>>337 「グッドイヴニング、ボーイさん」
彼の肩を叩いたのは、少なくとも1週間前まではシマダと名乗っていた男だった。
俺はレストランの従業員じゃねぇ、ボウイだ。
彼-ボウイ-は、内心でこっそりつぶやいた。
シマダに限らず、彼の名前をきちんと発音する日本人は意外なほど数が少ない。
しばらく前まで、主に六本木を根城にして女衒まがいの仕事をしていたとき、
付き合いのあったヤクザのワカシュガシラくらいなものだった。
そのワカシュガシラがタイでチンピラに撃ち殺されて以来、彼のことをボウイと
正確に呼びかける日本人はいない。
まあ、仕事は仕事だ。ボーイでもボウイでもどっちでもいいか。
ボウイはわずかに唇をゆがめ、立ち上がった。
「で、シマダさん、今日呼び出したのは何だい?」