やった。もうすぐ館は包囲される。朝には自由の身だ。
眉子は飛び上がりたいほど喜んだ。
足音が近づいてくる。
眉子はテーブルの下に隠れた。
章一と亜紀と明美が居間に入ってきた。
「敏江はまだ?」と亜紀。
「すぐに来ると思います」と明美。
3人は眉子が隠れているテーブルを囲んでイスに腰をおろした。
敏江が来た。
「敏江、何か言いたいことはない?」と亜紀。
「いえ」
敏江は首を横に振る。
「わたしを裏切ると、どういうことになるのかしら」
敏江はブルブル震え、脂汗を流し始めた。
「どうして、眉ちゃんがここにいるの」
亜紀はテーブルの下の眉子を蹴飛ばした。眉子は転がり出た。
眉子は悠然と立ち上がり言った。
「やめて下さい。警察に連絡しました。もう、逃げられませんよ」
「おーっ、怖い、怖い。可愛い顔して雌狐だね。まったく」
章一が肩をすくめる。
「警察に電話して逆探知させたんだろ。俺達4人の名前も伝えた。この夜中に山中に逃げても逃げ切れないと思ったからだ。この前の失敗を繰り返さないのは、ほめてやるよ」
眉子の背中に冷たいものが走った。
(なぜ、章一さんは知っているの?この余裕はどこから来るの)
「しかし、所詮は小娘の浅知恵だな。こういうこともあろうかと手は打ってあったんだ。俺の部屋の内線は110だ。あれ、わからなかった?電話にでたの俺だよ」
眉子は後頭部をハンマーで殴られたような衝撃をうけた。
(失敗だった!自分はどうなるのだろう?家族は?弟は?)
「眉ちゃん。なにアホづらしてるの。この前、わたしが逃げたらどうするって言っていたかしら。頭いんだから覚えているでしょ」
「やめて。もう逃げませんから」
「この前もそう言っていたわね。弟のチンチンを切り刻んであなたに食べさせてあげるわ」
と亜紀は笑い声をあげる。
亜紀は振り返ると敏江に言った。
「あなたも覚悟はできているでしょうね」
敏江は顔を真っ赤にし涎をとばしながら叫んだ。
「こ、こいつにたぶらかされたんだ!警察に捕まっても俺だけたすけるっていいあがった。亜紀様が捕まるはずないのに!殺せぇぇぇぇ!こいつを!」
「うるさいわね。あなたも眉ちゃんと一緒に地下牢へ入ってなさい」
亜紀は猛獣使いのように鞭をふるった。
「ひいぃぃぃっ。おゆるしをぉぉぉ」
敏江はおびえ頭を抱えうずくまった。