〜起て! 萌えたる者よ〜 慶祝スレッド第七章

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215海上護衛総隊大井篤大佐
目の前を、ふわふわとまるで雲の上でも往くように軽やかに白衣の裾をひるがえしながら駆けていく少女の姿に、
大井大佐は大股の早足でついていくのに精一杯であった。白衣を着ている、というよりは、
白衣に着られている、という表現が似合う少女の姿に、ふと自分の娘の幼かった頃の姿が重なる。

すでに同じ海軍士官の元へ嫁いだ娘を、この人外のバケモノと恐れられる少女の姿をした何者かに重ねた
自分の心の動きこそが不可解で、大井大佐はその目的とする扉の前に着いたとき、あえて大きく深呼吸を
してみせた。

「ここに、貴女へ求めた助言の理由があります」

大井大佐は、木の意匠の扉の横に備えつけてある電子キーのスロットに、自分のIDカードを通し、
海上護衛総隊参謀長の職務権限として与えられている認証番号を打ち込んで、
その実際には防弾特殊鋼で作られている扉をスライドさせた。

「ようこそ、内閣国防会議総力戦研究所へ」

そこには、武道館並の広さを持った空間を取り巻くように、無数の扉が何層にも渡って上へと延びていた。
そして、本来ならばステージのあるはずの底には、まるで陣幕を張った戦国武将の本営の様な
立方体が備えつけてあった。

「見ていただきたいものは、あの「幕府」の中にあります」

「あははーっ 幕府、ですかーっ その単語を本来の意味で使う人達がいるとは、珍しいですーっ」

大井大佐は、この少女が、一見崩壊した日本語を使っているように見えて、実はかなりしっかりした
教養の持ち主であることに気がつかされていた。もっとも、そうでなければ、かの伏魔殿のごとき宮城で、
それなりの地位を築き、影響力を保持していられるはずもない。下賤の出身、というだけで差別され、
陰で笑いものにするのが、ああした公家社会の文化であるのだ。

「陸さんです、最初に言い出したのは。源氏ファンの男で、源義経の間接アプローチについて、
戦略機動という観点から研究している奴でした」

「はぇ〜 源義経ですかーっ そですね、カエサルやナポレオンのよに、騎馬歩兵を使った機動打撃を
得意としていた、日本史上では珍しい人ですーっ」

「互いの戦線が膠着しっ、対応力を失った敵に対しっ、その衝撃力を利用することで戦略奇襲を行いましたーっ
まさしく天才と呼んでも許されると、六九式は判断していますよ?」

大きな白衣の袖から見える指先をひらひらと舞わせ、身振りと共にゆらゆらと揺れる、
後頭部をを覆うような大きなペパーミントグリーンのチェックのリボンが、
楽しそうに戦争について語る少女の言葉とは対象的に華やいで見える。

あまりに場違いな少女の姿に、施設に務めている研究員が遠巻きにして自分達を見ていることに気がつき、
大井大佐は、軽くせき払いをして少女を促した。

「それでは、こちらへ」