コードギアス反逆のルルーシュネタバレスレPart6
『ルルーシュが悪人になったのは私のせいです』 【谷口悟朗インタビュー】
〜作品を理論的に構築し、常に良質のエンターテインメントを供給してきた谷口悟朗監督。
彼は『コードギアス』をいかに舵取りしていくのだろう?必読のロングインタビュー!〜
○みんなが幸せになれる作品にしたい
――まず、この作品に関わるようになった経緯を教えてください。
谷口 最初にバンダイビジュアルとサンライズ両方のプロデューサーと話をしまして、その時
「作り手もユーザーも、みんなが幸せになれる作品にしたい」という言葉が出たんです。
それに私はすごく興味を持って。
――「みんなが幸せになれる」というのは、ファンが求めていて、制作側も成功を得られるような
作品ということですか?
谷口 そう考えていただいて結構です。そういう作品を広いレンジで目指すということは、
すごく面白いなと思いました。私個人としては、『無限のリヴァイアス』から『スクライド』
『プラネテス』と全国ネット、もしくはそれに近い形で作ってきました。対して、前作の
『ガン×ソード』では逆に少ない放送局数で深夜枠というチャレンジをして、全て一定の
成果を収めています。その上で、そんな私の意図が、プロデューサーのいう「みんなが
幸せになれる作品」に繋がって、お引き受けすることにしたんです。無論、最終判断は
観客に委ねますから、楽しんでもらわなければ意味がない。そのために、MBSの
『コードギアス』特番でも言ったんですけど、今までの手法の半分は捨てよう、と。
――半分捨てるとは、大胆ですね。
谷口 どういう意味かと言うと、何作か作ってくると、自分の中でお約束の作法とか、スタッフ編成が
どうしてもできてしまうんですよ。これは私に限らず、監督は誰でもそうだと思うんですが、
それを壊そうということです。
――いわゆる、○○組と称される関係性ですね?
谷口 それも含まれます。そこにこだわり続けていくよりも、意図的に最低でも半分は自分で壊して
いったほうが良いであろうと、私は考えたんです。これはユーザーとの関係性にも言えることで、
私の作品を応援してくださるファンの方々がいることは重々承知で、感謝しているんですが、
そういった方々に作品が縛られるようなことがあっては、私にとってもファンの方々にとっても
発展性がないと思うんです。それがたとえ善意から出たものであっても、縛りになっては意味がない。
――監督自身にとっても、スタッフにとっても、ファンにとっても、新たな何かがある作品だと?
谷口 はい。しかも、視聴者のほうを向いて、それをやろうと。実は『コードギアス』は、最初は夕方や
朝の枠向けに企画していたのが、深夜枠になった経緯があるんですよ。その時、それまで
作り上げてきた企画を、全部リセットしました。深夜では求められているものが違いますから。
大河内の才能があって出来たことですが・・・・・・。
――誰に見てもらうのかを明確に意識して、企画を進行していったということですね。
谷口 そういうことです。ただ、それは、見せ方とか、切り口を時間帯に合わせてチューニングしたと
いうことであって、本当にやりたい部分は変えていません。そこがぐらつくようであれば、
選んだ題材がそもそも間違っている。ただ、これはプロであるからには当たり前のことです。
○自己を解放して生きている悪人を描くのは楽しい
――今までの手法の半分を捨ててまで『コードギアス』でやろうと思ったことは何ですか?
谷口 個人的な目標としては、私自身の過去は過去できちんと踏まえますけど、それをステップにして
別のやり方にチャレンジして、違うステージを見てみたいと考えました。
――具体的に今回の手法とは?
谷口 あっちこっちに絡むことなので思いつくままに挙げていきますと、まずは1話でスタートダッシュを
かけたことです。物語冒頭は事件がどんどん起こるめまぐるしい展開にして、キャラの細かい
心情は後で描こうと。叙情性よりも、ある種のスピード感とか、前へ前へと突進していく感じを
強調しました。いつもの調子でシーンの整合性をとっていくと、3話ぐらい使ってしまいますから(笑)。
見ようによっては雑に見えるのは承知の上です。でも、最低限の情報は敷いてありますから、
「分かるでしょう?」と(笑)。
――確かに、第1話は出し惜しみしてない印象を受けました。
谷口 第1話で出し惜しみしてもしょうがないので。今回はOPも素直に、物語の要素の陳列棚にしました。
ここでもキャラの心情部分は置いといて、EDの方に割り振ってます。それと、キャラクターの
バランスに関しても、せっかくCLAMPさんと組んだわけだから、今まで自分に封じていた、高い頭身を(笑)。
――CLAMPさんのキャラ原案ということにも、この作品のメジャー感が出てますよね。
谷口 はい。今回はキャラデザインも配色も、とにかく華がなければならないと考えました。
――なるほど色使いもカラフルで、派手なイメージですね。
谷口 エンターテインメントとして華のある作品を目指すためにも、深夜枠だからといって中間色を使ったり
することで、おとなしくさせたくなかったんです。
――物語に関しては?
谷口 実はですね、今回は職業監督として割り切ろうと思っていたんですよ。極力、自己主張を入れずに、
職業監督としてどこまでやれるか、チャレンジしようと。でも、そういうスタンスは結局ムリでしたね(苦笑)。
手法を捨てる、というのも自分で決めてるわけですし。
――やはり本来の谷口監督らしさを抑えきれなかった、と?
谷口 えーとですね、ルルーシュがここまで悪人になってしまったのって私のせいだと思うんですよ。
悪人って描くの楽しいじゃないですか。自己を解放して生きている人たちなので。そういう方向性が
出てきちゃったというのはあります。最初に企画を作っていた頃は、ルルーシュとスザクは今とは
立ち位置が逆だったんですよ。
――最初は、ルルーシュが白で、スザクが黒だったと。
谷口 何が白で何が黒なのかということは、私から言う気はなくて、そこは見ている方々がそれぞれ決めれば
いいことだと思っています。白とか黒とかで、ルルーシュ達を決めつけてしまうのは、個人的には
好きではないですね。営業のキャッチコピーに過ぎないので。ただ、元々のルルーシュは今のスザクの
スタンスに近かったのは事実です。
――それは今のように、目的のためなら手段を選ばないタイプではなかったということですか?
谷口 そうですね。社会情勢とか自分の行動について悩む、等身大の少年に近かったと言えばいいかもしれません。
――それがなぜ、今のような<悪人>になっていったんですか?
谷口 それはやっぱり、華のあるキャラクターにしたいということです。最初、この作品の華はロボットに
持っていこうと思っていたんです。でも、深夜枠になったということで、単純なロボット物にする作り方はやめました。
ロボット物をあきらめ、当然、美少女物にも出来ず(笑)、そんな中で、主人公に華を持たせようとしたことから
出てきた必然だったんです。<悪人>というのは。
――確かに、悪に徹しきれるキャラは、魅力的だと思います。
谷口 ルルーシュもこれから先の展開で悩むことは悩むんですけど、悩む軸がちょっと違うんですね、
一般の人たちとは。
>>525 ゼロ側とコーネリア側が反発しながら協力
―― 一方のスザクも、あくまでルールを守って、内部からブリタニアを変えるという、強い意志を持った
キャラだと思うのですが。
谷口 スザクはスザクで立っているキャラだとは思いますが、私はこの物語を、ルルーシュとスザクの対立軸で
描く気はないんです。そして、自分の主義主張をこの二人にこめて描こうとも思っていません。
――ルルーシュとスザクのダブル主人公という図式ではない?
谷口 簡単に対立の図式にあてはめるのは、今回は違うかと思うんです。もちろんスザクは重要なキャラですよ。
でも、他にも重要なキャラはいて、その中で頭ひとつ飛びぬけているくらいのポジションなんです。
今回の作品に関しては、もっと大きな視点で、物語を捉えていただきたいと思います。とはいえ、私の中で
自然に出てくるところはあるはずなので、その時はその時ということで(笑)。
○イデオロギーではなくエンターテインメント
――占領下の日本を舞台に、テロ活動を行うあたりに、政治劇の一面が感じられますね。
谷口 そこはあまり難しく考えることはなくて、主人公がなんらかの形で社会に対抗していこうとするドラマを描く時、
敵は強ければ強いほど盛り上がるじゃないですか。よくアメリカのことかと訊かれますが、だったらもっと
国としてのアメリカにしますよ。アメリカ大陸にはしません。私はこの設定に自分自身の政治的主義主張を
こめるつもりは、全くありません。
――でも、第1話から占領軍による住民の虐殺あり自爆テロありと、かなりジャーナリスティックな匂いがしましたが。、
谷口 あのような出来事は歴史的に見ても地理的に見ても、私たちが生きている世界では珍しいことではない。
ただ、第1話に限って言えば、ルルーシュの目線で出来事を描いていたので、どうしても血生臭い描写が
多くなってしまったのは事実ですね。あれくらいの出来事がないと、ルルーシュやカレン達がなぜ日本の中で
レジスタンス活動を始めるのか、日本の視聴者の皆さんには伝わらないだろうと考えたんです。
――第1話の虐殺などはTVアニメでは過激な描写ですが、今後もああいうシーンは要所要所に挟まれていくのでしょうか?
谷口 あれは、深夜枠で、しかもMBS製作だからできたことかなと思います(笑)。でも個人的には、血生臭い描写は
やりすぎると作品に品がなくなるので、必要以上に見せることはしたくありません。第1話で露骨にあれをやったのは、
「この物語は人が死ぬ話です」ということを、見ている方々に最初に植え付けたかったからです。
それをやらないと、2話以降の話が転がっていかないんですよ。
――まず最初に、作品の方向性を示したということですね。
谷口 そうです。この作品におけるルールですね。この作品の”リアル”はこれぐらいです、と。その中で人がたくさん死ぬだろうと。
そこはきちんと提示しておかないと、見ている方がどういうモードで作品を見ていいか分からなくなるので。
――もう一つ注目したいのは、そういうリアルな世界を舞台にしながら、「ギアス」という異質な設定が存在するということです。
谷口 ファンタジーの世界ですね。だからこそ、一人に一度だけしか使えないという制限が必要でした。そうしないと、
便利すぎて、ドラマの構造を破綻させかねない。どんなピンチに陥っても、「ギアスを使えばいい」となったら、
物語の緊張感は失われてしまいますから。
――巨大すぎる敵に立ち向かう主人公に与えられた、一つのアドバンテージというか。
谷口 それもありますが、視聴者の方々も普段の生活の中で、何か一歩踏み出すきっかけを求めていると思うんですよ。
「ギアス」という一歩踏み出すチャンスを得たルルーシュが、どうやって自分の願いを達成するか、その部分に
感情移入していただきたかったということです。
――ルルーシュは「ギアス」よって、背中を押されたと。
谷口 逆に言えば「ギアス」はきっかけでしかない。それを使って、いかに戦っていくかは、ルルーシュしだいなのです。
○あえて言うならピカレスクロマン
――いい意味で、捉えどころのない作品ですよね。第1話は政治色が強くて、第2話はロボットアクション、第3話では
いきなり学園物・・・・・・。物語がどこに転がっていくのか、冒頭の3話だけでは全く予想がつきませんでした。
谷口 視聴者の方が、その作品のジャンルを決めたがるというのは分かるんですよ。その方が安心できるから。
でも、明確に言い切れますが、この作品はロボット物としても学園物としても政治物としても作っていません。
もちろん美少年物でも美少女物でもない。今言った要素をエンターテインメントとして入れるだけ入れて、
「リアル」と「マンガ」のバランスをとって、一つのジャンルに固定されないものを作ろうと。ジャンルをあえて言えば
ピカレスクロマンです。「ルルーシュを見てください」ということに尽きる。
――ロマンという言葉が出ましたが、ブリタニアの貴族制度とか、彼らの衣装とか、覇権国家の成り立ちとかには、
現代社会の反映というよりは、どちらかというとローマ帝国とか中世ヨーロッパ的な歴史ロマンを感じます。
谷口 ピカレスクロマンというのはそういう一面も指しています。「ロマン」ということを忘れないでいただきたい。
設定の整合性にこだわるあまり、作品に勢いがなくなるくらいであれば、そこは無視して良いというくらいに、
今回は考えています。
――あくまでエンターテインメント性重視で行く、と。
谷口 そうですね。喜劇も悲劇も、観客の心が動けばエンターテインメントなんです。ルルーシュの悪漢ぶりも、
政治的な物語背景も、学園コメディも、メカアクションも全部ひっくるめて、見ている人の感情を揺さぶれるような
ドラマを作っていきたいです。
【谷口悟朗】
主な監督作品は『無限のリヴァイアス』『スクライド』『プラネテス』『ガン×ソード』。
『舞-HiME』ではクリエイティブプロデューサー。
>実は『コードギアス』は、最初は夕方や朝の枠向けに企画していたのが、深夜枠になった経緯があるんですよ。
やっぱ本来ならエウレカの次にこれやるつもりだったんか?
広告会社が博報堂だし
INTERVIEW 竹田菁滋[PD]
○物語に含まれたテーマを感じてほしい
――『コードギアス』にはどのような関わり方をしていますか?
竹田 企画の方向性が決まって、1クール分の脚本があがるまではシナリオ会議に出させてもらいました。
その後は諸富(洋史/MBSプロデューサー)が中心になってやってくれています。
――企画の方向性について、竹田さんからは、どのような発言をされたのですか?
竹田 超大国の支配に対してのテロを描くというのをやってもいいんじゃないかという話はしました。
スーパーパワーが一国だけになった世界で、日本が蹂躙されたら、若者は何を考えるのかを描くのが、
分かりやすいんじゃないかと。
――結果的に、ブリタニア帝国が日本を占領して、日本はエリア11、日本人はイレヴンと呼称されるという
世界観が出来上がったんですが、それに対する印象は?
竹田 アリやなと思いました。僕は大学で明治から戦前にかけての日本の朝鮮半島支配を専攻して
いたんですが、ブリタニア帝国が日本に対してやっていることは、かつて日本が朝鮮半島に対して
やったことと、共通する部分もあるように思います。靖国問題や改憲論議が取りざたされている今、
若い人たちが『コードギアス』を見て、かつて日本がやって来たことを想像してもらえるのは、
いいことなんじゃないかと。もちろん、エンターテインメント作品ですから、キャラクターのドラマを
楽しんでいただいて、その中でちょっとでも深いテーマを感じ取ってもらえたら成功かなと思っています。
――メディアの人間が主要キャラクターとして登場するのも、興味深いですね。
竹田 ディートハルトですね。情報戦略というのは、現代社会においてとても重要で、それによっていかに
世論が操作されるかということが、彼によって描かれていくと思います。
――最後に、谷口×大河内コンビに期待することは?
竹田 お二人が作った『プラネテス』を拝見しましたが、素晴らしい作品でした。『コードギアス』はかなり
困難な作品だと思いますが、このお二人なら、今日的なテーマを含んだ深い設定を活かしつつ、
良質なエンターテインメント作品に仕上げてくれると、確信しています。
【竹田菁滋】
MBSプロデューサー。一連の[土6]作品を手掛け、現在は『天保異聞 妖奇士』を担当。