1 :
ベンゼン元中尉:
ロシアの光景も飽きてきた。ベンゼンは粗末なトラックに載せられ、はるかなでこぼこ路をひたすら進んでいた。
ベンゼンはコールバッハ将軍との酒の席において、将軍好みのロシアの金髪娘に手を出したのが問題となった。金髪はロシア語で意味不明なことをまくし立てていた。
「ベンゼン、君は何をしたのだ」
「この女が私をからかうもので、つい手を挙げてしまったのであります」
「君はドイツ軍人として反省せねばなるまい」
そしてベンゼンは軍法会議にかけられた。勿論無実を主張したが受け入れられはしなかった。彼は官位剥奪、懲罰部隊行きとなってしまったのだ。
「今でも、信じられない」
ベンゼンはそうつぶやいた。ロシアの小娘に手を挙げてほほを打つことぐらいのことで、ベンゼンはこうなってしまったのである。戦闘時には英雄的な彼も、所詮人の子であったのだ。
粗末な輸送車には、大勢のベンゼンの仲間達が声を荒げていた。政治犯、刑事犯、軍規違反。挙げればきりがない。
「くそったれ」
ベンゼンは自分を叱咤した。
やがてトラックは止まり、ベンゼン達は荷台から降ろされた。彼らの周りには広大な自然のみが、横たわっていた。
「いいか、貴様等はドイツ軍人の風上におけぬ、馬鹿ものだ。いいか。今日から貴様たちは、ここに配属された。貴様達の仕事はここの地雷撤去作業だ。ここには無数の赤軍の地雷が埋まっている。ただそれを貴様達は掘り出せばいいのだ」
少尉はつかつかとベンゼンの前に進み出た。
「貴様が元中尉のベンゼンか」
「俺は無実だ」
「ふん、もうお前は終わりだ」
ベンゼンは悔しさに拳を握り締めた。
「ここでは貴様も一兵卒に過ぎん。それも最前線任務を受け持ってもらう。士気は貴様に任せる。ただ一言いわせろ、脱走したら今度は命がないぞ」
ベンゼンは周りの連中を見て、声を挙げた。
「ここに集合せよ、ここの指揮は俺に任された。いいな。俺の言うことを絶対と思え、さもなくば、惨めな屍になるぞ」
トラックと少尉が消えたあと、彼らは手にスコップを持ちベンゼンのもとから離れていった。各自地雷を掘る任務についたのであった。
つづく
で?どうしたの?
3 :
製パン車:2000/07/27(木) 00:05
旧ソ連の軍人は、「平時には必要ない。」と言っていた。
戦時には?
世界に1000人、CIAに300人というSAPIOの落合信彦さん自慢の情報源
にしても、落合さんの元夫人の明美さん(91年に離婚)は周囲にこう話している。
「あの人はなんでもオーバーに話すんですよ。ともかく大げさなの。
中東でメガネが吹っ飛んだなんて話を子供にしていましたが、
私は信じていません。
自分が大物であるかのように振る舞うのが癖になっている。
誇張癖とでもいうのでしょうか。CIAの知人なんて誰一人知らないわ(笑)。
きっといないと思いますよ。そんな人達から電話がかかってきたこと
なんかありませんし」
落合さんと長年付き合いのある集英社の編集者すら、知らないと言う。
元夫人も出版社も落合さんの情報源を知らない、それどころか
「いないのではないか」と言う。
バカ雑誌SAPIOの落合信彦さんは何を考えながら原稿を書くのか。
5 :
名無しさん@そうだ選挙にいこう:2000/07/27(木) 00:23
やはり電波か…。
6 :
ベンゼン中尉:2000/07/28(金) 00:37
ベンゼンは虚空を仰ぎ、懐かしい音がどこからか聞こえてくるのを耳にした。
「リリーマルレーン」
ロシアの大地に這いつくばり、地雷を掘り出す兵士達がいる。彼らの耳にも届いているはずだ。
だが、彼らのドイツ人気質は任務の遂行を最優先にさせているようだ。
そのとき、「バリバリバリ」と激しい銃声が聞こえてきた。顔を上げればイワンどもが突進してくるではないか。
「すると、先ほどの歌は奴等が」
ベンゼンは怒鳴った。
丸腰の兵士達はイワンどもに対し、無抵抗で命を落としていった。
「総員退却」
ベンゼンはそう叫ぶが、銃声に彼の声はかき消されてしまった。ベンゼンはゆういつの武器であるスコップを握ると、草むらに身を伏せた。
「あいつらの小火器が手に入れば」
ベンゼンは唇をかみ締めた。
「ベンゼン中尉、助けにきましたぜ」
この声は彼のもと部下のハイドリヒではないか。
「ハイドリヒ、貴様よく俺の事がわかったな」
「ええ、ここに懲罰部隊666がいると聞いて、飛んできました」
ベンゼンの手にハイドリヒ軍曹はMP40を渡した。
「いいのか、お前も俺の共犯にされちまうぞ」
「ええ、いいですよ。誰も見てはいません」
「よし、撃って出るぞ」
ベンゼン達の銃口が火を噴いた。
「ウラー」
イワンどもの雄たけびが辺りに響く。
至近距離から銃弾を浴びて、崩れ落ちるイワン達。ドイツ軍部隊を蹂躙するところを、思わぬ敵がのをイワン達は悟った。
ベンゼンの姿が巨大になって、彼らの前に立ちはだかったのだ。
つづく
ベンゼンかあいそ…
悪いのはもとふみんなのね
これは復讐劇なのね
8 :
自営業:2000/07/28(金) 14:16
なんて事、いうねん!
猥褻行為、俺だってしたかった。
9 :
ベンゼン中尉:2000/07/29(土) 02:56
激しいイワンの攻撃により、丸腰の懲罰部隊の兵士のほとんどが戦死してしまった。
ロシアの大地は人の血を呑み込みあのベンゼンさえも、銃弾を受けた。
だが、幸いかなベンゼンの肩を貫通した銃弾よりも、彼の心は阿修羅のように怒りの形相となっていった。
「ハイドリヒ、イワンの奴等を一人も生かすんじゃねえ」
ベンゼンはそのまま、敵に向かって突撃した。まるで死を恐れぬ死神のように、ベンゼンは弾丸が無くなっても、仲間の兵士が到着しても、彼は戦うことを止めなかった。
「こら、ベンゼン。何をしている」
例の憲兵将校がベンゼンの肩に手をかけた。
「貴様、俺の肩に触れるな」
ベンゼンは少尉を蹴り上げる。
「貴様、こんどこそ、銃殺にするぞ」
少尉の声もこれが最期であった。少尉はイワンの銃撃により敢え無い最期をとげたのだ。
「ざまあみろ、馬鹿野郎。戦争はプロに任せればいいものを」
ベンゼンは大きな声で笑った。
ドイツ国防軍兵士の反撃によって、イワンの攻撃は阻止された。スモレンスクはやがてドイツ軍の手に落ちるであろう。
「ベンゼン中尉、これであなたの活躍が認められれば、元の部隊に復帰できます」
ハイドリヒのうれしそうな笑顔があった。鉄の男ベンゼンは一人虚空を仰いだ。
「貴様、俺はいかなる場合でも、ドイツ軍人であることを忘れやしない」
イワンどもは大勢の屍を曝して後退していった。懲罰部隊666は全員負傷、もしくは戦死をとげた。あの男を除いての話であるが。
「なあ、ハイドリヒ。今の敵はやけに弱くなかったか。いや、奴等は偵察部隊の可能性すらあるぞ」
そのとき、ベンゼン達をめがけ、スターリンオルガンの一斉射撃が加えられた。ソビエト兵の残党がまだ残っていたのだ。
「危ない」
ハイドリヒは体を伏せた。ベンゼンは一人爆風の中を起き上がった。
つづく
10 :
ナイツ:2000/07/30(日) 10:42
将校は伏せるなっ!
11 :
ベンゼン中尉:2000/07/31(月) 00:38
横の林からカチューシャの一斉射撃を受け、ベンゼン達は敵の反撃に脅えた。だが、この数台の兵器はすぐにドイツ軍兵士により、地上から抹殺された。
疲れきった顔を上げてベンゼンは自分の肩の傷口を押さえたままゆらゆらと歩きだした。
戦場にはまだ無数の兵士の遺体が折り重なるようにして倒れていた。
彼らの流した赤い血をロシアの大地は吸いつづける。硝煙の香りと異臭のなか、ベンゼンは懲罰部隊の兵士達を探した。いや、遺体を捜した。
「奴等のタグさえも回収は困難か」
ベンゼンは唇をかみ締めた。ベンゼンの心には善悪の術もない。彼は自分の本能に極めて忠実な男であった。だが、彼の心を乱したのは彼が懲罰部隊のただ一人の生存者であるという事実であった。
「奴等め、よほど榴弾を打ち込みやがって」
ベンゼンの回りには大きな穴が口を開けていた。その中を覗くと、人の肉片やら、ヘルメットやらが散乱していた。
首の入ったヘルメットが無造作に転がっているのだ。
「この野郎」
ベンゼンはイワンの死体を思い切り蹴り上げた。ただ、憎しみのみこみ上げてきたのだ。
「中尉、ご無事でしたか」
ハイドリヒの声ではないか。ベンゼンは笑顔で答える。
「おい、俺は中尉ではない、俺は貴様と同じ兵士にすぎん」
そして彼は肩を押さえると苦痛にゆがんだ顔をさせた。
「ベンゼン中尉、なぜあなたは一人なのです」
「馬鹿野郎、俺は自分の部下を捜しに来たまでだ。お前は第一なぜ、ここにいるのだ」
「私は中尉の身柄の確保の為です」
ハイドリヒはベンゼンの肩の傷を見た。
「中尉、早く戻りましょう。早く手当てを受けましょう」
ベンゼンは煙草を吹かす。
「俺もそろそろ潮時な気がするんだ。なあ、貴様はいい上官にめぐり合えればいい。しかし、しかし俺は沢山の部下の命を奪ってきた。分かるだろう、俺の命令はときに尋常でなくなることも、自己弁護ではないが、俺のやり方で戦闘をしなければ、我が軍も未来がないぞ」
「私はそんなことを考える暇はありませんでした。中尉の抜けた穴は大きく、我が部隊は多くの戦死者を出してしまいました」
ベンゼンは息を吐いた。
「その話は野戦病院で聞かせてもらうよ」
二人はそのまま、しばらく歩きつづけた。嫌な思いを忘れるために。
つづく
12 :
ベンゼン元中尉:2000/08/02(水) 00:23
ドイツ軍は総統のモスクワ攻撃の一時中止を決め、クリミア半島攻撃に兵を差し向けた。この間約一ヶ月である。
ソビエトはモスクワ方面に軍を集中していたため、ドイツ軍はある程度の戦果を上げることは出来た。
だが、モスクワ戦を開始したのは十月に入っており、誰もが年内にソビエトは落ちると思っていたのだ。
ベンゼンは野戦病院のテントに横になってラジオに耳を傾けていた。彼は特にベオグラード放送から聞こえるリリー・マルレーンを聴いては、望郷の念に駆られるのであった。
この一人の男が同時に二人の女性を愛するという曲は、ドイツのみならず、連合国将兵にも支持された。この曲の流れる時間になると、戦闘が中断され、敵も味方も聞き惚れたのである。
ベンゼンの野戦テントには重症患者が多く、うめき声を上げては苦しんでいた。ベンゼンはベッドから起き上がると、テントを抜け出して、ロシアの壮大な光景を見た。どこまでも続く友軍の軍需物資を輸送するトラックの列がどこまでも続く。
そのとき、シュビムワーゲンに乗り込んだ将校の顔が見えた。彼等の服装から、憲兵将校であることは分かった。車は野戦テントの前に止まり、中から将校たちが降りてきた。
「このテントにベンゼンがいると聞いているが、知らんか」
衛生兵はベンゼンの方を指さした。
「ベンゼン、貴様によいプレゼントだ」
憲兵将校は胸から、ベンゼンの懲罰部隊666での働きが書かれた紙を出した。
「貴様はよほど悪運の強い男だ。あの戦の中をよくぞ生き抜いた。これは恩赦である。
師団長、コールバッハ将軍から特別な計らいがあってな、今からベンゼンはもとの階級の中尉に戻す。
「了解いたしました」
ベンゼンは頭を垂れた。
「あと三日もあれば、貴様は戦線に復帰できるであろう。今に、我がドイツ軍はモスクワを落とす。これで貴様も勝利の美酒が飲めるだろう」
ベンゼンは無心で敬礼をした。
「言い忘れたが、私の名はべック大尉だ。貴様とはまだまだ顔を合わせる気がする」
「私も同様です。これからの活躍に期待してください」
べック達は声を上げて笑った。ベンゼンは彼等のことを内心憎んでいたが、笑顔を繕った。
「もう一度、総統にご奉公ができるぞ。頑張れよ」
或る将校が言った。
彼等はその後、無駄話をしてまた何処かへと消えていった。ベンゼンの今後は如何に。
つづく
13 :
ベンゼン中尉:2000/08/04(金) 00:27
十月にモスクワ攻撃は開始された。モスクワを占領すれば、ソビエトは負けたも同然なのだ。ベンゼン達もモスクワ攻略の前線に出る。
しかし、路は全て泥の海と化している。車両やバイクは足を取られ、前進できず。
ベンゼンは動けぬ軍隊に苛立ちを覚えた。まるで人力で前進しているような速度である。
敵はモスクワに大群を終結させている。制空権は我々が握っている。
モスクワ爆撃は連日行われ、戦果をあげている。そう。この泥が固まりすればいいのだ。
勝利はほぼ、我がドイツ軍の手中にある。全兵士がそう確信していたのだ。
今のところ、士気の低下も見られない。士気の低下は軍隊にとって大きな問題だからである。
アフリカ戦線ではイタリア軍の士気が低く、わが軍が彼等をコルセット状にガードする戦法を取っていると聞く。知将ロンメル将軍だから持っている戦線である。
地面はしだいに固まりだした。だが、それは冬将軍の到来を暗示するものであった。
「通信兵、本部と連絡を取れ」
「ベンゼン中尉、ワーグナー少佐です」
ベンゼンは受話器を取った。
「ベンゼンです。少佐、最前線はモスクワのどの辺りまで、進出しているのでしょうか」
「モスクワまで300キロの地点だ。君等の部隊と合流できれば力づよい。勝利はわが手中にあると思いたまえ」
グーデリアン将軍のG集団はモスクワ目指し突撃をした。だが、ソ連軍は手ごわい。特に我々を恐怖に貶めたのが、ソ連軍のロケット兵器の存在である。通称カチューシャである。
精度こそ悪いものの、集中使用における効果はすさまじく、恐怖で発狂した将校もいたのだ。前進するたびに、我々の仲間が倒れていった。
我々が前進しすぎたために、今度は補給が追いつかない有様だ。そして、一ヶ月もしない内に気温はさがり続け、数日にて零下40度を記録した。
つづく
14 :
ベンゼン中尉:2000/08/06(日) 02:13
ヒトラーは短期決戦を予想していたために、ドイツ兵たちは冬の装備を持たなかった。
やがて、冬の装備を持たぬ、多くの兵士たちは凍死していった。あの、フランス戦を、ポーランド戦を戦いぬいた猛者の多くが、ロシアの土と化したのである。
ナチスに洗脳された若い将校たちの多くは世界一優秀なドイツ民族。世界に冠たるドイツ民族と信じた心は引き裂かれたのだ。
ベンゼンは最前線から遅れること20キロと迫った。
ある日の出来事である。ベンゼンの部隊は休息をとっていた。連日の戦いから、兵士達は半ばうずくまり疲れた体を休めていた。すると、突然砲声が鳴り響いた。
「中尉、無線です。第一分隊のヒルマンが現在ソビエト軍と交戦中、応援を請うとのことです」
「第二分隊のクラーマーからの、報告です。敵戦車部隊が前線を突破した模様です」
ベンゼンは飛び起きた。
「了解、以下のことを伝えろ、前線に留まって無駄死にするな。小隊本部まで退却を急ぐこと」
ベンゼンの心に不安の影がよぎる。本部といえども、重火器はない。肉薄攻撃のみ活路を見出せる考えられる。敵のT34,KV1に比べ、ドイツ軍の戦車は明らかに及ばない。我がV号、W号戦車は集団活用時のみ有効なのだ。
ベンゼンは無線の受話器を取り上げた。
「こちらベンゼン小隊、左翼より敵戦車部隊の攻撃を受け交戦中。至急戦車部隊の応援を願います」
ベンゼンはMP40と双眼鏡を持ち、本部を出た。戦場は彼の本部の手前までに及んでいた。
辺りを見渡せば、逃げまくる友軍兵士たちの姿があった。その後から、キャタピラの音と共に、敵戦車の姿があった。ベンゼンが双眼鏡で覗けば8両もの敵戦車である。あの特徴のある砲塔から、T34であることが分かる。その後にイワンどもが続く。
「迫撃砲、発射準備だ。友軍が戻り次第、発射しろ」
ベンゼンの声が戦場に響き渡る。ベンゼンはなおも、自ら軽機関銃を手にする。もうもうと、砂塵や煙の舞う中を友軍兵士達は無事帰還を果たした。
「迫撃砲撃て」
ベンゼンが叫んだ。砲弾は敵戦車周辺に着弾する。
「ベンゼン中尉、敵戦車は8両います。イワンも歩兵一個大隊はいるかと思われます」
ヒルマンが報告した。
「ヒルマン、時期に戦車隊の応援があるはずだ。それまで持ちこたえるぞ」
部隊には50ミリ対戦車砲が二門残っていた。砲兵はタングステン製の新型鉄鋼弾を装填する。以前の砲に比べ、威力は絶大である。
現段階の敵戦車との距離は1000メートルあろうかと思われる。最低でも600メートルまで引き付けなければ貫通は出来ない。
敵戦車の砲声が一段と近づき、大地が揺れる。
つづく
猥褻なり
喝ァーーーーーー!!
16 :
ベンゼン中尉:2000/08/07(月) 22:48
ベンゼンは立ち上がり、棒付手榴弾をベルトに3本、ブーツに各1本ずつ突っ込んでいる。人は彼を不死身の男と呼ぶ。
度重なる死線を潜り抜け、ベンゼンは生き残ってきた。ときにそれは苦痛にさえ感じられたのだ。
ドイツ軍人には二つのタイプがある。まずユンカー出身の貴族達、そして他のひとつはベンゼンの様に生きる場所を失った若者達である。
ベンゼンは人の愛を知らない。ましてや人を愛することなど知りもしない。彼の心にある感情はただひとつ。生きること、それも戦争は彼には生き残る為の戦争であるのだ。
対戦車砲がたちまち2両のT34を破壊した。1両目は砲塔に穴をあけ、砲塔が吹き飛んだ。2両目は側面に砲弾が貫通した。新型砲弾の威力は素晴らしいの一言に尽きる。
だが、敵戦車の格好の標的になった対戦車砲陣地に砲弾を集中させた。ベンゼンはMP40を片手に戦場を走る。イワンどもは最後の雄たけびをあげて次々に倒れていった。
「戦車砲、右40度に敵戦車だ」
砲兵は素早く装填し、発射した。3両目の敵戦車も破壊された。
次の瞬間ベンゼンの側に敵戦車の砲弾が炸裂した。衝撃で四散する砲兵達。運よくベンゼンは無傷であった。だが、耳をやられたらしい。戦場の音が全てかき消されていた。
ベンゼンの回りには苦痛にうごめく友軍達がいた。対戦車砲陣地は無残にも、破壊され、砲はあるが操作する兵士の姿はない。
「今いくぞ」
ベンゼンが叫んだ。片腕を押さえ彼は対戦車砲陣地転がるようにして入る。
「敵戦車は5両だ。ひるむな、撃つんだ」
「中尉、照準手もおりません、みな負傷しております」
耳の聞こえぬベンゼンはその兵士の言うことをだいたい理解できた。
敵戦車はベンゼンめがけて砲弾の嵐を降らせる。
「貴様等、死にたいのか」
ベンゼンの叫びにも似た怒声が響いた。
つづく
17 :
ベンゼン中尉:2000/08/10(木) 00:42
ベンゼンの聴力はいつしか戻っていた。
「ハンス手伝え」
「中尉、クラーマー曹長が負傷しました」
「衛生兵がくるまでは大丈夫だろう」
「ええ、でもイワンどもが侵入してきます」
ベンゼンは無線でヒルマンを呼び出す。
「ヒルマン、クラーマーが負傷した。第一分隊はイワンどもを追い返せ」
「了解です」
ヒルマンは最前線に消えた。
ベンゼンは無線機を放り出すと、対戦車砲を確認する。
「まだ使えるぞ、いいか、装填しろ」
ベンゼンはハンスが砲弾を装填するや自ら照準し、発射した。
T34の斜行した前面装甲を貫通し、大きな爆音を残す。
「この調子だ」
ベンゼンは自らもう一発発射する。もう一両の戦車にも、命中した。
彼の周りには負傷した友軍兵達で溢れていた。砲声と兵士達の最後の叫びがベンゼンの心に火をつけた。
「くそ、前方の師団もこれではもたんぞ」
事実、モスクワ正面軍はソビエト軍の必死の反撃にあい、進撃はおろか孤立していたのだ。後方からキャタピラの音が響き渡る。
「援軍がきたぞ」
兵士達は喜び合う。ベンゼンの頭上を越え、V号戦車より発射された砲弾はT34戦車に命中した。大きな爆発音が響き渡る。
「ワーグナー少佐の援軍部隊だ」
そう、兵士らは歓喜の声を挙げた。兵士達の士気もあがる。4両のV号戦車の援軍により、形勢は完全に逆転された。
「よし、イワンどもを遣るぞ、俺につづけ」
ベンゼンは再び浮き足だつソビエト軍兵士へ攻撃を命じた。
逃げ惑うイワン達を今度はドイツ軍が壊滅させる番だ。ベンゼンはMP40を撃ちまくりながら戦場を駆ける。彼はヒルマンの部隊と合流するや、追撃戦を開始した。
「ウラー」
雄たけびをあげ死んでゆくイワン達。瞬く間にイワンの死体が山のようになった。敵戦車はドイツ軍の反撃で、全て破壊された。戦場には燃え上がる戦車の炎と、硝煙の香りが辺りに立ち込める。朦々と敵戦車から黒煙が立ち上っっている。
「一方的な展開だ」
ベンゼンは叫んだ。逃げ行くイワンもドイツ兵により、次々に大地に倒れた。
「ベンゼンより各兵士達へ、戦闘を終了せよ」
ベンゼンが呼びかける。負傷したクラーマーがベンゼンの横に立った。
「どうだい、歴戦の勇士も形無しだな」
「ひどいですぜ中尉、こんなの傷のうちにはいりません」
「まあ、煙草でも吸えや」
ベンゼンは自分の胸から煙草を取り出すと、クラーマーに投げた。
戦闘は終了した。敵は戦車8台を失い、歩兵一個大隊は壊滅に近い損害を出した。ドイツ軍は対戦車砲一門を大破、戦死者20名。内砲兵が6名。圧倒的なドイツ軍の勝利であった。
「ベンゼン中尉ですか」
見慣れぬ戦車兵がベンゼンの前に立っていた。
「私はベルガー少尉です」
「今回は君等に助けられた。戦車部隊の応援なくしてはこの戦線を持ちこたえるのは困難だっただろう」
「中尉、少佐からの指令です。本隊と合流し、モスクワ戦に備えろとのことです」
「モスクワかね、ははは」
ベンゼンは笑った。今の攻撃は何なのだ。恐らくモスクワ最前線では二十四時間の死闘が演じられているのだろう。
つづく
18 :
名無しさん@そうだ選挙にいこう:2000/08/17(木) 15:54
コピーののび太は、何処迄も暢気なドラえもんの顔に向かって、思わず殺すと言う言葉をもろに浴びせ掛けた。しかし、ドラえもんは臆する事なく、本物ののび太の代わりに、コピーののび太の鼻先へその指のない拳を突き付けてきた。コピーののび太は首を左右に激しく振り回し、自由の利かない両腕をばたつかせて鼻を庇いながら、声を荒げて泣き付いた。
「ドラえもん、お願いだから僕の話をちゃんと聞いてよ。確かに僕はドラえもんの言う通りコピーなのかもしれないけど、けど、矢っ張り信じられないよ。だって昨日犬に追いかけ回された事も覚えてるし、一昨日ドラえもんの出した可笑しな道具で大変な目に遭った事も覚えてる。ホラ、僕がスネ夫のラジコンを壊しちゃってドラえもんに泣き付いた奴だよ、確か、そうだったよね、ドラえもん。絶対に夢なんかじゃない。確かに僕が壊したんだよ。スネ夫のラジコンを踏んじゃった時グシャって音がして、こっちの足の裏だったんだよ。凄く嫌な感じで。そうだ、それからタイムマシーンが壊れて恐竜時代に取り残された事があったよね。ドラえもんと静香ちゃん、後ジャイアンとスネ夫もいたんだっけ、みんなで色んな冒険をしたじゃないか。覚えてるだろ、ドラえもん。ええっと、他には、ああっ、そうだ、そんな、どこかに行ってどうしたとか言うより、もっと大切な思い出があった事を忘れてたよ。初めてドラえもんが僕の机の引き出しから出て来た時の事。あの時は本当に驚いたよ。だって、行き成り机の引き出しが勝手に開いて、見た事も聞いた事もない物が出て来るんだもの。僕を一人前の大人にする為の手助けに来たとかって言われても全然ピンと来なくてさ。でも、いつもへまばかりして誰も相手にしてくれなかった僕の話を聞いてくれる人が出来たって言うだけで、とっても嬉しかったのを今でも良く覚えてる。ドラえもんはどんな時でも僕の味方だったじゃないか。」
コピーののび太は、例え自分がコピーであっても、野比のび太である事に変わりはない事を何とかして伝えようと、ドラえもんの眼を確りと見詰めて離さずに、思いの丈をブチ撒け、訴えた。しかし、ドラえもんは本物ののび太の方に顔を向けると、
「普通コピーされた人形は、コピーした人の言う事を聞くように出来てる筈なんだけど、多分、犬に体を囓られてどこか可笑しくなっちゃったみたいだね。」
いとも容易く可笑しくなっちゃったみたいの一言で片付けてしまった。行き場をなくした魂の叫びは、コピーののび太の胸の内に虚しく響き、貧相なその鳩尾を一発で突き破った。
ドラえもんと言う心の支えを失ったコピーののび太は、次第にドラえもんと言う物自体が何だったのか判らなくなってきた。今、自分の目の前をウロチョロしている頭でっかちの青い塊を、今迄ドラえもんと呼び、親しんできたが、何故こんな変梃な物に信を置いていたのだろう。コピーののび太が裸の眼で見たその物体は、のび太を助ける為に未来から遣って来たと言うその位置付けも薄らいで、ドラえもんという名前の響きすら、既に怪しく溶け出していた。
「助けて、ドラえもん。」
19 :
ベンゼン元中尉:2000/08/17(木) 21:07
>22
どうもこんばんは、上手な文章ですね。
ageしたことは書けとのことですか。
20 :
ベンゼン元中尉:
モスクワ前線のドイツ軍はクレムリンまで十六キロの地点に迫った。
だが、ドイツ軍部隊の前には強大な敵が、後には車両を失った友軍兵士の姿があった。前線では弾薬の欠乏が激しく、もはや攻撃をことも出来ない。
最前線ではドイツ軍兵士がモスクワのモスクを遠くに望む地点で、足が止まったのだ。補給のない我が軍はソビエト軍の激しい反撃の前に、ひたすら消耗していったのである。
それはまるで、ソビエト軍の罠にはまってしまったようなものだ。補給は来ない。気温は零下四十度というのにコートすら全軍に回らないのである。
ウールの戦闘服のみでは、この寒さから逃れることは出来ない。
ソビエト軍の大口径砲の一斉射撃が始まる。大きな振動が我々を襲う。爆音に耳は痛められ、着弾付近の友軍は肉片となって散る。
あるのは死のみ、死神の高笑いが響き渡る。グーデリアンの部隊では兵員の六割を失い、ほうほうの手段で退却した。
十二月に入り、ドイツ軍の足は完全に止まった。凍てついた大地にタコツボを掘るも出来ない。地上に身を横たえるのみ。
戦いも白兵戦が主流である。自分を守るのは自分の小銃のみ。凍てついた大地のあちらこちらに戦死した友軍兵士の屍が転がる。その多くの兵士は死んだ姿勢のまま凍りついていた。
頭上に降り注ぐ砲弾の雨、地上を全て焼き払う地獄の炎、地獄は生きている者にも訪れていた。