【脱視聴率 放送メディアの葛藤(下)】世代を超えて ヒントは「ドラえもん」
産経新聞 2005/10/30 大阪朝刊
◆20年前の子供が今は… 深夜アニメはDVD宣伝
F1、M3など世代や性別視聴率を狙った番組作りが通用しなくなった今、放送業界に新たな指針はあるのだろうか。
そのヒントは、テレビアニメ「ドラえもん」にあるという。
読売テレビ放送編成局マーケティング部の辻出国彦(三五)は「少子化時代を余裕で生き抜いている人気番組が、ドラ
えもんなんです」と言った。人気を裏付けるデータがある。昭和60年と平成13年の、ある放送日の視聴率を比較した
結果。最も人気が高いのは当然、四歳から十二歳までの子供(C層)。ともに30%台なかばで、時代が変わっても人気
は不動だ。他の世代はC層に比べ低い数字でほぼ横ばいだが、ある世代の視聴率だけが突出して伸びている。
このある世代とは、三十五歳から四十九歳までの女性(F2層)。60年にたった4・1%だった視聴率が13年には
13・1%にもなっている。辻出はこう説明する。「20年前、子供のころにドラえもんを見ていた世代が今、母親とな
り、自分の子供たちと一緒に見ているのです。むしろこのF2層の女性たちの方が子供たちより一生懸命に見ているのか
もしれませんね。またこの中には母親でない人たちも大勢います」
F2層はいずれF3層へと移行する。子供のころドラえもんを見ながら育ち、母となったF2層が次の時代にはF3層
となり、自分の孫であるC層と一緒に「ドラえもん」を見ているかもしれない。タイムマシンで時代を行き来するように、
「ドラえもん」の人気もまた時代を超えた。魅力ある番組を作れば、視聴者は世代を超えて引き継がれてゆくという好例
を示している。
読売テレビは今月から、ある試みに乗り出した。漫画家、北条司の人気コミック「エンジェル・ハート」をアニメ化し
て放送中だが、従来ならアニメ番組にとって全く想定外の深夜枠に放送しているのだ。「エンジェル・ハート」は、同じ
北条司原作の人気漫画「シティーハンター」の続編。「シティーハンター」は18年前にテレビアニメとしてゴールデン
タイム(毎週午後七時から放送)に登場。計四シリーズが4年間にわたってオンエアされた伝説的な人気アニメだ。当時、
「シティーハンター」を見ていた少年たちはいまは、社会人となっている。番組の狙いは子供ではなく大人。しかも、視
聴率も狙っていない。狙いはDVDの宣伝だという。DVDを購入できる経済的余裕があるが、仕事が忙しいこの世代に
向けてゴールデンタイムで放送しても意味がないのだ。
読売テレビ編成局コンテンツ開発グループの西垣慎一郎局長は「手掛けたアニメをコンテンツとして将来に残すことも
放送局の役割ではないでしょうか。これからは視聴率でなく番組の中身、視聴質が問われる」と話す。多様化する視聴者
のニーズをつかもうとする放送業界の模索は、始まったばかりだ。 “脱”視聴率へのアプローチは今後も、さまざまな
形で現れてくるだろう。