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「『さがみ』に近接する。左舷燃料搭載用意!」
護衛艦「せとぎり」の艦内マイクが響いた。
沖縄本島南方180カイリ。午後8時。第4護衛隊群の6隻の護衛艦は補給艦「さがみ」から
燃料補給を受けていた。
水上部隊にとって、洋上補給はいちばん脆弱になる時でもある。補給艦からの給油プローブに
繋がったままでは、敵襲を受けても迅速な反撃が出来ないからだ。
そのため、補給艦の両舷で1隻づつ給油を受けている間、他の4隻は周囲で警戒に当たっている。
給油を受けた艦は高速で離脱し、警戒位置に戻る。そして今まで警戒に当たっていた艦が、
高速で補給艦に近接する。
これだけ近距離で6隻の艦が高速で入り乱れると、見張員の視力と艦長の操艦技術が
モノを言う。他艦が近すぎて、対水上レーダーは殆ど死角になってしまうからだ。
飛行甲板直下の給油ステーションでは機関科員と運用員が暗闇の中で準備を進めている。
「せとぎり」は「さがみ」の右舷に占位する。距離索や電話線、給油ケーブルが両艦の
間に渡される。プローブが接続する。燃料が送られてくる。
「燃料搭載を開始した。指定個所での火気使用を禁止する!」
「受給終了10分前!」
次々と艦内マイクが響く。
隊員達の動きには無駄が無かった。夜間の洋上給油は平時でも頻繁に行なっている。
そうした日頃の訓練があるから、たとえ戦闘海域であっても、整然と作業が行なえるのだ。
艦長以下「せとぎり」の乗員の士気は高かった。元々同艦は第3護衛隊群の所属だったが、
現在は護衛艦「ひえい」を旗艦とする第4護衛隊群に所属していた。
開戦劈頭、訓練という名目で日本海に出動した第3護衛隊群は北朝鮮潜水艦の攻撃を受け、
旗艦「はるな」を撃沈された。
海上警備行動さえ発動されてれば、北朝鮮の旧式潜水艦くらい簡単に撃沈できた。
それが当初の政府の弱腰によって、イージス艦の「みょうこう」までもが損傷した。
結局、戦死した群司令から指揮を継承した第3護衛隊司令が独断で反撃を命じ、
敵潜水艦を撃沈した。
それ以来、第3護衛隊群の諸艦はバラバラになり、「せとぎり」も第4護衛隊群に
編入されている。乗員達はあの日本海での屈辱を晴らすことを誓っていた。