読売新聞 2006年10月7日(土)東京朝刊33面
[アニメ、見てますか](5)ファン“二極化”の憂うつ(連載)
「アニメ大国」と言われる陰で、家族みんなでテレビを囲み、楽しめるアニメ番組が次々と消えている。
フジテレビ系で日曜午後7時に放送していた人気アニメ「ワンピース」は、今月から、関東地区では日曜の朝に移動した。
ほかの地区では平日の夕方になったり、番組自体が終了したり。
「ドラゴンボール」や「うる星やつら」などの名作を多く送り出してきた同局のゴールデンタイム(午後7〜10時)から、
これでアニメ番組は1本もなくなった。
TBS系でも、午後7時台に唯一放送していた「まんが日本昔ばなし」が、先月で終わった。
その理由は、数字からも明らかだ。ビデオリサーチによると、午後6〜12時のアニメ番組の年間平均視聴率(関東地区)は、
1990年に13.0%だったのが、2005年には6.9%と半分近くまで下がった。もはやアニメは、ゴールデンタイムの主役ではなくなった。
それでも、関東地区の地上波で放送されるアニメ番組は、週にざっと70本もある。一体、いつ放送されているのか。
午後11時以降の深夜帯、特に子どもは寝静まっているはずの午前1、2時台に集中しているのだ。その数は30本近い。
「深夜アニメの主な視聴者層は、20〜30代のいわゆる“アキバ系”男性」と説明するのは、アニメ専門誌の草分け「アニメージュ」
(徳間書店)の松下俊也編集長(38)。「最近のアニメ視聴者は、10代の女子中高生と、こうした男性層の二極分化が進んでいる。
前者は数が多いが、流動性も高い。後者は固定的だけれど、目が肥えていて作品評価が厳しい」
深夜アニメは内容自体、マニアックなものが多い。高視聴率を狙うより、ネットや口コミの力を利用して、最終的にはDVDなど
関連商品の売り上げで収益を目指すものがほとんど。「DVD販売のためのショーケースという性格が強い」(松下編集長)。
その結果、アニメ視聴者は限りなく“細分化”した。
さらに、新作アニメの企画も、一定の需要が見込める人気漫画や有名ライトノベル(若者向け小説)を原作としたもの
ばかりが増えた。オリジナル作品は、95年の「新世紀エヴァンゲリオン」を超えるヒットが出ていない。
日本テレビで「デスノート」などを手がける中谷敏夫プロデューサー(38)は「売れることを優先した企画に流れ、
じっくり時間をかけて本当に作りたいものを作るという姿勢に欠ける傾向もあるのでは」と分析する。
家族で見られるアニメといえば、誰もがフジテレビ系の「サザエさん」を思い浮かべる。放送開始から37年、今なお20%前後の
視聴率を誇るが、それでも最近は数字が低下気味だ。“神話”は永遠には続かない。
こうした中、日本テレビ系では今月16日から、男子中学生が妖怪を退治する「結界師(けっかいし)」をスタートさせ、
引き続き午後7時台のゴールデンタイムで勝負をかける。TBS系はきょう7日から始める「天保異聞 妖奇士(あやかしあやし)」で、
アニメでは珍しいオリジナルの時代劇に挑戦する。
「結界師」の諏訪道彦プロデューサー(47)(読売テレビ)は言う。「子どもから大人まで楽しめるのがアニメの原点。
時代が変わっても、それは決して変わらない」
「21世紀のサザエさん」は果たして生まれるだろうか。
(この連載は文化部の石田汗太、福田淳が担当しました) 関連記事
>>181-184 写真=東京・秋葉原の量販店には、アニメDVD専門のフロアも(石丸電気SOFT2で)
紙面画像
http://ranobe.sakuratan.com/up/src/up141770.jpg ※やはり記者は「OTAKUニッポン」の直言兄弟だったか