監督 渡邊哲哉 各話コメント
第一話
一話はスタートで、全員気合いが入ってますね。作画も一番キレイですし(笑)。
まあキャラクター的にこなれてないところがいくつかありますが、遙も可愛く描
けたし、自分もけっこう気に入っています。でも、この段階から水月を描くこと
に比重が偏っているのが明らかなんで、その辺りをもう少しバランスコントロー
ルできればよかったなと今では思っています。
第二話
遙と孝之のベタベタしているところと、水月がテンパってる感じを描きました。
この辺のテンパり方は物語後半と違って、高校生らしくていいなと思っています。
遙と孝之をエッチさせたのは、サービスじゃなくて、これくらいやっておかな
いと三年も引きずらないだろうと思ったからです。最後の事故シーンはやり過ぎ
かなとも思ったんですが、緊張感を出すためにはこれくらい必要でしょう。
第三話
三話はちょっと不親切だと思うんですけど、何の説明もなく、いきなり三年後
に飛んでしまおうと思ってました。「すかいてんぷる」でのガチャガチャとしたと
ころから始めて、水月が来て、時間が経ったのを見せ、関係を見せ…という流れ
ですね。三話は自分がコンテをやったんで思い入れも強いです。水月とのベッド
シーンはもっと露骨にしたかったんですけど、結局少し上品な感じになりました。
第四話
四話は完全に三話の続きですね。水月がなんとなく暗い目をしているのも、この
頃からですね。水月の明るいところがシリーズの前半からなくなっちゃってるん
ですが、これは遙と対比を出すためです。水月にはしこりがあって、そこに孝之が
一緒に暮らそうよなんて言ってくれて、嬉しくなっているあたりで遙が目覚める。
その流れを描いて、なんとなくふたりの対比ができればいいなあと思いました。
第五話
五話は、水月と孝之のなれそめですね。ゲームでは一切書かれてないところをや
りました。これはアニメのお話であって、ゲームでこうだったということではない
です。水月と孝之の初体験のあたりをある程度ドラマチックにしていこう、と考
えて作りました。月九とか、実写ドラマっぽい世界、といえるかもしれません。
ドラマチックな展開をいっぱい盛り込んで、起伏に溢れてる感じがしますね。
第六話
四話、五話で物語の前半のドラマチックなところを全部たたきつけちゃったん
で、六話あたりは日常を描いています。最初に水月と遙と茜の回想を入れたのは
正解だったと思います。もう一つ二つ回想シーンを入れてもよかったけど、入れ
たらうるさかったかな。この回は前回に比べて、特に事件も起きてませんが、水
月がだんだん不安になっていく過程が良く描けたと思います。
第七話
ここも六話と同じく日常の話ですね。孝之の、自分ではわかってるつもりでい
る水月への愛情が、水月には伝わっていない。水月も不安が高じてどんどん不安
定になっていく。出ていく水月を追いかけない孝之とか、孝之の中途半端さ加減
が視聴者の皆さんにはすごく歯がゆいと思いますが、自分が見直しても歯がゆい
気持ちになります。「何故負わん、バカ者っ」って。
第八話
孝之にとって、水月が家にいることがなんとなく重たくなって、病院に行くこ
とがだんだん逃げ道になってくる、という感じですね。遙はあくまで昔のままで
接してくれるから、孝之にとっては心地いい環境だと思うんですよ。水月とのベ
ッドシーンは、最初もっときつかったんですが、さすがにテレビで流せなくなり
そうだったので、こういう感じになりました。
第九話
九話は、キャラが心情的にゆれまくっていることが話の中心です。水月も孝之
もゆれてる。孝之はさらに就職しないかって話でゆれてくる。将来についての漠
然とした不安感も描写して、孝之の悩みっぷりを増幅できればなあと思いました。
中盤のあゆのシーンは、初めもう少し長かったんですけど、尺の問題で短くせざ
るをえなくなっちゃって。もう少し丁寧に描写してあげたかったんですけどね。
第十話
十話は、前半は静かに進んで、後半では、水月はなんか変な男にひっかかる、
遙は倒れちゃう…と、極端な出来事が起こるようにしました。最後に遙が倒れる
シーンに向かって流れを作った回です。片山一良さんのコンテだったんですが、
曰く「ロボットものみたいだった」と。確かに、最後にドカンとやるために話を
ひっぱる、というつくり方はロボットものっぽいですね。
第十一話
十一話は起こってしまった事件の顛末ですよね。最初にあるベッドシーンは「や
りすぎ」って言われました。胸が見えなきゃいいと思ってたんですが、逆にもの
すごくエッチになってしまいました。
ここはそれぞれが自分の感情を整理していく回だと思いますね。でも、孝之は
結果的に整理できてないんですよ。孝之に成長のあとは見られないんですね。完
全に孝之だけが取り残されてますね。
第十二話
この辺から孝之がどう結論づけるかという結末を目指して話を作ってます。こ
の回、あゆが「男前やな」とか「男気あるね〜」って感じですね。あゆは第九話
でもカッコいいですが、十二話が一番カッコいいかなと。女の子ですが、孝之よ
りも間違いなく“漢”です。ちなみにこの回のあゆまゆ劇場は渡辺明夫さんが原
画をやられていて、みょーにふっくらして、可愛くていいんですよね。
第十三話
遙に水月を叩かせたのは、やはり一発くらい叩かないとふたりとも辛いと思っ
たからなんです。水月はわざと自分が悪者になろうとして、「孝之は悪くない」と
言っている。それを、遙はわかってるんだと思います。わかっているんだという
ことを、遙の「でも嫌」と言うセリフの「でも」の部分で表現したつもりです。
このあたりに、遙の芯の強さみたいなものを出せればと思いました。
最終話
遙とのお別れに半パート分使ってます。夕日の色なども含めていい感じにできた
と思います。物語的には、水月はもう結論を出してるんで、孝之が一言言えば済
む。でも大団円にはしたくなくて、しこりは残るけど孝之の選択はコレ、という
形にしたかった。最後に孝之たちの顔が出ないのは、この話がもう彼らの物語で
なく、それぞれ別の人生を歩む一人一人のものになった、としたかったからです。
監督 渡邊哲哉 ロングインタビュー
――『君のぞ』の映像を作るにあたって、他の恋愛アニメ作品と差別化をはかった部分はどこでしょうか?
渡邊:差別化になるのかわかんないですけど、とりあえず普通のドラマにしようということで作りました。
特に変わった処理をせずに、普通のドラマとして見られるようにできればなあと思って作りました。
――実際にイメージした作品はありますか?
渡邊:特に意識はしていませんが、ドラマだと月九とかあの辺は見たことがないんで、もっと昔のやつで
すよね。でも、やってみてわかったんですが、ドラマの壁は厚いですね。
――どのような部分で壁が厚いと感じられましたか?
渡邊:芝居づけであったりとか、カメラワークであったりとか、演技全般です。この演技というのは役者さん
の演技ではなくて、演出側のことです。一般的にテレビアニメっていうのは、省力化ということもあって、
キャラクターに寄った絵が多かったりとか、一カット一芝居とか、そういうのが多いんですけど。あんまり
そういうふうにはしたくないなあと思って。表情見せなきゃいけないときだけカメラを寄らせて、あとはでき
るだけ普通の演技にしたいなあという理想はあったんです。でも、それをやるのはすごく大変でしたね。
――作画スタッフも大変だったと
渡邊:特に文句はきてないですけども、大変だって話は聞いています。今リテイクの作業中なんですけど、
タイムシートとか原画とか見てて、「ひどいことやらしてたんだな」ってのは思いましたね。フィルムとかコン
テとか見てるときにはあまり気にはしてなかったんですけど、実際にそのカットを見ると、申し訳ないって
気持ちです。申し訳ないっていうのじゃないな、ありがとうございますですね。スタッフの方に。
――今回のメインヒロインは水月ですが、これは最初から決まっていたのですか?
渡邊:いちおう企画のスタート段階から、水月でいこうという話になってたんで、じゃあ水月を立てようという
ことで話を作っていました。
企画前の話をすると、この仕事をする前に、原作のゲームをプレイしてみたんですよ。そこで最初に
水月のエンディングを見たんですが、あんまりにも遙が不憫でならなかったんですよ。これは遙を主人公
にしたいねえって思いましたね。それで内部で喧々囂々やった結果、「遙の強さを描くなら、やはり…」とい
うことで、ああいう形になりました。まあ、水月の方がドラマチックではあるから、話としては作りやすいんで
すよ。でも、バランスを考えながら、遙もできるだけ救いたいと考えてましたね。
――では、実際に遙を描いてどうでしたか?
渡邊:遙ってすごく扱いづらいっていうか、難しいキャラクターだと思います。三年前はいいとしても、三年後。
孝之がショックを受けるようにするには、ただぼうっとしているだけでも、普通にしゃべるだけでもいけない
んです。その辺をうまくやらなきゃいけないとなると描きづらくて。不安定なキャラクターなんです。不安定
なまま最後まで行けば、まだそういうキャラクターだってことで済むんですけど、途中で一回倒れて、目が覚
めたら今度はしゃきっとしてるじゃないですか。その辺が難しかったですね。だから、もう少し話しに余裕が
あれば、遙が病院にいるあいだどう思っているのかっていうエピソードを、つっこみたかったですね。
さすがに十四話であの密度だと、突然遙の主観の話が出てきても浮いてしまうんでやめましたけど。
――では、水月のほうが描きやすいと?
渡邊:水月は、立って歩いて普通にしてますから、ドラマとしては作りやすいと思いますよ。遙を深く描きす
ぎると、どうしても難病モノみたいになっちゃうんです。まあそういう描き方もあるんだろうけど、それは避け
たいんで、ああいう感じにしてみました。
――孝之は放映当時から、ネットなどで優柔不断だと言われていましたよね
渡邊:でも、原作も優柔不断だし、原作よりも優柔不断ぶりはなくしたつもりではいるんですけど、優柔不
断なのかなあ。
あれで例えば孝之がですよ、俺は水月一筋なんだって言ったら、三話で終わっちゃいますんで。そうじゃ
なくて、やっぱり遙がひっかかってる、なんとなく俺が幸せになっちゃいけないんじゃないかなあと思いつつ、
水月のほうも同じように思ってて…と、そういうところがこのドラマを作る前提なんで、やっぱり優柔不断
であることに間違いはないんでしょうね。
――では、次に茜のことをお聞かせください。
渡邊:茜はね、一番難しいと思いますよね。心情的にはすごくわかりやすいのかもしれないけど、その心
情がいかにいやされて、いかに変わっていくかってところが、すごくわかりづらいと思います。でも、結局
人間なんて、アイツ大嫌いと思ってても、だんだん話してるうちに気持ちが変わって、大嫌いは言い過ぎだっ
たかなあって思うってこと、あるじゃないですか。この原作のテーマであるところの、「時間の癒し」みたい
なものが、一番端的に表れているのが茜だと思います。時間は一番残酷で優しいっていうのが、あの子に
とってホントにそうだと思います。
――好きで始まって嫌いになってまた好きになるって言う流れは、描くのは難しかったということですか?
渡邊:その「好き」が、男女関係の好きなのか、人間として好きなのかっていうところが難しかったです。
一応男女関係の好きにはしなかったつもりなんですけど、やっぱり難しいですね。茜の描写に多くの時間
を割けないってもあるし。ゲームではキャラクターごとに複数のルートがあるから、全員分のストーリーを
相互補完できて強いなって思いますね。
――アニメーションはその辺にある程度答えをつけなければいけないですものね。
渡邊:アニメは結局1ルートでしょう。それも長さが決まっているから、その間に全部のカタをつけなきゃい
けない。結果的に詰め込みすぎになってしまうんですよねぇ。まあ、今回はあえて、すべて丸くおさめるつ
もりはなかったんで、あゆとかは投げっぱなしだし、いろいろと決着つけてないんですけどね。現実ですべ
てが丸くおさまるってことはまずありませんし、これはこれでいいかなと思っています。
――あゆまゆ劇場はどなたがああいう感じになさったんですか?
渡邊:自分です。ああいうの、昔からやりたかったんですよ。自分が初めて演出やったのが『機動戦士V
ガンダム』ってやつなんですけど、そのときに、アイキャッチで一本の話に繋がっているように作っていた
んです。アレを見て、これを予告でやったら楽しいだろうなって思ってたんですよ。だから予告をどうしよう
かって話になったとき、予告で全然関係ないやつを、一本繋がるように作ったらどうなるのかなって。
三十秒だから、十本あれば三百秒じゃないですか。三百秒あればちょっとした短編にはなるでしょう?
でも、さすがにそれはできなかったんで、じゃあ三十秒でなんか関係ないやつをやろうよということになり
ました。本編が重たいから、なるたけ軽いのにしよう。じゃあ、誰にしよう。あゆまゆが出番がない、じゃあ
こいつらにしよう。という感じで話は決まってったんですよ。
――では、制作もスムーズに進んだわけですか?ネタ出しとか。
渡邊:いいえ。実際本編作っていって、結局後回しになるわけじゃないですか、予告だから。どうしようかと
思いましたもん、最後のあたりは。次につくんなきゃけないやつなのに、まだコンテ描いてないという状態で。
シナリオを書いてもらったら、五十秒とかあって。三十秒に縮めたら話がよくわからなくなっちゃったりとか
して、つらかったです。
――ネタ出しは全部渡邊監督がなさっていたんですか?
渡邊:いやいやいやいや、金巻さんと自分と、あと加瀬さんです。最初に金巻さんがシナリオ書いて、そこ
で加瀬さんにコンテ出してもらいました。そしたら「長いよこれ」と書いてあるのがいっぱいあって、よく見る
と「すげえ大変」てのもありました。作ってない作品に、崖から落ちるってのがあって、ゴロゴロ転がっていく
のを延々やってるものなんですが、これはさすがに大変だというんで、宇宙船に変えました。
――最終話で同じアージュの作品である『君がいた季節』のキャラクターが出てきますが、あれはどういう
経緯で登場させることになったんですか?
渡邊:ああ、アレは孝之が出て行った部屋を管理人が掃除している、というカットを入れる話をしたら、アー
ジュさんから、「実は設定がある」と言われて出しました。当初はなんでもないオバさんの一部くらいを見せ
るつもりだったんですけど(笑)。
――え?そうなんですか?
渡邊:本当は最終話だけでポンと出すのはつらかったので、どこか途中の話数で出そう、出そうと思ってたん
です。でも、出すところがなかったんですよ。もうストーリー的にいっぱいで、うまく入れられるシーンがなくて。
それで結果として最終話だけに出すことになってしまって、つらかったです。きっと「誰コレ」って言われるだ
ろうと思ったので。でも、約束したし、「出せませんでした」って言うのも悪くて……(笑)。
――他に何か隠しキャラみたいなものはいるのでしょうか?
渡邊:他には……特にないと思います。第三話で『ストラトス・フォー』の三人が、こっそり出てきていたんで
すけど、あれはさすがにやりすぎだなってことで、DVDでは直しています。あそこの原画をですね、ストラトス
の監督のもりさんがやったんですよ(笑)。
――最後に最終話をふりかえってみての感想をお願いします
渡邊:こういう人間芝居だけで全編通すというのは初めてに近いんで、やってみたいと思っていました。
これだけ感情だけで話をすすめていくのって、あまりないんで、是非やってみたかったんです。
前に『Z.O.E.』という作品をやったときに、あれで結構ガンダム的なロボットものの憑き物が落ちた感じが
あって。次に何をすればいいかと思っていたときに、この仕事が来たんです。終わってみると自分の力量
の足りなさも感じるんですが、一本通した話にはなっているので、自分にはとても意味のある作品ですね。
ただ、見返すのに体力を使う作品です。それくらい内容を詰め込んでいるんで、それなりのドラマはでき
ているんじゃないかなと思っています。その重たさがいやだって言われちゃうとどうしようもないですが。
でも、そういう作品の監督という立場になっているのは嬉しいです。
キャラクターデザイン・総作画監督 菊地洋子
遙に対するデザインコメント(一部抜粋)
最初、彼女は三年後のガリガリ具合を強調するために、高校時代はふっくらさせて、
という監督からのリクエストがあったのですが、原作サイドからクレームがつきまして。
まあ、そりゃそうですよね(笑)。
シリーズ構成・脚本 金巻兼一 スタッフコメント(一部抜粋)
ここまできちんと心情描写を軸に描いたアニメは新鮮だったようです。次回を期待させ
るエンディング構成も功を奏したようで、これ幸い(笑)。とはいえ、ものすごくストイックで
繊細な脚本を書かねばならなかったので、脚本制作期間も通常の3倍近くかかっています。