【ミント】わたくし100g100えんじゃありませんわ!
『ぐっ…………ちくちょう……』
ノーマッドが、くぐもった呻き声を上げた。
彼のぬいぐるみの身体は、すでに鮮血で真っ赤に染まっている。
『ああ…ヴァニラさん……ヴァニラさん……ヴァニラさん…………』
そしてうわ言のようにヴァニラの名前を連呼する。もし彼に涙腺があったとしたら、
其処からは押し止め様の無いほどの涙が溢れていたに違いない。
彼の目の前には、血の池に浮かんだ「肉塊」があった。赤黒い肉片。薄い黄色ががった
脂肪。白く突き出した物は骨だろうか。そして灰色がかった…何か分からないもの。
それらがまとまってうず高く積まれていた。そしてその傍らには、血で赤く染まった
ヴァニラがつけていたヘッドギアが転がっていた。
つい先ほどまで、その肉塊は「生きていた」。
しかし、「彼女」は生きたまま「解体」されたのだ。そう、ノーマッドの目の前で。
自分では身動き1つ取れない、彼の目の前で…
『お前さんの何考えているのか分からない表情…前から気に喰わなかったんだ…』
そう言ったフォルテの銃で突然眉間を撃ち抜かれ、悲鳴を上げる暇もなく「どさり」と
彼女は倒れた。そしてまだピクピクと痙攣する状態で蘭花に天井から縄で吊るされ、
ミントはその白い腹にナイフを突き立て、内臓を引き摺りだした。そしてミルフィーユ
が笑みを浮かべながら手際よく「解体」していく。
そして…あろうことか…彼女達は、その肉を「口にした」。それも、死臭の漂うこの
場所で。
その一部始終をノーマッドは見てしまった。瞼の無い彼は、「見ないわけにはいかな
かった」のだ。必死にその部分の記憶をメモリーから削除しようとしても、目の前の
壮絶な光景に反応する感情データの削除が追いつかない。彼は、感情を持つまでに
至った自分の高速CPUを、逆に恨んだ。
やがて、その部屋に返り血を浴びた服を着替え、シャワーを浴びたエンジェル隊の
メンバーが戻ってきた。
『あっ…あななたたち…よくも………』
ノーマッドが呻くが、どうすることもできない。
「おや? ノーマッド。あんたも食いたかったのかい? …ってお前には口が無いから
無理だよなぁ。ははは」
先ほどまで屠殺作業していたとは思えない表情で話すフォルテ。
「残ったお肉は、私の部屋の金庫の中で冷凍保存しましょう。仮にも昨日まで私たちの
お仲間だったのですから、亡骸も大切にしてあげないと…」
「そうよね…他のエルシオールのクルーにこの事バレるとマズイしぃ」
残酷にも笑みを浮かべて語らうミントと蘭花。
「新鮮なお肉って、やっぱり美味しいですよねぇ…」
そして暢気な口調のミルフィーユ。
ノーマッドは、彼女達の笑顔に、さらに戦慄していた。
欲望のままに殺し、その肉を喰らう。そしてその死体の場所で笑顔で語らう。
人間とは…人間とはなんと業深い生き物なのだろうか。
そして、彼の体を「ヴァニラが」抱えて呟いた。
「牛さん、おいしゅうございました」