【あずまんが大王】よみ&とも【Best Friends】
前々回は
>>211-212 前回は
>>407-409 あずまんがcollege2−12
7月17日午前10時30分
京都市内
「ありがと〜ございました」
「き〜つけてかえりなはれや〜」
大阪の叔母は微笑を浮かべて手を振っている。
「今日はどうするんだ?大阪」
先頭を歩く智は後ろを振りかえる。
頭に大きなたんこぶを作った大阪は、黒いリボンのついた大きな麦わら帽子を
かぶりながら口を開いた。
「ともちゃんも、よみちゃんも水着もってきたん?」
「お〜持ってきたぞ、とびっきりなセクシーな奴をな」
「ああ、一応な…でも京都に泳ぐ場所なんてあったか」
暦はけげんそうな顔をみせる。
「莫迦だな〜よみは、鴨川で泳ぐにきまってんじゃん」
「はあ?」
「阪神が優勝するとだな、橋からみんな飛び降りるんだぞ」
「それは道頓堀だろ…」
呆れた表情を見せながら、深いため息をつく。
「それでも…どこにいくんだ、プールか?」
暦は眼鏡の角度を片手で調節しながら、傍らに見える麦わら帽子に向かって
たずねる。
「たんすいよくや」
「たんすいよく?」
「そうやねん、たんすいよくやねん」
妙に自信満々な口調で言い切ると大阪はずんずんと歩き出していった。
「うわ〜海だ〜きゃっほ〜い」
眼下に広がる水面に向かって、水色のビキニ姿の智は弾むように駆け出していく。
「海じゃないけどな…」
砂浜を飛び跳ねている智の姿を見送りながら暦は呟いた。
夏の強烈な陽光が水面に乱反射し、蒼い水面に宝石の煌きが散りばめられている。
空も青く澄んでおり、対岸の山の稜線をはっきりと眺めることができる。
岸からはさほど遠くないところからは、水上バイクのモーター音が微かに
響いている。
浜辺は夏休み直前の平日であるためか、さほど混んでおらず、所々で若い
カップルや、家族連れのあげる喚声を耳にする程度である。
「ともちゃ〜ん、急に深くなるからき〜つけてな」
大阪は両手を口に添えかわいらしい声で叫んだ。
京都駅からJRで30分ほど行ったところにある近江舞子水泳場は、琵琶湖
西岸の中でも規模の大きい遊泳場である。キャンプ等のレジャー施設も整って
おり、京阪方面から遊びにくる人も多い。ただ、地形の関係上、岸辺から
離れると急に水深が深くなってしまう特徴をもっている。
3人の水着姿の少女達は、波打ち際ではしゃいでいたが、暫くすると疲れを
覚えたのか、暦は一人だけ浜辺からあがり、バスタオルで軽く茶色がかった
長髪を拭った。愛用の眼鏡を外し、松の木陰の下に敷いたシートの上に体を
ゆっくりと横たえる。
やや遠くからは、楽しげに水をかけあっている智と大阪の歓声が微かに
聞こえている。
(なんか、気が抜けたな)
大学での生活に決して気を張ってつもりはなかったが、智や大阪とはごく
自然な気持ちで一緒の時間を過ごすことができる自分に、今更ながらに気付いて
思わず苦笑する。そして、未明の智との出来事に思いを巡らす。
(ちょっと強引だったかな…)
暦の心の中は、自分の想いを思い切り打ち明けた爽快感と、今後智がどんな反応を
みせるのかという不安が混ざり合っている。
後は智の気持ち次第だろう…
考えることに疲れを覚えた彼女は、木漏れ日の眩しさを僅かに感じながらも、
心地よい風を乾き始めた体に包まれて、まどろみの中に落ちていった。