現れたからだ。僕も数回見ていたが、いつにもまして表情はなかった。青色の神人は灰色の世界で唯一の色ある存在だと思われたが、それはスパルタンXがかかると否定された。
緑色な闘神。原色な白い肌に緑色のタイツ。
僕はゴクリと生で初めて見る三沢さんに驚き、感動した。
赤コーナー 240パウンド 三沢光晴
コールを受けると何時もの様にロープの感触を背中で確かめだした。灰色の世界でも三沢さんを見れる幸福が僕を包む。
ハルヒはそんな僕に虚ろに目を向けると、神人は猛ったように両腕を高く上げるとリングインした三沢さんに襲いかかった。
強引な乱入だが、ハルヒのマイクアピールも手伝ってか三沢さんVS神人はゴングが打ち鳴らされた。
世界の運命さえも変える鉄槌を神人は三沢さんに打ち下ろす。三沢さんは肘でその攻撃を受け止める。
「すごい。」
三沢さんの肘が当たったのにも係らず、神人は後ろに下がる事なかった。
「あ、生汗ワイパーだ。」
三沢さんは汗ワイパーを使った。そして、軽くステップを踏み、お腹の肉をタプタプと揺らし、体を回転させた。それだけで次の攻撃がG+を見続けた僕にはわかる。
「ローリング。」
三沢さんは2回転し、遠心力を付け、神人にエルボーを叩き付けた。
さすがはガチエルボー。
鈍い音共に神人はリング外に吹き飛んだ。なおも三沢さんは場外の鉄柵にもたれダメージを回復させようとする神人を追撃する。
53 :
メロン名無しさん:2006/12/27(水) 00:57:53 ID:d1e+AUbH0
「うおぉぉ。トペだぁ。すげぇぇぇぇ。」
三沢さんは勢いを付け、ロープとロープの隙間から多少お腹を擦り、頭を向けながら飛び込んだ。人間ロケットのように神人の腹部にめり込む。
神人は完全に倒れたが、三沢さんはガチの怖さを教えるように、リング下にひかれたマットレス外すとコンクリートを露にさせ、青色の神人の両腕を自分の胸部でフックさせると、
「この体勢は。ま、間違いない。三沢さんの代名詞。」
神人の体が宙に浮く。
「タイガードライバーだ。」
硬いコンクリートの床めがけ、脊髄、後頭部を叩き付けた。三沢さんはすぐにグリーンなノアマットに戻ると手を上げた。
ん、おかしいな。さっきまで、色は三沢さんと神人以外は灰色だったのに。
まさか。
虚ろになっているハルヒを見る。呼吸を乱し、自身が闘っているように額には汗をかいていた。
ハルヒの閉鎖空間が負けそうなのか。
三沢さんのガチって、本当に……。
あれだけの三沢さんの攻撃を食らったにも係らず、神人はエプロンサイドに手をかけると何とか体をリングにいれた。だが、どう見ても勝負は付いているみたいだった。
立ち上がった神人に三沢さんはトドメのようなエルボーを叩き付ける。左右にもう一度右。
「決まった。」
ズシ〜〜ンと音を立て神人はリングに倒れる。三沢さんは間を置き、体を重ねる。レフリーが、
「ワン、ツー。」
僕も一緒になってカウントを数える。スリーが入ろうとした中、神人は何とか右肩をあげた。
54 :
メロン名無しさん:2006/12/27(水) 00:59:28 ID:d1e+AUbH0
「……だ。……だ……よ。」
隣から声が聞える。
ハルヒ。
僕はハルヒを見ると息を荒くしながら、
「まだだよ。」
と呟く彼女の姿があった。その彼女に表されるよう神人は立ち上がり、三沢さんに拳を突き出すが、当初の威力はなく、逆に三沢さんの肘でロープまで飛ばされ、跳ね返って来るところにローリングエルボーを当てられた。
これでスリーカウント。だが、肩は上がる。
「渡さないよ。」
ハルヒ……。
幾度続いただろう。巨人だった神人も段々と小さくなり今では大きさは常人と変わらなくなっていた。それに灰色だった世界も元に戻っていた。
それでも神人、いや、ハルヒは闘っていた。
「ワン、ツー。……ツーカウント。」
レフリーは首を振り、指を2本上げる。三沢さん打ちのめされながらもスリーカウントさせない神人を見ていると僕は泣けてきた。あんなに好きな三沢さんの試合を長時間見れる嬉しさよりも早く、この試合が終わって貰いたかった。
それは……。
「いや……キョンは……キョンは渡さ……ないんだから。」
衰退しているハルヒの言葉に従うように、神人は立ち上がろうとする。その姿に、
「ハルヒ。」
僕はハルヒを抱きしめていた。
「あっ。」
ハルヒから声が漏れる。感情ある声だ。ハルヒの小さな肩を強く抱きしめ、
「もういいんだ。僕は何処にも行かない。僕はずっとSOS団だ。ハルヒだけのSOS団でいるからこれ以上は立たないでくれ。」
55 :
メロン名無しさん:2006/12/27(水) 01:01:18 ID:d1e+AUbH0
「キョン。」
ハルヒは閉鎖空間から解放されたように、微笑むと、
「約束だよ。ずっと一緒だからね。ただの人間なんか興味ないんだから。私の大切な人いがい……興味……ないん……だから。」
僕の胸の中で目を閉じた。
「スリーカウント。」
ゴングが鳴り、三沢さんが勝ち名乗りを受けた頃、神人も消えた。
神人が消えると菊池選手は、
「おい。どうしてくれるんだ。今日のファイトめちゃくちゃだぞ。」
怒鳴ってきたが、三沢さんは華麗にロープの間を屈みながら、リング下に降り、近くにやってくると、エルボーを一閃した。
菊池選手が吹き飛ぶと、
「ごめん。教育なってなくて。」
「え、いえ。」
「で、どっち。」
「え、何ですか。」
「ほら、アレだよ。アレ、青色の。」
「あ、はい。彼女です。」
「そうなんだ。素人なのにすごいね。」
三沢さんは乱入した事に怒りもせずに、優しく言ってくれた。だから、僕も言わなくてはいけない。
「あ、あの三沢さん。」
「ん。」
「ノアが一番じゃなくちゃダメですか。でないとノアを観る資格ないですか。」
三沢さんは額から出る汗を汗ワイパーで拭った後、
「人間が何をどう好きになろうかなんて神さえも決められないよ。そうだろ。」
三沢さんの言葉に僕は胸に埋まったハルヒの顔を見る。
「決めるのは自分だけさ。見てみな、今声援、送ってるヤツもいろいろ抱えてる。離婚にリストラ、家庭崩壊、低所得に鬱、でもさあ、そんな奴等が、ぶっちゃけ、俺等の試合で何かを感じ、見つけてくれればそれにこした事ないよな。」
「三沢さん。」
「でも、アレだ。 ノアだけはガチ に異論がある場合はここで受ける(試合)からね。」
「はい。」
僕はハルヒをおぶるとディファ有明を後にした。帰り、ここに来て良かったと思った。三沢さんは憧れと大事な物の違いを教えてくれた気がした。
耳元で、微かに声がする。
「キョン。 ノアだけはガチ ……だね。」
どうやら寝言らしい。
やれやれ、今更そんな当たり前の事を。
「そうだね。」
これからも変わらず続いていく彼女の日常に僕はいつものように相槌を打った。