〜起て! 萌えたる者よ〜 慶祝スレッド第七章

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123醍醐旅団長
旅団長の手記

 殿下の拳が振るわれた。
 それは本物の怒りが込められた拳であった。
「廣瀬、どうして隠していた!?」
 それは、新潟長野におけるC国NK国による蛮行……暴行と略奪と虐殺の記録であった……。
 私は独断でそれらを隠し、殿下には御見せせぬように手配していたのだが、明敏なる殿下に早くも気付かれたようであった。
「全てを御覧になり把握したい殿下の御気持ちは判ります! しかし、婦女子に御見せしてよいものと悪い物があると判断し、この件は私までで留めてくました!」
 珍しく私は毅然と応える。譲れなかった、これは僅か十七歳のうら若き乙女に見せるものではない。
「廣瀬!」
 もう一度、私に拳が振るわれる。私は殿下の働きからは想像できぬような華奢で美しい手が痛まれるのではないかと案じた。
「いかに殿下であろうと、譲れません」
 殿下と私の視線が交錯しあう。思えば、こうしてにらみ合ったのは久しぶりかと思う。
「廣瀬……」
 しばしの睨み合いの後、殿下は肩を落として今度は私に懇願するように言った。
「私はいかなる悲惨であろうと、それから目をそらす姫君ではいたくないのだ。だから頼む、私に全てを知らせてくれ!」
 それは……私が殿下から聞く始めての懇願であった。心が葛藤する、怖かったのだ。この記録を見て、殿下が御変わりはしないだろうかと。ただ、それだけが怖かったのだ。
「頼む……」
「はっ」
 私はVHD三枚に圧縮された膨大なる記録の数々を殿下にお渡しした。
 無言で退出される殿下の背を見送りながら、私は祈る以外なにも出来なかった。
 全てを見られたあとで、殿下が殿下であられるように……。ただそれだけを……。
 祈るしかなかった。