【あずまんが大王】よみ&とも【Best Friends】
16.母親よみ
嵐のような昼は去った。実際に嵐は去り、夕時には雲の切れ目から晴れ間が見え隠れしていた。
デジカメがどこにあるか分からなかった。そういう機械関係はみんな夫に任せてきたせいだ。
多分、夫の書斎だが、なんだか探す気にもなれず、お昼のドラマもワイドショーも見る気になれず、テーブルに突っ伏して死人みたいになってた。
それで今、私は何をしているかといえば、夕飯を作っていた。
ともの死とその葬式、みんなとの再開、ちよちゃんの訪問、いろんなことがあったが、自分が二児の母であることを忘れたわけではない。
その一方で、少しあきれてもいた。あれだけ奇妙なことが続いたにもかかわらず、数時間後の今は数年間続けてきた夕飯の仕度を、何事もなかったかのようにしている自分がいる。
主婦は強いと思う。
しかし、全てがいつもと同じと言うわけでもない。何をするにも、頭の隅にメモリースティックのことがよぎる。そしてその度に、網膜に焼きついたちよちゃんの顔が思い浮かんだ。
ちよちゃんは変わってなかった。今思えば、逆にそのことがかえっておかしいと思える。
あの時、今日のお昼の時に、ちよちゃんに一連のことを訊いていたら、どうなっていたのだろう。
裕香の泣き声が聞こえた。
「ママー、ユカが泣いてるー」
「はーい、ちょっと待ってー」
包丁を置き、手を洗い、火を止め、おしめの袋を持って子供部屋へ向かう。泣き声で大体要求は分かる。
私は母親なんだから。
17.写真
「デジカメどこいったっけ?」
夕飯の後、勇気と一緒になんだかよく分からない芸人の番組を見ている夫に声をかけた。
「デジカメ? なんに使うの?」
私はさりげなく、件のメモリースティックを取り出して、
「友達から借りたからちょっと見てみようと思って」
夫は勇気を置いて立ち上がり、私の手からメモリースティックを抜き取った。
なんだかジッと見てる。裏表をひっくり返して見たりして、首を傾げた。おかしいところがあるのか? 私は内心、心臓が高鳴っていた。
夫は、まあいいや、いう感じで肩をすくめると、書斎の方へ歩き出した。小さい、小さいタメ息が出る。
夫の部屋の掃除はもちろん私がする。でも、夫の部屋の棚の中に何が入っているのかは分からない。別に覗こうとも思わない。夫婦の間にだってプライベートは存在する。
実際、中は何度か見たことがあるが、ごみごみしていた印象がある。きっと主である夫にしか分からない秩序と法則を持って、棚の中の世界はできているのだろう。
その中にデジカメはあった。私はできるだけ夫にも中の画像を見られたくはなかったが、夫はそうそうにメモリースティックを挿入してロードしてしまった。
デジカメの小さな画面に映し出された画像を見て、夫が言った。
「もしかして、これおまえ?」
私は画面を覗き込んだ。
高校生の時の私がいた。ともがいた。榊がいた。神楽がいた。大阪がいた。ちよちゃんがいた。
修学旅行に行った時の写真だ。みんな、心から笑っていた。
「へえ〜、おまえ若いなー」
夫の呟きは私の脳まで届かず、右耳から左耳に抜けていった。
今の私には、ともの太陽のような笑顔がまぶしすぎた。ともは死んだ。もしかしたらその事に、ちよちゃんが関わっていたかもしれない。
みんなの笑顔がまぶしすぎて目をつむると、涙がこぼれ落ちた。
ともは、この写真にどんな想いを込めたんだろう・・・