軍事板書籍・書評スレ44

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552岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM
某所の論争を見ている方は察しつくかもしれないが、
以前紹介した『プルトニウム』でも査察を扱った項の最後に登場している人物だ。

核査察に関しての当事者本の著者としては、これ以上ないですなぁ
(後述するように、もう一段下位の実務家の本も和訳されている)。

実のところ、『プルトニウム』は1990年代で終わっており、
イラク問題を受けて作られた追加議定書を扱うにも、UNSCOMの査察を総括するにも
まだ早すぎた点がある。査察の他に、大量破壊兵器開発を制約するための
キャッチオール規制も、未整備だったしね。

一方、核不拡散関連の制度解説本、レポート、白書は多々あり、2000年代以降の状況を知ることはできる。
査察の有効性について考察した研究もある。

しかし、本書の価値は「査察を実際に不穏な国に実施した際の記録」であるという点にある。
マニュアル的な本とはそこが違い、記述に血が通ってくるわけだ。
その意味では、本書のような本こそ、「詳細な」査察記録と言える。
「書評家」が「○○が無い」と嘆いてる場合、その書評家自身に問題があることが多いが、実際には
日本という国は、こういった分野でも、文献を「最低限」揃えて世間に問うことは上手く、読む側にも
情報収集という点でのリテラシーが問われる(とあるバカ共のザル監視網と言ったら!)。
553岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 00:46:43.79 ID:???
ブリクス氏は元々、IAEAを退職した頃から本を書きたいと考えていたものらしく、また、話の必然性から、
序盤70ページほどは1990年代の査察活動(国連はそのためにUNSCOMという組織を作った)に当てられている。


冒頭部にはオシラク空爆に対するIAEAの姿勢もあり、『プルトニウム』で著者が述べていた。
「警察官ではない」という言葉には、歴史的な含みがある引用であったことが分かる。


この冒頭二章が個人的には興味深かった。

UNSCOMはIAEAと組み、査察活動を実施し、初期を中心に大きな成果を挙げたそうだ。
良く指摘される空間サンプリングの重要性の話は出てきた覚えはない。
重要なのは核開発を目論んでいた機材、文書を押さえることとされていたそうだ。
また、UNSCOMは列強の情報機関と近すぎたため、中立性を損なったと90年代末に猛烈に批判され、
UNSCOMの解体につながったたという。
実際、査察情報を提供する見返り目当てに接近してきた機関があり、
143ページにはUNMOVICにも似たような情報共有の要望が出されていたことが書かれている(著者は拒否した)。

三章からはイラク戦争前のUNMOVICによる査察の話にスライドしていく。
人選、機材の手配での苦労や工夫など、この辺は小ネタにも事欠かない。
果ては国連の機関が投宿したホテルが特需に沸いていたとか、観察記としても面白い。

また、会った元首クラスの人物の発言と主張から、思考を推量する過程も興味深いものがある。
個人的には、シラクの慧眼は光るものがあった。この件では情報機関を正しく活用できたようだ。

だが、査察と戦争を総括した最終章を除いて、本の後ろ半分(目分量)位は2003年年明け以降の記述。
査察の準備を始めたのは2002年の春頃だったので、後ろに行くほど時間の進みが遅くなる構成だ。
俺は、太平洋戦争と違って、それほどイラク戦争の開戦経緯にこなれた知識を持ってないので、
正直、似たような交渉と査察活動の報告が延々と繰り返されるのを読んでると疲れてくる。
554岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 00:47:27.62 ID:???
その査察活動だが、イラク戦争で大した根拠もなくアメリカに肩入れしまくった連中には苦い記述が続く。

まぁどことは言わないが、批判できる相手が小林よしのり位しか残らなかったせいで、
戦争の展開を丁寧に追うことなく、日頃嫌っている右翼雑誌のWillまで動員して、
異様に自己正当化と珍説批判だけ充実させた変なサイトを見ていては、
決して分からない実情が書かれている。
ま、ああいう連中はドヤ顔で唾飛ばしながら「パワーポリティックスだ!何が悪い!」とか喚いて
自分が大統領にでもなったかのような態度をとるクズだから、どうしようもないけどね。

査察団の結果に正面から疑問を呈したのはアメリカ只1国だけ(P318)
一国の政府から史上初めて向けられた根拠のない批判(P331)等。
この一国がイラクのことではないのは、言うまでもない。

結論はシンプル。湾岸戦争以降の査察活動は極めて有効であり、イラクの大量破壊兵器開発能力は
完全に抑制されていた、というもの。UNMOVICの活動を見ていると、一部の例外(274ページのミサイルの廃棄など)
を除き、屋上屋を重ねる感が伝わってくるものであり、127ページには、1994年以降は文書しか見つかっていない
旨の指摘がなされている。つまり、UNSCOMと組んだ初期の査察が殆どの成果を挙げていたのであろう。
555岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 00:49:16.14 ID:???
本編以外で気づいた点。

【1】
260ページから2003年2月の安保理会合の様子が書かれている。理事国の外相達が直接討論したそうで、
日頃は大使に指示を出して大使達は演説原稿の確認をするのだそうだが、この日は指示者自身が討論したため、
各国の政策の流れこそ逸脱してないものの、その場で原稿に頼らない発言が交わされたという。
逆に言えば、外国でも官僚制のくびきがあることが分かる。

【2】
274ページから数ページ続くアルムードミサイルの廃棄の描写。イラク側は様子を撮影して公開しないように
希望し、そのように取り計らったのだという。理由は、イラク側は自主開発にプライドを持っており、
要は壊されるのが忍びなかったのだそうだ。この点からも、万事仰々しく押し付ける姿勢が、結局はマイナスに
繋がっていることが分かる。何、日常でも良く目にする光景だ。

【3】
また、『戦争報道の内幕』を読んだ方なら自然に理解できるだろうが、マスコミの信用に疑問が投げかけられてるのは
洋の東西を問わないようだ。我が国の西洋かぶれがクオリティペーパー扱いしたがるNYTだのWPだのが、発言を捏造したり
、観測目当てのいい加減な記事を書いていたことが批判的に挙げられている。著者も何度か標的になったほか、
何度も会談相手となったライス氏も報道被害にあった旨、紹介されている(284ページ)。

【4】
また、90年代の査察にかかわった人物でも、デビッド・ケイという査察官の描写からはやや功名心のある人物像が
感じられた。アメリカ人だからか、主張は米国よりで終始著者を批判(中傷に近い)したという。
一方で、スコット・リッターというUNSCOMの査察官は、映画顔負けの査察作戦を実行して結果を出したことが
本書で紹介されている。なお、スコット氏の本は開戦前に合同出版より出ているのだが、査察により大量破壊
兵器は破棄されたと、ブッシュ政権には批判的だ。出版元は平和人権系のところだが、興味深い話でもあり、
この本も予約した。
556岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 00:50:02.82 ID:???
ま、色々書いたが、イラク戦争の横顔を眺めるのに使っても良し、過去の紛争や査察の研究に役立てても良しと、
600円(送料込)でコレクター品を入手したにしては十二分に読み応えのある本だった。

今のIAEA事務局長は日本語を母語にしている。退職後、ブリクス氏のような、忌憚のない回顧録を期待したい。
557岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 01:11:21.65 ID:???
妙に有名だなと思って調べてみたらスコット・リッターは猥褻行為や賄賂など問題のある人物なのか。
うーむ。
558 忍法帖【Lv=15,xxxPT】 :2012/02/22(水) 01:15:42.40 ID:???
以外と有名な事実ですの!?♪。
559名無し三等兵:2012/02/22(水) 01:22:24.93 ID:???
狂犬に手を差し出す人はいないだろうけど、いちおう誘導
http://anago.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1329148458/
560名無し三等兵:2012/02/22(水) 01:26:39.04 ID:???
別に書評だからそんなに目くじらたてなくてもいいんじゃないか?反原発のめんどくさそうなんではなくて一応核兵器関連っぽいし。
NGしちゃったから真面目には読まんが。
561岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 01:55:46.25 ID:???
原発の本は(軍用関連の記載ない限り)別の場所で書評。
反原発本は似たような内容が多く、選ぶのに苦労するが、書評するならやっぱり別。

そもそも親原発だって別の意味で色々面倒くさいが、
軍に関係ないのに(日本の原発なら尚更)やたらめったら評していいことにはなるまいに。
562名無し三等兵:2012/02/22(水) 02:29:47.59 ID:???
>>559
イワミンです。
書評も文献探しもしない奴が何ほざいてんだw

と名前欄を名無しで言っておく。
563名無し三等兵:2012/02/22(水) 06:48:01.19 ID:???
>>468
釘宮の吹き替えで出してほしいの (´・ω・`)
564名無し三等兵:2012/02/22(水) 06:49:49.40 ID:???
若本の方が…
565名無し三等兵:2012/02/22(水) 06:52:01.80 ID:???
>>466
当事者たちと仕事してた戸高氏ならではかもしれない。
分からないことは質問してたらしいし、爺ちゃん達も
それが嬉しくていろいろ教えてたらしい。
きっと家では話す相手、特に息子孫がいなかったのかもしれない。
566名無し三等兵:2012/02/22(水) 08:42:16.47 ID:???
>>552-556
で、一体何を読んだの?
567名無し三等兵:2012/02/22(水) 10:41:51.36 ID:???
>>560
書評と称して憎悪剥き出しの私怨晴らしを
いつまでもこのスレで許容するわけには行かないよ
これは誰が書いた「書評」でも同じことだ
568岩見浩造 ◆Pazz3kzZyM :2012/02/22(水) 12:46:06.52 ID:???
あ、すいません。
忘却作用っす。全部記憶してらんないんす。心療内科的には海老ングハウスっす。

夜書評したのは下記。

ハンス・ブリクス『イラク大量破壊兵器査察の真実』DHC,2004年

著者はイラク戦争前にイラクの査察を担当していた、
国連の大量破壊兵器査察団(UNMOVIC)の団長を務めた人物。
ちなみに1981年から1997年まで16年IAEAの事務局長を務めています。