【あずまんが大王】よみ&とも【Best Friends】
14.訪問(4)
私自身、アルバムを開くのはずいぶん久しぶりだ。旅行代理店に就職したときに、いつまでも昔のままではいられない、と言うことでダンボールの底にしまっていたはずだ。
押し入れの奥から引っ張り出した、ずっしりと重いアルバムを抱きしめて立ち上がった。部屋の隅で寝かせてある裕香が目に入った。
お母さん、がんばるよ。
「お待たせ」
私はちよちゃんの隣に座り、アルバムを開いた。中から思い出が出てきた。
私の記憶の中にさえないような思い出が、アルバムの中にはちゃんと当時のまま、写真と言う形で残されていた。
「これ、ともちゃんですか?」
「そう、あいつ昔は髪長かったんだよ」
昔といっても小学生の頃だ。なんだかよく分からないが、ある日突然髪をショートにして、どうだ! と自慢げに言ったのを覚えてる。
それからしばらく、二人でアルバムを見ていたが、時々とよちゃんに何のときの写真なのか聞かれても覚えてないモノがいくつかあった。
写真は正確に思い出を刻んでいるのに、私の中では思い出はすでにセピア色から灰色に変わってしまったようだ。
ちょっとだけもの悲しさを覚えた。
思い出のアルバムが、小学校6年生くらいになってから、私はようやく気づき始めた。
ちよちゃんからの質問が圧倒的に多い。
ともの新しい写真を見つけては、これはいつ頃の何の写真なのかを、執拗に聞いてくる。思い出を語るなんてレベルじゃない、質問と言うよりまるで・・・尋問だ。
あたかもちよちゃんは、ともの過去から何かの情報を引き出そうとしているようだ。いや、ここまで来てそうでないと言うのは、そっちの方が不自然だ。
とも、私はどうしたらいい・・・?
15.訪問(5)
「これは何の写真ですか?」
ちよちゃんがまた無邪気に一枚の写真を指差した。
「それは・・・」
覚えてる。それは・・・
「小学校の卒業式の帰りだよ」
とも、私は・・・
「あいつさ、小学生の頃ヘンな口癖があったんだ」
「へえ〜、どんなです?」
「大統領」
「へ?」
「あいつなんか小学生の頃、大統領になりたかったみたいでさ。なにかあると、私が大統領になって解決してあげる、とかわけの分からないこと言ってさ。あいつの中では大統領は神様より偉かったんだろうな」
ちよちゃんはおかしそうに笑って相槌をうった。
タイミングを図ったかのように、ちよちゃんの携帯電話が鳴った。英語で2,3何かを話すと、
「すみません。急用が入っちゃったみたいで」
あっという間だった。今度時間ができたらまた寄りますね、の一言だけを残して、ちよちゃんは来たときと同じように突然去っていった。
なんだかドッと疲れた。
電話がなった。勇気だった。友達の家でお昼ご飯をご馳走になってくる、とのことだった。適当に返事を返しておいた。
居間に戻り、イスに座るとテーブルの上に置かれたアルバムが目に入った。
ごめんちよちゃん。この写真は、本当は卒業式の写真じゃないだ。口癖のことも、本当はうそなんだ。
私は立ち上がって、棚の中にしまっておいた、ともの手紙とメモリースティックを手にとった。
とも、私・・・やってみるよ