407 :
398:
「撃ち方始め!」艦長の号令が飛ぶ。
右舷側に指向していた2基の5インチ砲が発砲を開始する。
凄まじい発射焔だ。視界全てがオレンジ色の炎に支配される。
一瞬、艦橋の男たちの緊張した表情が闇に浮かび上がる。
炎をまともに見ていたら網膜がおかしくなってしまう。
砲身の下から排出される空薬莢が、乾いた金属音を立てながら甲板を転がる。
「51番、52番砲、射撃開始」
最初の数射は命中しなかった。
艦橋トップの射撃指揮装置に座る砲術長は、高速航行の突風と火薬臭い発射煙に叩かれながら
射撃緒元を修正しているに違いない。
後続の「こんごう」「さわかぜ」も発砲している。
少し遅れて、さらに後続の「ゆうだち」「きりさめ」も撃っている。
白波を蹴立てる諸艦の艦影が、発射焔で一瞬だけ出現する。
部隊が射撃を開始して1分も経たずに、敵艦から炎が上がる。
こちらの砲弾が命中したのではない。敵も撃っているのだ。
残った3隻程度の敵駆逐艦も必死だ。
補給物資を積んだ4隻程度のフリゲイトを避退させるために懸命に応射してくる。
水柱が「くらま」の周囲に吹き上がる。水しぶきが艦橋窓を叩く。
「敵艦被弾!」見張りが叫ぶ。
ひときわ明るい炎が敵艦を包む。旗艦と思われる敵の先頭艦だ。
発射する機会の無かったミサイル・ランチャーに被弾したのだろう。
5インチや3インチの砲弾の威力だけでは、到底不可能な爆発だ。
見る見る行き足を失って、燃えながら落伍していく。
残りの2隻も懸命に撃ってくる。
「くらま」の周囲に落下する敵弾もかなり近くなってくる。
吹き上がる水柱に負けじと、5インチ砲は射撃を続ける。
吹き曝しの見張員や射撃指揮装置の砲術長らはズブ濡れになっているだろう。
優勢だった。装備も錬度もこちらが優れていた。
敵2番艦も被弾し、燃え上がる。
その時だった。大気を切り裂くような鋭い飛翔音が、響いた。
ズバンッ!炎が視界すべてを支配する。窓ガラスが一斉に叩き割られる。
見張が爆風に薙ぎ倒される。
敵弾が艦橋基部に命中したのだった。
408 :
407:2001/07/01(日) 19:44
「どこだ?どこがやられたんだ?!」
応急指揮所で、応急長の1尉が苛だたしそうに聞いた。
「前部、応急指揮所、被害探知を急がれたい」
無電地電話を被った伝令が、前部応急班に聞く。
前部と後部の応急班は前後から被害箇所を探知する。
応急長は落ち着かない表情で、通路に顔を出し、爆発音のした前部方向を見る。
閉ざされたいくつかの防水ドアの向こうでは何が起こっているのか。
やがて報告が上がってくる。
伝令の報告を、ベテランの応急士の准尉が記録板にチャイナペンで被害を書き込んでいく。
「被害箇所はアスロック弾庫および2甲板士官室周辺、付近は火災の模様、熱気と煙が充満している」
応急長は応急班に指示を出しながら思った。
(幸い、誘爆はしなかった。弾庫への延焼だけは防がなくては・・・)
同じ機関科運転指揮所に位置する電機長が、寸断された電路を復旧しようと電路監視盤と格闘している。
ダメージコントロールが始まった。