新聞雑誌でアニメ・オタク特集が載ったら集まるスレ3

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180メロン名無しさん
毎日新聞 2006年12月21日(木)夕刊 文化・批評と表現
[マンガの居場所] ヤマダトモコ

■ 不可視ジャンルの成熟表す本 ■
 書店に行けばコーナーが設けられ、実はたくさん存在するのに、なんとなく無いことになっている分野に関する見るべき本が、
近年続けて発行されている。例えば『エロマンガ・スタディーズ』(永山薫、イースト・プレス、06年11月)。永山は、エロマンガの
世界を「不可視の王国」だと指摘し、それが不可視であることの理由の一つに「エロの壁」の存在をあげる。「エロティシズムを含む
表現は/三流の表現である/汚い/語るべきものではない/語るに値しない/触れたくない/評価したくない/許せない/ヒドイ
/子供に見せられない/恥ずかしい/人間性を冒?している」などのネガティブな反応を核とするバリアであるその壁は、その世界に
関わる読者、マンガ家、編集者、評論家、著者である永山にでさえ多少はある壁であるが、それがあることの意味を考えることの
大事さを、本書は問う。
 「不可視の王国」といえば主に女性向けの、男性同士の恋愛ファンタジーである、「やおい」あるいは「ボーイスラブ(=BL)」の
世界も、似たような世界であるが、やはり近年、この世界に、色んな方向でアプローチする本が出ている。例えば『隠喩としての少年愛』
(水間碧、創元社、05年2月)は、女性が好む男性同性愛というものを「少年愛」という言葉に集約して考察した本である。中にやおいや
BLについての考察も出てくる。また、これはマンガについての本ではないが『やおい小説論』(永久保陽子、専修大学出版局、05年3月)
は、「やおいの娯楽性]を解明し肯定的に評価しようとした論。
 そして『やっぱりボーイズラブが好き』(山本文子&BLサポーターズ、太田出版、05年12月)は、もはやある程度装備がなければ
飛び込むことが難しいBLの海をもぐって楽しむためのガイドブック。ギャグっぽいBLで定評のある九州男児(ペンネームである)の
イラストも楽しい一冊だ。
 それから『オタク女子研究−腐女子思想大系−』(杉浦由美子、原書房、06年3月)は、タイトルの勇ましさに反して、内容が著者の
エッセイ的傾向が強く、待望されていた類の本であっただけに拍子抜けで、反発も煽った。が、キャッチーなタイトルと志村貴子の
素敵な表紙が目を引いたこともあって話題を呼んだ。
 また、直木賞作家となった今、さらにBL愛に拍車が掛かった感のある三浦しをんの『シュミじゃないんだ』(新書館、06年11月)は、
一人の人間の美意識に則った、とても優れたBLのレビュー本だ。シュミじゃないんだ、とは、自分にとってBLを読み語ることは、
もうシュミの域ではなく、必然。生活の一部。もうそれがないと死んでしまう。というレベルに達しているということを表明した
タイトルなのだ。雑誌連載時の勢いを生かすため、紹介されている作品が少し以前のものになっているのをフォローする意味もあってか、
全章に相当量の補足文が付けられている。各章に「寮、相棒、オヤジ、政治物」といったBLを考える上で重要なテーマが設けられ、
読みやすい筆致で深い内容に言及できていて鮮やか。
 ここに紹介した本たちは長年ジャンルに興味があり、一家言ある人々には、納得がいったり、批判的になったり、さらに深く考えたく
なったりする部分もある本たちかもしれない。
 だが、一冊にまとまった形でこうした本が出ることこそが、それらを一緒に語りたい人や、包括的に考えたい人の存在を示す。
つまりジャンルの成熟を表すことになるだろう。 (マンガ研究)

【写真】今年刊行された注目の2冊(左『シュミじゃないんだ』、右『エロマンガ・スタディーズ』)

紙面画像 http://ranobe.sakuratan.com/up/src/up159323.jpg