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名無し三等兵:
世間の大きな誤解に、
「7月の南部仏印進駐が石油禁輸を招いた為に日本は開戦した」というのがある。
しかし、事実は、実質的な禁輸はアメリカの「石油製品輸出許可制」が完全実施された、
6月21日からである。
その後は、一滴の石油も入手できなくなっていたのだ。
陸軍省整備局燃料課は
「6月21日の決定」で、もはや進退きわまった、降参だ、という結論に達していた。
こうなれば蘭印を占領して活路を見出すしか道がない、というのが主務課としての結論で、
一刻も早くそのことを上層部に連絡する必要に迫られていた。
東条陸軍大臣に、6月23日、このことを説明しに行った陸軍軍人の回想、
大臣室で陸軍航空燃料需給の資料を持って東条陸相に石油需給予測が切羽詰った状況を説明した。
一瞬、沈黙があった。「それでどうなんだ」東条陸相が口を開いた。静かな調子だった。
「したがいまして、一刻も早くご決断を・・・」皆まで聞かず、陸相が口をはさんだ。
依然として穏やかな口調であった。
「泥棒せい、というわけだな」
N課長がハッとたじろぐのを、私は見た。
同時に私自身も、陸相の口から、泥棒という思いがけない言葉が出たのを聞いて頭が混乱していた。