「どんなお話の映画なの?」
大勢の人で賑わう若葉台の街の中を歩く仲良しのふたり。
長く美しい黒髪を揺らし真っ白なロングスカートを軽く風になびかせて
雪城ほのかが訊ねる。
「ん?ん〜とね、七人の妖精を助けるふたりのオンナノコの映画。」
TAKOCAFEのアイスクリームを美味しそうに舐めながら
お日様の光を映し込んだ様な色の少し癖のある髪と
二枚重ねのTシャツにパンツルックでボーイッシュなスタイルの
美墨なぎさが答える。
「マンガ映画かア…それより今、図書館でブレキストン博士の展示物が…」
「ほのかって遅れてるなア!今、凄い話題の映画なんだから!
今日観に行かないと、明日からクラスの話題に乗り遅れちゃうよ!」
「時代遅れ!」だなんてなぎさの酷い言い草!
「むぅ…」ちょっと腹を立てちゃうほのか。
「ほらほら!わたしのアイスクリーム分けてあげるから機嫌直して!」
差し出されたなぎさ食べ掛けのアイスを目の前に差し出されて
これって間接キッス!?なんて思いながらも
オンナノコ同士なんだから考えすぎカナ?と思い直してぺロッと舐める。
「ほのか、あそこ見て」なぎさが指差す方向に大きな木。
その木の下で小さなオトコノコが泣いている。
傍らでおばあちゃんらしき人が困った顔。
「ちょっと聞いてくる」
おせっかいだなあなんて呆れちゃうけどそこがなぎさのいい所。
そんななぎさが大好きなほのかは笑いながらなぎさの後を追いかける。
「どうしたんですか?なるほど、オトコノコに買ってあげた風船を
うっかり手を放してしまって、木に引っかかっているという訳ですか」
見上げると大きな木の一番上に
引っかかっている風船は米粒のようにしか見えない。
「そうなんですよ、代わりの風船を買ってあげると言っても
この子ったら聞き分けてくれなくて…」
「コラ!オトコノコなんだから泣かないの!すぐに取って来て上げる!」
「なぎさ!危ないよ!」
「平気、平気!あの風船が好きなんだもんね?」
止めるまもなくスルスルと、木を登っていくなぎさ。
いつの間にやら周囲には大勢のギャラリーが集まり、
ひやひやしながらなぎさの木登りを見守っている。
けれども「大丈夫かしら…」なんて心配する暇もなく
あっという間に木の頂上に。
なぎさは風船を捕まえると地上のほのか達に軽く手を振る。
周囲の観客達も拍手喝さいの大騒ぎ!
――凄い!中学生?カッコイイ!何て名前かなア?
まるで自分が誉められたみたいでちょっと鼻が高くなっちゃうほのか。
「あらまあ本当にありがとう。素敵な彼氏ね」
「…え?彼氏?誰が?誰の?なぎさと?わたし?」
「あら、違うのかしら?とっても仲がよさそうで
素敵なカップルだと思うんだけれども…」
――ざわざわ…あの娘の彼氏だって
――ざわざわ…ちぇっ!タイプなのになア
――ざわざわ…カッコイイオトコノコとカワイイオンナノコのカップル!
――ざわざわ…お似合いだよねー!
周囲の嫉妬と羨望入り混じる大きな誤解の中
ナンニモ知らないなぎさが風船片手に降りてきた。
「はいコレ。もう失くしたり、おばあちゃんを困らせちゃダメだゾ!」
「うん!ありがとう!おにいちゃん!」
「お…お兄ちゃん?」
「うふふふ…」
――もうダメ。ガマンできない。
なぎさの手を掴みその場を逃げ出すように走り出すほのか。
「ちょ…ちょっと!ほのか!どういう事?」
「イイからイイから!気にしない気にしない!
急がないと映画始まっちゃうよ!美墨クン!」
おしまい