ヨーロッパの剣は…

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646鉤をもったアルケブス
 1520年代にスペイン軍は新しい種類の小火器を開発した
 この兵器はマスケットと呼ばれる大口径のアルケブスで、野戦で使うためには
先が二股の棒で銃身を支える必要があった
 スペイン式マスケットの狙いが、アルケブスより貫通力の高い弾丸を発射することは
明白だったが、当然ながら持ち運ぶのは大変で反動も強烈だったし、当然ながら
アルケブスの限界も色濃く受け継ぐことになった
 再装填は、二股の支えが操作に苦労する兵士の手順を一つ増やすことになった
 命中精度はアルケブスと変わらなかった
 通常、重い砲は軽い小火器より高精度だったが、マスケット程度の重量増加や
アルケブスとたいして変わらない初速では目で見える利益をもたらさなかったのだ

 マスケットがアルケブスを凌ぐ唯一の利点は、弾丸が重く、より大きな
運動エネルギーを標的に与えることが出来た点だった
 マスケットは、近距離ならばアルケブスを跳ね返す鎧を貫通することが出来たし、
100メートルの距離でも貫通しないまでも衝撃で騎兵を落馬させる程度のことは出来た
 これは少なくとも軽視できない効果だったが、100メートルの距離で標的に
命中させるためには相当の好運が必要だったし、重さと反動という代償を
支払わねばならなかった
 結果、マスケットは海戦や城壁の防御、あるいはアルケブスの補助といった
長所が短所を凌げるような局面でしか使用されなかった

 マスケットは、50〜60メートル程度の中距離にいる装甲槍騎兵を標的とした時に
最も役に立った
 しかし、そのような標的は16世紀が進むにつれて野戦の状況ではほとんど
見られなくなった
 大抵の状況でマスケットとアルケブスの標的となるのは、騎兵より軽装甲で
動かずじっとしているか、ゆっくりと歩調を合わせて進んでいる槍兵だった
 このような状況ではアルケブスのほうが余程適していた
 そして、17世紀に入って装甲槍騎兵が戦場から消滅した時、呪われたマスケット
もまたその歴史的意義を失い姿を消すことになる

 ただし、マスケットという名称は肩射式火器全てに与えられるようになり、
アルケブスという名称を事実上完全に駆逐することになった


そんだけ