ヨーロッパの剣は…

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 一方、戦術と運用の進歩は、皮肉にも槍兵のもう一つの長所を殺す原因となった
 槍兵の、比較的容易に徴集でき、廉価な装備と最低限の訓練で戦力化できる
という経済上の利益は、訓練と兵のモラルへ比重をかけるスタイルとは
相反するものだった
 そして、長年手塩に掛けて育て上げた精鋭は戦闘で喪ったら容易に補充できる
ものではなかった

 結局、いつの時代の軍事指導者たちも、一握りの質の高い歩兵と低練度だが
大量に揃えられる歩兵のどちらかを選択する必要に迫られることになった
 このジレンマは、ナポレオンの時代ですら完全に解決できなかった
 彼らの多くが選択した解決策は、一握りの精鋭を親衛隊として歩兵軍の中核とし、
訓練も装備も士気も貧弱だが、喪っても惜しくない徴募兵を量の上での主力とする
スタイルを選択した
 また、外交的な力学を利用して同盟国から援軍を要請することが出来る恵まれた例も
あった

 経済が未だ成熟していない理由から兵站の貧弱な時代には、精鋭の比率はまだ
戦場の最重要地点に躊躇なく投入できる程には大きい傾向にあった
 兵士としての資質がどうであろうと食事の量はたいして変わらなかったからだ

 ある程度兵站組織が充実してくると、平時から育てる手間のかかる兵士を
準備するより、戦時に大量にかき集める方が経済的だと誰もが思うようになる
過去の大帝国を担った重装甲歩兵たちが、その恐るべき威力にも拘わらず
歴史から消えた原因の一つがここにあった


そんだけ