【あずまんが大王】よみ&とも【Best Friends】
19.炎上
喫茶店を出た後、私はロボットのように街中を機械的に歩きながら、大阪の言ったことを思い出していた。
大学時代、ともと付き合っていた男──名前は、瀬野秀一(せの しゅういち)。核物理学を専攻していた秀才で、しかも実家はどこかのボンボンらしい。
大阪の見た限りでは、瀬野という人物は極めて物静かで傲慢なところがなく、一見ともとは正反対のように見えるが、よく馬が合っていて、いいカップルに見えたそうだ。
瀬野という人物は、一連の出来事に関わっているのだろうか?
買い物を済ませて、幼稚園に勇気を迎えに行き、神楽の家から裕香を回収して家に帰ると、もう夕方だった。
夕飯の準備にかかる前に、私は大阪から訊いた、大学時代のとものめぼしい友人たちから、ともが警官を目指すようになった動機を尋ねまわった。
何人かは面識があったので簡単な説明で済んだが、そうでない人は少し面倒だった。
聞き込みの結果はと言えば、あまり成果はなかった。ただ不可解な情報を手に入れることができた。ともと瀬野秀一が付き合っていた時期が、ほとんどの場合ばらばらなのだ。
おそらく正解は、とも本人が大阪と私に明言した、大学2年の時の9月から10月の一ヵ月だろう。ところが、これは推測になるが、この二人は、別れた後もちょくちょく会っていたのではないだろうか。
現に大阪以外の人は、ともと瀬野が二人でいるところを見たから、そう判断していたようだ。
瀬野の進路についても訊いたが、誰も知らなかった。
いよいよ最後の頼みは、あのメモリースティックだけになってしまった。
そろそろ夕飯を作ろうと、よっこいしょ、とババ臭いこと口にしながら、立ち上がると電話が鳴った。
受話器から切羽詰ったような神楽の声が聞こえた。
『テレビ見た!?』
「え?」
テレビに目を向けると、フッ素パワーが歯を真っ白にすると歯磨き粉のコマーシャルが主張していた。
『8チャン! 8チャン!』
チャンネルを変えた瞬間、画面の中で大きな建物が炎上していた。見覚えがあった。
手から滑り落ちた受話器から神楽がなにか言っていたが、私の耳には遠く届かなかった。
かつて、みんなと肩を並べて登校した、高校の校舎が燃えていた。