お昼ごはんの後の五時間目。授業はよし美の国語の授業。
春眠 暁を覚えず
処々 啼鳥を聞く
夜来 風雨の声
花落ちる事 知りぬ多少ぞ
ふと、窓際を見る。
――あーあ!やっぱり。居眠りしてる。
教科書を机の上にバリケードみたいに立てて
左のほっぺたをノートにくっつけてすやすや気持ちよさそうに眠っちゃって!
もう!急いでノートをちぎってメモ書き。
隣の席の子に「なぎさにお願い!」
なぎさのだらしの無い顔を見て「ぷっ!」笑いながら隣に廻す。
――もう恥ずかしいよ。
「OK!」って顔でさらに隣へ。聖子が良いよ!って目で合図。
それから前の席の高清水さんに。「うん。わかった」
つんつん…突っつかれ起こされたなぎさが寝ぼけたまなこで
振り返りわたしのメモをぼんやり顔で読んでる、読んでる!
――しっかりしてよね。同じプリキュアとして恥ずかしいんだから!
あれ?なんかなぎさったらこっち睨んでない?
だって、授業中に居眠りなんてしてるなぎさが悪いんだからね!
わたしからの伝言メモに何かお返事を書いているみたい。
するすると伝言メモが返ってくる。
(いい気持ちで寝てたんだから邪魔しないで! なぎさより)
――邪魔?ムカー!なんていい草!書き書き…もう一回なぎさにお願い!
(居眠りを注意して邪魔って言い草は無いでしょう? ほのかより)
(昨日眠れなかったの!"言い草"ってどういう意味 なぎさより)
(授業ちゃんと聞かないから解らないの! ほのかより)
(教えてくれたって良いじゃん! ケチ! なぎさより)
(ケチって言い草は無いでしょう! ほのかより)
(ケチケチケチケーチ!"言い草"ってどういう意味 なぎさより)
――なぎさったら!確かによし美先生の授業は退屈でつまらないけど…
と、突然横から手が伸びメモ書きをさらわれてしまった。
「ちょっと書き…かけ…で…す…」見上げるといつの間にかよし美先生が!
「ふむふむ…ほほぉ…ふぅむ…雪城さん、そんなに授業つまらない?」
「いえ…あの…その…えっと…何て言うのか、そのぉ…」
「廊下に立って反省なさい!」
「えーそんなァ…」
――なんで?わたしが?なぎさの居眠り注意してそりゃあ勢いで…
「あははっはは!授業中に悪ふざけしてるからよーだ!」張本人のなぎさが囃す。
「な・ぎ・さー!大体こんな事になったのもあなたが…」
「美墨さん!あなたもです!」よし美先生の大声炸裂。
誰も居ない廊下にふたり立たされて。
なぎさが一番の悪者の癖にふてくされたみたいな態度。
――わたしだって知らない!なぎさが"もうほっといて"なんて言うのなら
なぎさの好きにすればいいじゃない。おせっかいだって言うなら…
―こつん。
右手の甲がなぎさと左手に当たる。
引っ込めようとしたわたしの右手の小指。
なぎさの小指が指切りするみたいに絡みつく。
「…ごめん…ね?」そっぽ向いたままで呟くように謝るなぎさ。
――もー!いまさら謝ったって遅いよぅ!
絡めたなぎさの小指の力が緩くなる。
――でも、なぎさが素直に謝るんなら許しちゃおうかな?
ぎゅう!今度はわたしが謝る順番。
なぎさの小指を逃がさない。
なぎさとわたし。同時に振り向く。
――やだ。なぎさ、泣いてるの?可笑しいよ。
怒られ慣れてるなんて変な自慢するくせに!
――こっちん!
「痛ッ!」
軽〜くなぎさのおでこにわたしの頭をぶっつける。
「これで許してあげる。」
なぎさが空いた方の手でおでこを擦りながらイタズラっぽい目で問い直す。
「ホントに?」
「うん、許してあげる。」
――ホントにホントもう良いんだ。
ごっちん!今度はなぎさがわたしのおでこにお返ししてきた。
「一回は一回。これでホントにあいこでしょ!」
「ふふふ。」「うふふ。」
こちん!もう一回。こっちん!
「うふふ。わたし達、何やってるんだろう?」
おしまい
その頃、教室では。
廊下側の窓に映る二人の頭の影がくっついたり離れたり。
みんなちょっといろいろと勘違いしていたりする。