海防艦三宅戦記 輸送船団を護衛せよ(光人 NF) 浅田博 著
戦後に三宅の戦友会を立ち上げ、回想録を募り、防衛庁戦史室に通い全般作戦を把握しと、大変な労力を注いで
完成した戦記。
記述(134P)によると著者は電測室で13号電探の操作にあたっていたらしい。戦時中に就役し、敗戦後に触雷しつつも
呉に帰還するまでの二年に満たない年月での船団護送の作戦それぞれを時折、戦争全般の戦況の推移を交えつつ
書いている。
海軍が護衛に用いた艦艇のなかでは装備も優秀で新鋭であり、数少ない優良油槽船の南洋との往復や、急遽、陸軍兵団を
諸島に送り込んだ松輸送などに参加し、南洋の泊地では乾坤一擲の作戦に敗れ戻ってきた主力艦群を目撃もしている。
前半は敵潜に対する警戒と船団を無事に護送しおえて門司に到着した安堵、呉でのつかのまの休養と整備の繰り返し。
後半になると敵は潜水艦のみではなく、まず敵空母機動部隊が通商路を破壊すべく放つ艦載機が登場、南洋を無事に渡れるのは
主力艦艇群が多大な犠牲を払っているか、あるいは敵が大規模な上陸作戦を他方面で発起したか、たまたま他の軍港を襲撃していたか
といった僥倖によるのみとなる。
このような状況を踏まえつつも筆致は暗澹たることなく、三宅の行動を追っていく。下士官の視点ゆえ具体的にどのような
判断を艦長が下していたかなどは描かれないのだが、そこは戦況全体を後々に振り返り、当時の水兵としての所感から十分に
補えている。
今、戦争を経験された年代はそろそろ特攻で出撃直前に敗戦に至ったとか、予科練や各航空隊で錬成中だった方が多く
なっていると思う。今後は銃後と軍隊の雰囲気を伝える回想録も多くなっていくのではないか。